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新釈古事記伝  作者: りんたろう


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41/51

40.キビヒコとナガスネヒコ その5

 その日の夜、ウマシマジの館はスサノオたちを招き入れ盛大な宴が開かれた。盛大と言っても男たちにとっての盛大だ。とにかく大量の肉と魚と酒、そして僅かな野菜と果物がはじのほうに置かれている。

「これはこれは!」

 スサノオは歓声を上げた。

「いきなりこんなに用意するのは大変だったでしょう?ありがとうございます!」

 ニニギも大喜びであった。

「ニニギ様がそろそろお帰りになる頃だろうと、少しづつ集めていましたの。」

 皆を部屋に案内したウマシマジの母であるミカシヒメがちょっと得意げに言った。

「因幡とオオクニヌシが戻って来れてなくて残念だな。あいつらこれを見たらうらやましがっただろうな。」

「でも、因幡はあんな見た目でかなりの大食漢ですから、いたら分け前が減っちゃいますよ。」

 確かに~っと男たちが声を揃えて笑った。

 そんな男たちを見渡して、ミカシヒメはにっこりして言った。

「では、わたくしはこれで退室いたします。あとは皆さまで楽しまれてください。足りないものがあれば、呼び鈴を鳴らしていただければ。兄上たち、後はよろしくお願いいたします。」

 残された5人の男たちは、話よりも腹を満たすのが先とばかりに食べ物に飛びつき、お酒をがぶがぶと飲み始めた。



 皆と同じように飲み食いしながらナガスネヒコは村での出来事と、その後に訪れたキビヒコとの会話を思い出していた。ナガスネヒコから話を聞いたキビヒコは、神という存在に意見を述べ、楯突こうとする人間がいることに驚いた。しかも神のお膝元とともいえるこの葦国中原にまでも。

「高天原が完全封鎖された100年間、人が天津神に触れる機会がほとんど無くなってしまったのがいけなかったのか・・・。100年は人にとっては長く世代も変わってしまうからな。

 国津神も人との交わりで血が薄れ、神としての畏怖が薄れているのかもしれない。

 しかし、ニニギ様に害をなそうなどと、とんでもないことだ。人が天津神を傷つけることができるとは思えないが、万が一そんなことになったら・・・地上が天罰で呪われ(のろわれ)るぞ。」

「呪われる?!」

「ああ。一応私が父である国津神の後を継いでいるから、私のみへの伝授となっていたが・・・。

 天津神様は我らとは別の高次元の存在だ。この世界の理と言ってもよい。その理を低次元に生きる人が傷つけたら、当然だが世界のバランスが崩れ、それが呪い(のろい)として体現されることになるそうだ。もしもそのようなことが起こった場合は、天津神と人との間にいる我ら国津神が体を張って中和するようにと言いつかっている。その時が来たら方法はわかると言われているが・・・。」

「力ずくでお止めするということか?」

「力で止めるなんて、国津神が天津神に勝てるわけがない。それに、このあたりにいる国津神も数人程度だ。もし力づくだとしたら本当に無謀だ。とにかく、宴の後にスサノオ様たちにお時間を取っていただくようお願いしておく。ナガスネヒコは後片付けが済んだらスサノオ様の館に、宴の残りのお酒を届けるとか言って来いよ。」

「ありがとう!ちょっと安心したよ。」

 ナガスネヒコは頼りになる兄からの言葉に心底ほっとした。



 そんなことを思い出しているナガスネヒコをよそに男たちはさらに食べすすめ、食事はあらかたなくなってしまった。

「いやー、やっと腹が落ち着いた。何かつまみながらまったりと飲むとするか。」

 スサノオがちょっと膨れた腹をパンパンと満足そうに叩いた。

「スサノオ様、つまむものなんてほとんど残ってないじゃないですか。」

 若いニニギはまだまだ食べ足りなかったようで、取り残された野菜をかじりながらブーブーと文句を言ってた。

「いやはや、本当にスサノオ様の胃袋はすごいですね。今日は因幡もいないのに食べ物が足りなくなるとは!」

 お酒が回ったのか、ウマシマジは笑い転げながら呼び鈴を鳴らし、食べ物とお酒をもっと持ってくるように言いつけた。

 新たに追加されたのは大量の魚の干物であった。

「ニニギ様に助けていただいた村の者が届けてくれたそうです。」といって置いて行った。

「ニニギ大活躍だもんな。」

「そういわないでください!僕だって因幡やオオクニヌシと一緒が良かったですよ。一人じゃ寂しいんですから。」

「何を言ってらっしゃるんですが?つけてさしあげた鷹のナツヒコがすっごく仲が良くって、めっちゃ可愛がられているって言ってましたよ。」

「いや、そうだけどさー。」

 スサノオとキビヒコのからかいに照れるニニギにウマシマジが言った。

「私もニニギ殿みたいに色々なところをいつか旅してみたいです!今回の活躍のお話聞かせてくださいよ。あ、その前にお魚どうぞ!!この一番大きい奴、是非ニニギ殿に!」

 そう言って、大人の顔よりも大きな干物を恭しく奉げ、苦しゅうないとニニギがふんぞり返りながら受け取った。若者たちのおふざけを大人たちはニコニコと見守り、ニニギは大きく口を開け魚にかじりついた。

 その瞬間、部屋に黒い稲妻のような光が多数走った。


 

「何が起こった!」

 スサノオがそばに置いていた太刀を手にとった。

「ニニギ様の口から血が!」

 キビヒコの叫び声に全員がニニギを振り返ると、口に当てられたニニギの手の端から血がしたたり落ちていた。

「神と言えども口の中まではやはり丈夫ではなかったのだな。」

 先ほど魚を持ってきた男が広間の入口に立っていた。

「ハハハ!ウマシマジ様が一矢を報いるのをお助けできたぞ!」

 その目は狂気を宿していた。

「ウマシマジ様こそこの世の神!それ以外の神などいらぬ!!天に帰えってしまっ・・・」

 その男がすべて言い切らぬうちに部屋を飛び回っていた黒い稲妻の一部がその男をつら抜き、外へと飛び出した。ナガスネヒコが男に駆け寄ると体に大きな穴が開き絶命していた。

「ナガスネヒコ、ウマシマジ殿、外にでた稲妻を見てきてくれ!」

 スサノオの号令に二人が駆けだした。



 ナガスネヒコとウマシマジが外に走り出すと同時に扉を閉め、スサノオとキビヒコはニニギに駆け寄った。

「大丈夫か!?」

「干物に針のようなものが仕込んであったようです。血は止まりましたが、まだとても痛いです。」

 口から小さなウニのような金属の塊を吐き出した。

「噛んだ瞬間、球体から針が飛び出して口内を串刺しにされました。」

 話している間も部屋には稲津が飛び交い、したたり落ちたニニギの血から稲妻がさらに増えていく。

「こ、これが天津神の呪い(のろい)・・・?。」

 キビヒコが稲妻と穴の開いた男を見比べていると、男の体が突然真っ黒の霧状のかたまりになったと思ったとたん、床下の隙間に吸い込まれていった。

 3人があっけにとられていると、ナガスネヒコとウマシマジが走りこんできた。

「大変です!あの稲妻が手当たり次第に生き物を襲っています!! って、稲津が増えている!?」

 慌てて扉を閉めた。

 部屋を満たす稲妻は、光ってはいるものの5人を害する気配は全くなく、触れても何も感じかあった。

「我らには無害なようだな。何があった?」

「外に出た稲妻が手当たり次第に生き物を襲っています!襲われた生き物は先ほどの男のように穴が開いて死ぬのですが、あれ?あの男は?ひょっとして霧のようになってしまいましたか?」

 ああ、と3人が頷くとナガスネヒコとウマシマジは顔を見合わせた頷いた。

「その黒い霧が別の生き物の体に入り込み、凶暴な化け物に変化させ、さらに人を襲っています!!」

「なんだと!大変ではないか!!稲妻はそのあと何処に行った?」

「稲妻は、ある程度の数襲うと自然に消えてしまいました。我らの太刀で稲妻に切りかかってみたりしたのですが、何もできず・・・。申し訳ございません!!」

「この稲妻を外に出さなけれ被害が拡大することはないと思うが、こうもどんどん増えてくるとなると我らも外に出られないな。」

 スサノオの言う通り、滴ったニニギの血からは稲妻が絶え間なく湧いて出てきていた。

「申し訳ございません!!」

 突然ウマシマジが額づいた。

「あの男が言っていた不満が民の間にあるのを、ニニギ様との間に不和を引き起こそうとする輩がいることを気付いておりながら知らぬふりをしておりました!此度のことは私のせいです。お許しください!!」

「いえ、ウマシマジ様のせいではございません!民を見ているはずの私が、妹に言われるまで気づかなかったのがいけないのです!その後も人が天津神様に害をなすなどできないと高をくくっておりました。」ナガスネヒコもウマシマジに並んで額づいた。

「私もです。」

 キビヒコが額づく二人の横に並んだ。

「宴の前にナガスネヒコから相談を受けていたのに、久しぶりに憂いなく皆で楽しみたいと先延ばしをしてしまったのです。こんなに早く動くわけがないと侮っておりました。宴を中止にして先にご相談すべきだった。本当に申し訳ありません。」


「我らとて口の中までは丈夫でないからな。」

「正直、こんなことされちゃうと悲しい気持ちになるけど事態の収拾が先だね。」

 スサノオとニニギは頷きあった。

「キビヒコ、さっき天津神の呪い(のろい)と言っていたが、何か知っているのか?」

 キビヒコは父である国津神から伝授された内容を二人に伝えた。

「へーそんなこと、初めて聞いたな。」

「僕も聞いたことありませんでした。」

「天津神に楯突く人間などいるはずがないとのことで、天津神様がたには伝わらなかったのでしょう。」

「で、国津神によって中和ってどうゆうことかわかったの?」

「・・・はい、この状態になって自ずとわかりました。」

 決意を込めた目で見上げてくるキビヒコにスサノオとニニギは軽くのけぞった。

「え?なに??そんな大変なことなの?」

「無理しないでいいから。しばらく部屋にこもっていたって平気だし。」

「いえ、これ以外方法がないこともなんとなくわかってしまいました。

 中和とは、我ら国津神の血を天津神様が傷つかれて流された血と、そこから湧いた稲妻にかけることです。

 ・・・この場にいる国津神の血を持つものは私とナガスネヒコのみ。我らは純粋な国津神ではございませんが、幸いにしてこぼれたニニギ様の血は僅か。すべての血をささげることで何とかなりそうです。」

「何言ってるんだ!?」

「何言っているの!?」

 キビヒコの言葉にスサノオとニニギは悲鳴に近い声を上げ、ウマシマジは茫然とキビヒコを見つめた。

 ナガスネヒコは、額づいたままピクリとも動かななった。

「ここでしばらく籠って他の方法がないか考えようよ!」

「オオクニヌシを急いで呼び戻すし、他の国津神を呼び寄せても良い!」

 二人は必死にキビヒコの考えを変えようと言い募った。

「いいえ、一部ですが稲妻が外に飛び出て神の呪い(のろい)が始まってしまっております。籠っている場合ではなく、早急に対応しなければなりません。そしてオオクニヌシ様をはじめ純粋な国津神は大幅に減っており大切な存在です。危険にさらすわけにはまいりません。

 ・・・なにより招き入れるためには扉を開かねばならないじゃないですか?こんなに稲妻がパンパンなのに?こぼれだしますよ。」

 イヤイヤ全く、スサノオ様だけでなくニニギ様までうっかり屋さんですねー。とキビヒコは茶化すように言って肩をすくめた。


「いやだ!!ナガスネヒコ!キビヒコ!僕の血で、僕の血で何とかして!」

 泣き崩れるウマシマジをキビヒコは優しい目で見た。

「スサノオ様、今回の事件をうまく利用したいと思います。

 ウマシマジ様に仕えるナガスネヒコとその兄キビヒコがニニギ様に不満を持って害をなそうとしたと。

 ウマシマジ様の説得により悔い改め命を持って償ったとしてください。ウマシマジ様は知らなかったとはいえ、配下のしたことに責任を感じ、ニニギ様に忠誠を誓われたと広めていただければ分裂も防げるうえに、ニニギ様の反体制派取り締まることも容易であり、不満も起きにくいかと存じます。」

「そんなの嫌だ!」ウマシマジが絶叫した。

「いえ、それが一番よろしいかと存じます。」

 ナガスネヒコが顔を上げた。

「スサノオ様、ニニギ様。本当に申し訳ございませんでした。

 兄上も本当に申し訳ない。一緒に旅立とう。

 ウマシマジ様。我らはあなた様を愛しております。国津神の血を引く我らは記憶を持って転生するる可能性があります。きっとまたお目にかかれます。どうかご健勝でいらしてください。」

「ありがとう、ナガスネヒコ。共に逝こう。

 では、スサノオ様、ニニギ様、ウマシマジ様、我らの自害をお目にかけるのは申し訳ないので壁をむいていただけますか?」

「ちょっとまて!キビヒコ!!

 そんなに逝き急ぐな!

 ナガスネヒコもキビヒコも言い残したい相手がいるだろう??」

「・・・それを言われたくないから、急いだんですよ。

 何か言い残したらウワハル様が私が転生する可能性にかけちゃうかもしれないじゃないですか。どれだけ待たせるかわからないじゃないですか。あの方には幸せになっていただきたいんですよ。」

「・・・それを伝えておく。何もないのが残される側としては一番つらいだろ。言われたことにどう判断を下すかはウワハル殿の自由だ。」

「わかりましたよ!」

 キビヒコはつんと横を向いた。

「ナガスネヒコはシタハル殿にか?」

「シタハル様にはもしまた会えたらまた親友になってくださいとお伝えください。

 もう一つなのですが・・・。彼女を・・・ニニギ様への反対勢力を率いて巫女と呼ばれている彼女とその取り巻き達の生を終わらせてください。お手を汚すことになり申し訳ありません。」

 え?とキビヒコとスサノオがナガスネヒコを見た。

「私の幼いころからの想いを気遣って、彼女を目こぼししてくださっていたのは気づいていました。直接血を流させずとも彼女たちは文字通りずっと諸悪の根源でした。今回のことは元をただせば想いを吹っ切きれなかった私の甘さです。」

「・・・わかった。苦しみや痛みがないように生を終わらせよう。」

 スサノオの返答にナガスネヒコは嬉しそうに笑った。


「では、皆さま壁のほうを向いてくださいますか?」

 キビヒコが明るい声で改めて言った。

「それはだめだ。自害は苦しみが長引く。

 俺が一太刀でお前たちを送ってやる。そしてもちろん魂魄には印をつけて見失わない。」

「スサノオ様にそんなことをさせられません!!」

「侮るな!俺は神だ。

 人や国津神とは違うのだ。お前たちを今生から解き放ち、来世に迎え入れてやるだけだ!」

「・・・でも涙目ですよ。」

「ゴミが入ったんだ!」

「ありがとうございます。ではよろしくお願いいたします。

 我らの血は勝手に中和作業に入ると思いますので、その後についてはご安心ください。」

「それも自ずと分かったのか?」

 はいと、キビヒコはにっこり笑い、まだ泣きじゃくっているウマシマジと泣きそうな顔をしているニニギに壁のほうを向くように促した。

「お二人とも仲良くされてくださいね。妹のこともよろしく頼みます。」

「ああ、そうだな。妹のことをよろしく頼みます。」

 ナガスネヒコもそういうと、二人でスサノオに頷いて見せた。



「ではまた来世で!」

 スサノオはそういうと、二人の首に太刀を浴びせた。



 スサノオの太刀は素晴らしい切れ味で二人の首を落とした。首から流れ出はじめた血に向かって稲妻が吸い込まれていき、白い光を発した。その光の強さに壁を向いていたウマシマジとニニギも振り返った。

 すべての稲妻が二人の首から身体に流れ込んだと思うと、二人の体が光る霧のようになった。その霧が床にこぼれたニニギの血に吸い込まれたかと思うとすべてが消えていた。スサノオによって落とされた二人の首さえも。

「伯父上!」

 ウマシマジが膝をつき、スサノオが肩を抱き、ニニギを見た。

「因幡とオオクニヌシをすぐに呼び戻せ。」

 ニニギは頷くと鷹のナツヒコを空に放った。

重いです

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