4.高天原へ
あの後、私と共に地面に倒れこんでいた父上は立ち上がり、肩を震わせながらも足元に咲いていた菫の花を美しい着物にかえてアマテラスに渡した。
さすが国生みの天津神。
母上の好みの意匠の着物だという説明が娘心をくすぐったのか、アマテラスは着替えてからことさらおしとやかに振る舞っている。
だがわたしのことはまだ怒っているのか、横目でじっとり睨んでくる。
父上みたいになにか作り出せれば良いのだけど、わたしにはまだちょっと難しいので、とりあえず褒めておこうか。
「ちょっと、とりあえず褒めておこうとか思ってないでしょうね?!」
なんて鋭いんだアマテラス!
「アンタ顔に出すぎなのよ!」
ついにアンタ呼びか!仲良し姉弟のようじゃないか〜!
「嬉しそうな顔しないで!!」
「鼻水つけてすみませんでした。
そろそろ今後の確認とかしてもいいでしょうか?」
スサオミが困った顔をして、アマテラスとツクヨミを見た。
・・・どうやら一番しっかりしているのは我らの末弟のようだ。
咳払いを一つしてイザナギは話し始めた。
「君たちに再度感謝を。
私は必ずイザナミを鎮め、取り戻すことを誓おう。
先程も言ったが、まずは知恵の神であるオモイカネに相談するために高天原へ戻ろうと思う。」
「父上、失礼ながらオモイカネ様は信用できる方なのですか?
黄泉国へ母上を迎えに行くことを提案された方と伺いました。
それが謀の始まりだったということはないのですか?」
ツクヨミが尋ねた。
「うーん、あいつはそうゆうヤツではないんだ……。」
イザナギは困ったように返事をした。
「とてつもなく頭が良くて未来を知っているんじゃないかと思うほどだし、
自身が必要と見極めた目的のためにはいろんなものや人を切り捨てれるやつなんだけど……。」
「そのような方なら、父上を目的のためのコマと考えておられても不思議ではないのでは?!」
声を荒げるツクヨミに更に困った顔をしてイザナギは言った
「…………あいつは、オレが大好きなんだ。
なんかわからんが、昔からというか、最初からオレが大好きでオレの望みを叶えることを最大の目的の一つにおいている。
ちなみに恋愛的な意味ではないぞ。あいつは自分の妻と子供を溺愛しているからな。
ヤツが言うには”己の魂を揺さぶる存在”なんだそうだ。
オレ達が高天原に降り立った当初はクールな感じで、オレがまとわりつくと適当にあしらわれていたんだが、いつの間にか満面の笑みを浮かべるようになってな。
なんかあったんだと思うのだが、、、、ちょっとあまりにも照れ臭すぎて理由なんて聞けないだろ?
とにかく!その頃から一切ぶれていない。
だから今回のことにヤツの思惑は絡んでいないと思っている。」
いまひとつ信用しきれない顔をして見ている子供たちに対しこう締めくくった。
「とりあえずオレの髪の中に隠れてヤツの様子を見てくれれば良い。
信用ができないと思ったらすぐに逃げろ。」
「父上がそこまで仰るならそのようにいたしましょう」
アマテラスが皆の顔を見渡してから返事をした。
「黄泉国をふさぐ岩の隙間をすり抜けたオニやムカデたちも高天原を目指すと思われます。
いずれにしても早くお伝えすべきでしょう。」
アマテラスの提案に皆大きく頷いた。
もう一度、スサオミとスサノオに鏡での通信手順を確認した後、スサオミと順番に固く包容をした。
「あっという間に迎えに来るから!!」
目を真っ赤にして誓うスサノオの肩に手をおいて、アマテラス、ツクヨミ、スサノオはアリほどの大きさに小さくなり、イザナギの髪に飛び乗った。
「では行こう。
スサオミ、迎えに来ることに全力をかけるよ。」
黄泉国のほうに目を向け口の中でイザナミの名前をつぶやくと、イザナギは天を見上げて手を伸ばし、光りに包まれて消えた。
見届けたスサオミは、一つうなづくと黄泉国の入り口を塞ぐ岩の方に歩き出した。
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