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新釈古事記伝  作者: りんたろう


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37.キビヒコとナガスネヒコ その2

 「さあ、初仕事だ。」

 キビヒコは鳥たちを送り出した。

 転生させる魂魄はスサノオたちと共に選んだ二人。それぞれに鳥人2羽と鋼鳥3羽をつける。

 一人はオニムカデに襲われそうになった我が子をかばって亡くなった母親。因幡とオオクニヌシが子供を助け出したが母親は間に合わず、その際に魂魄が毒素に侵された。息絶える時に、因幡たちにお礼を繰り返しながら亡くなったということだ。再び人間の女性として生まれ変わる。

 もう一人は村で暴動の主犯格だった男。毒素を持った魂魄が転生した人間だった。村の長になり替わったが、傍若無人の振る舞いに、元の長の子らが決起し打ち取られた。魂魄についた毒素はかなり濃い。こちらも再び人間の男として生まれ変わらせることとした。

 本来の魂魄の転生先の性別、生き物の種類、時期、場所は基本ランダムである。ただし輪廻の輪に神が介入した場合、これらの操作が可能となる。

「初めてだから監視しやすいように近くにしてもらったんだけど、お隣同士にしたのは近すぎたかな?」

 キビヒコは鳥たちが飛んで行った空を見上げて呟いた。

 その日、葦国中原からそう遠くない国の小さな村にある二つの家で、それぞれ男の子と女の子が生まれた。


 ◇ 


 彼らが暮らす村は山奥にあり、争いごとと言えば子供の喧嘩ぐらいだった。二人の親たちは同じ日に子が生まれたこともあって非常に仲が良かった。子供のことで気になることといったら、周りで鳥をよく見かけるなということぐらいで、リクとハナと名付けられた二人はすくすくと大きくなった。さらに、村の周囲にたまに感じていたオニムカデの痕跡もすっかり消え、平和そのものであった。

 しかし彼らが5歳になった頃に事件が起きた。村の長が大切にしていた高価な首飾りが無くなり、それがリクの部屋で見つかった。リクは親から怒られるとともに、なんでこんなことをしたのかと問い詰められた。しかし、彼は理由を言うどころから謝りもせずに下を向いたきりだった。


「うーん、彼の心が怒りでたぎってるね。」

 鳥たちの目を通して映像が、キビヒコの前の鏡に映る。ウワハルと共に開発した装置である。鳥たちの目を通して映る生き物が感情の色をまとって鏡に映るのだが、リクは怒りで真っ赤に染まっていた。まだ5歳のリクがこんなに怒るなんて、自分の家族かハナやその家族のことぐらいだろう。

「ハナはどうしているのかな?」

 ハナの鏡をのぞくと、悲しみの青色に染まったハナが自室の机で泣きながら何かを直していた。鳥人にもう少し近づくように指示をするとバラバラになった木の実で作った首飾りを直していた。

「なるほどね。」

 それは一週間前のことだった。ハナが自分で作ったその首飾りを、長の子供が頂戴とせがんだ。ハナが拒むと無理やり奪おうとして引きちぎったのだった。二人は真っ青になり、引きちぎったほうは逃げ帰り、ハナは半べそになりながら飛び散った木の実を拾った。子供同士の諍いとしてはありがちと言えばありがちな話。相手の子も後で謝りに来たしハナも許した。ただ壊れたものは簡単には直らず悲しいものは悲しい。そしてリクにとっては大切なハナがこんなに悲しむ羽目になったことが許せなかったのだろう。ただ時間がたっている上に、当事者同士では謝罪と許しがあった。ハナのための仕返しに結びつけるには長の首飾りは高価すぎたし、そもそも仕返しはよくないことだ。

「きっと彼はこうやって自分を歪めていってしまったんだろうな。さてどうしたものか・・・。」

 悩んでいるところにスサノオがやってきた。

「よっキビヒコ、どんな塩梅だ?」

「ちょうどリクの感情が怒りに染まっているところです。どうにかならないかなと。」

 キビヒコが経緯を説明すると、スサノオがフムと腕組みをした。

「俺もそんなことがあったなー。姉上と兄上が喧嘩して、二人はとりあえず仲直りしたんだけど姉上を泣かせた兄上が俺としては許せなくってさ。兄上が寝ているすきに寝床におねしょみたいに水を撒いたんだ。すぐ俺だってばれてめっちゃくちゃ怒られた。俺としては姉上のために仕返ししたのに、姉上にもあきれ顔で見られちゃって悔しかったな。でも、悔しくて泣いてる俺に姉上が辛抱強く理由を聞いてくれてさ。理由がわかったら抱きしめて、ありがとう、だけど仕返しはだめよって。」

「いい話ですね。参考になります。」

「ただその後、やーいおもらしツクヨミって大爆笑してたけどな。」

「リクの場合は笑い話にするのは難しいですが・・・。ですがなるほど、言葉が足らなかったと。」


 その夜、それぞれ子供たちと共に眠る両親の枕もとで、鳥人に声真似をさせた。

「だって、ハナちゃんが悲しんでいるんだもん。」

「壊された首飾りがまだ直らなくてとても悲しい。」

 それぞれの親ははっと目が覚め、子供の顔を見た。寝言と思ったのだ。

「そう・・・。ごめんね、夢に見るほど悲しかったのね。」


 リクもハナも翌朝目覚めて一番に両親に抱きしめられた。

「ハナちゃんのためだったのね。気づかなくってごめんね。でもね、ハナちゃんはきっと仕返しよりも一緒に首飾りを作り直してくれたほうが喜ぶわよ。朝ごはん食べたら長のところに話に行こう。」

「そんなに悲しかったなんで気づかなくてごめんね。許してあげていたからもう良いのかと思って。一緒に木の実をもっと集めて、もっと豪華なのを作ろうか?あ、リク君にも作ってあげよう!」

 二人はそれぞれの親に抱き着いてわんわん泣いた。


 その後、リクは親と長のところに行き、首飾りを盗んだ理由を親に言葉を補ってもらいながら説明した。もちろん仕返しはよくないことだが、これからは子供たちの内面にもっと寄り添おうと、最後は長もリクの親も感動しながら握手を交わして終わった。ハナは親と一緒に木の実を集めて家に帰ると、リクだけでなく長の子供まで木の実を抱えてやって来て、一緒に首飾りをたくさん作る幸せな時間が待っていた。


「なるほどね、言葉が足らないと悲劇につながり、言葉を足すとこんな結末になるのか。これに対応していくのか?大変すぎるよね?いったいどうしたもんだろう?」

 今回の結末に満足したものの、これからを考えると頭を抱えてしまうキビヒコだった。



 その後も順調に日々は過ぎ、リクの言葉足らずで起こる問題は、鳥人たちによる寝言もどきで解決していった。そんなある日、別な大きな問題が起きた。オニムカデが村に出たのだ。村の周辺は鋼鳥たちによって見回りが行われ、オニムカデが少しでも近づくと威嚇して追い払っていた。その中、地下の水路を通ったのか、村の池に突如として現れたのだった。

遅れました・・・。

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