36.キビヒコとナガスネヒコ その1
結局、鳥たちは以下のようになった。
ウワハルが直接呪いを掛けた鳥たちが30羽、その30羽が普通の鳥との間に産んだ鳥たちのうち、長寿で人の言葉が話せる鳥が20羽、そして今回、卵の部屋から孵化した鳥がゴーマを含めて38羽、合計88羽の大所帯となった。卵の部屋の鳥たちは、皆ゴーマと同じように人の体に鳥の頭、鳥の羽をもって孵化し、ニニギによって鳥人と名付けられた。今後、どのように成長していくのかは本人たちもわからないとのことだった。
鳥達の編成を任されたキビヒコは悩んでいた。鳥人は空も飛べ、人の言葉を話す上に人の体を持つことから手先も器用である。素晴らしい!しかし、いかんせん見た目が目立つ。魂魄が転生した先で、周りをウロウロしていたら気づかれるうえに、下手すれば化け物扱いで大騒ぎになるだろう。それに普通の鳥の見た目の者たちは50羽のみ。この先、新たに見つかるの可能性は少なく、手が足りなくなってくるだろうことは想像に難くない。鳥人達はキビヒコ達の役に立つことを楽しみにしているし、卵の部屋には孵化する可能性のある卵たちがまだまだいる。だが見た目が云々を鳥人達に告げるのは心が痛む。うんうんと一人で部屋にこもって唸っているところに、孵化したウグイスの鳥人達を連れてナガスネヒコがやってきた。
「兄上。」
「ナガスネヒコ、どうした?」
「俺のウグイスの鳥人、兄上にお願いしたくって。俺はウマシマジ様にお仕えすることになるから一緒に入られないんだよね。」
ナガスネヒコの両肩と頭に乗った鳥人達がしょんぼりしており、ナガスネヒコが俺も寂しいんだけどねと指で鳥人のほっぺをぐりぐりと撫でた。
「ああ、任せておけ。大事にする。」
「頼むよ!ところで何を悩んでいるんだ?」
キビヒコは、ちょっととナガスネヒコを鳥人達から引き離して部屋の隅に連れていくと小声で悩み事を告げた。
「なーんだ、そんなことですか!」
ひそひそと頭を寄せて話していた二人が驚いて振り返ると、後ろでウグイスの鳥人達が腹を抱えて笑っていた。
「言ってくれたらいいのに。」
「この見た目が好かれるってゴーマが言うからこの格好をしていたのに~」
ねーっと顔を見合わせて頷くと、身体全体を光らせた。
光が消えると、普通のウグイスがキビヒコとナガスネヒコの前にいた。
「え?普通のウグイスに変化できるのか?」
「ちがいます。普通の鳥に見えるように体の周りに映像を作ってるんです。」
「これくらい朝飯前です。」
「だから服も着たままです。」
「すごいじゃないか!」
キビヒコとナガスネヒコは驚きの声を上げた。
「これは見破られないのか?」
「うーん、神力を持った方には見破られてしまうかと思います。」
「なるほど、天津神であるウワハル様の呪いから生まれたから、神力のある方には本当の姿が見えてしまうのかな?」
「国津神の血を引く我らには鳥にしか見えないな。」
「一応、皆さまに見ていただいて確認を取ろうか。」
スサノオ、ニニギ、因幡、オオクニヌシ、スセリビメ、そして人間のタツキとムツキが、キビヒコの部屋にやってきた。スサノオ、ニニギ、スセリビメには鳥頭の小さな人間が見え、オオクニヌシ、因幡、タツキ、ムツキには普通のウグイスが見えた。
「なるほど、天津神と国津神の血を引くスセリビメには本当の姿が見え、純粋な国津神であるオオクニヌシと天津神であるが神力を失っている因幡、そして人間のタツキとムツキにはウグイスに見えるのか・・・。
因幡、耳環の神力を目に纏わすことは出来るか?」
「はい、やってみます・・・っと鳥頭の小さな人間に見えました。」
「神力越しに実体がみえるのか。天津神であるニギハヤヒ殿の息子のウマシマジ殿には本当の姿が見えてしまうな・・・。なるべく屋敷内をウロウロしないほうがいいな。だが、転生した魂魄についていかせるのには問題ないな。」
「というか、実体は人の形をした身体を持っている分、監視対象に何かあったときに手助けしやすいかと思います!」
「そうだよな!手があるもんな。」
キビヒコとナガスネヒコが顔を見合わせて頷き、なるほどとスサノオが手を打った。
「しかし、こんなことができるなんて知らなかった・・・。」とニニギがちょっと複雑な表情で言った。
「だって、鳥頭の僕のこと可愛いってほめてくれるから、これがいいのかなって。」
もじもじしながらゴーマが言った。
「とりあえず、他にどんなことができるか鳥人達に聞いてみてくれ。」
スサノオはキビヒコ達に言うと、じゃ、仕事があるからまた何かあったら呼んでくれと帰っていった。
他の者たちも、私も仕事の途中で来てしまったのでと去っていった。
「ナガスネヒコは大丈夫なのか?」
「いや、俺もウマシマジ様との打ち合わせがもうすぐなんだ。そのあと一緒に見回りに行くことになっていて。申し訳ないが行ってくるね。」
「いや、来てくれてありがとう。おかげでいろいろ前進したよ。」
では、と言って部屋を出ていくナガスネヒコの背中をキビヒコは見送った。
人間の血が濃いため、自分よりも見た目の年齢を重ねる速度が速く、父親のような威厳のある風体の弟。葦国中原の人間をまとめるという大役も引き受けてくれている。普通の人間よりは寿命が長いと言っても、自分を置いて先に逝ってしまうのだろう。
「いつもありがとう。お前の存在に感謝してもしきれないよ。」心の中でキビヒコはつぶやいた。
ナガスネヒコが置いていった3羽のウグイスの鳥人達に色々と聞いた結果、自身の周りに張り巡らせる映像は、鳥でなくてもよいとのことだった。ただ、張り巡らせる映像や動きは、その鳥人の記憶をもとにしていることから、鳥が一番自然に見せられると言われた。さらに、普通の鳥の映像を張り巡らせている最中に、実体のほうで手を使うと、くちばしを使った映像になることが分かった。ただ、身体がこれ以上大きくなるのか?鳥頭のままなのか?についてはやっぱりわからないとのことだった。
「最後に一つ。身体の周りに映像を張り巡らせること以外になにかしら呪いは使えそうか?」
「やったことがないからわかりません。」
「キビヒコ様、何か教えてください。試してみたい!」
キビヒコは国津神の血を引くとはいえ、純粋な神でないので、できるのは自身の影に生き物を潜ませることぐらいだが、一応見せてみた。
「おもしろい!」
「やってみよう。」
口々にウグイスたちが言い、試してみたところ、なんと1羽に同じことができた。驚くキビヒコに、きっと他にもできる子いるよーとウグイスたちは得意げに言った。そこで鳥人達を全員キビヒコの部屋に集め、呪いの適性を見ていくこととなった。呪いの適性についてはスサノオやニニギ、そしてオオクニヌシの協力を仰いだ。もちろん、彼らもとてつもなく驚いていた。
その結果、鳥人達は影、水、火、土、風のいづれかに適応が高いと分類された。鳥人ではない鳥たちは、呪いに適性は無いものの、身体が大きく鳥人達よりも格段に力が強いことがわかり、これまたニニギによって鋼鳥と名付けられた(雌の鋼鳥には大不評であった)。
キビヒコは最後の力を振り絞って、鳥たちの編成を行い、盛沢山だった一日を終えた(鳥人2羽、鋼鳥2、3羽で18個のグループを作り、さらに鳥人1羽と鋼鳥1羽をそれぞれニニギとスサノオにつけた。残った鳥人1羽と鋼鳥2羽はキビヒコと屋敷に待機とした)。
「つ、つかれた・・・。」
夕食と湯あみを終え、部屋の寝台にうっつぷした。
これでウワハル様と進めていた研究がさらに前進する。ウワハル様、次に会う時を楽しみにしていてくださいね。心の中で思いながらあっという間に睡魔に引きこまれた。




