32.天津神の降臨~ニニギ その6~
よろしくお願いいたします!
朝焼けの中、トボトボと自室に戻るスサノオにニニギがこそこそと話しかけた。
「スサノオ様、おばあ様がおっしゃったようにきっと大丈夫ですよ。僕は長殿には可愛がっていただいたのです。長殿はスサノオ様に性格がちょっと似ています。可愛がっている者の周りも大切に思う方です。」
「すまんな、ニニギ。気を使わせてしまって。
・・・地上で人の魂魄を破壊することをしばらくやっていたんだ。本当に気が滅入ることで・・・。
天津神や国津神相手だったら、相手を消すなんてこと考えなくって良いんだって思っていたんだけど、違ったんだなって。」
「・・・そうですね。高天原では命の取り合いという概念をもたないで暮らしていたと、僕も因幡殿が落ちて気が付きました。そうことに無関係だったから、自分事では全くなかったんだなと。
スサノオ様にとっては心の安らぎだったのですね、そういう場所があると思っていたことが。」
「お前、すごいな。俺が言葉にできなかった思いだよ。そうだな。そう思っていたんだ。そしてそうじゃなかったんだ。単なる理想で思い込みだったんだな。」
「スサノオ様、理想があるってことはそちらに向かって努力できるってことですよ。」
ニニギの更なる言葉に、スサノオは呆気にとられた後、破顔した。
「そうだな、ニニギ。ありがとう。
・・・お前が地上に来てくれてよかったよ。きっと皆を、人や国津神たちを良いほうに導いてくれるだろう。」
そう言ってニニギの肩をたたいた。
二人とも夜中の打ち合わせでへとへとだが、朝食後に因幡の部屋で報告と打ち合わせを行い、その後、夜に備えて寝ることで話がまとまり、ひとまずそれぞれの部屋に帰った。
◇
朝食後、因幡の部屋にはスサノオ、ニニギに加え、オオクニヌシ、キビヒコ、ナガスネヒコも呼ばれた。
「キビヒコとナガスネヒコも因幡ことをとても心配していたし、魂魄の毒素の浄化について一緒にやってもらわねばならないからな。」
ニニギは、キビヒコ、ナガスネヒコとはほぼ初対面だったが礼儀正しく優し気なキビヒコと、同じく礼儀正しく頼りがいがありそうなナガスネヒコのことが大好きになった。
「スサノオ様の周りの方たちは、素敵な方たちばかりですね。本当に地上に来れて良かった。」
ニニギの言葉にスサノオは照れまくっていたが、因幡に駆け寄りたくてうずうずしているキビヒコとナガスネヒコに気が付き苦笑した。
スサノオがヨシというように頷くと、二人は因幡の寝台に駆け寄った。
「因幡様、本当に良かった!!もう、心臓が止まるかと思いました。体調は大丈夫なのですか?しばらく地上にいてくださるのですか?」口々に質問攻めとなった。
「ありがとう。キビヒコの鷹のアキヒコおかげで助かったと聞いたよ。アキヒコには特別なおやつを進呈させてね。」因幡の言葉に、キビヒコの影から紺色の鷹の翼が手を振るように現れた。
「因幡だが、天津神の体内器官が壊れた影響でしばらく地上にいることになった。器官の修復については、現在高天原の仲間が対策を練っている。」
スサノオの言葉に、因幡が目を見開いた。
「まぁ、俺に言えるのはこれくらいなので、進捗があればまた報告する。」
因幡の目に涙が光った。
「あの、高天原の方たちは、僕のこと何かおっしゃってましたか?」
姫は?と直球で聞けず、もじもじと因幡が聞いた。
「目覚めたことを伝えたら、オモイカネ様、兄上、姉上は泣いて喜ばれた。あー白鰐のお姫様だが、騒動の時、だれが落ちたかわからないまま従兄弟に屋敷に連れ戻されたらしい。オモイカネ様たちの意向で因幡が落ちたことは伏せてある。騒動で因幡は地上にとんぼ返りしたと伝えられているそうだ。」
「そうですか・・・。心配かけちゃいますもんね・・・。」
「いや、その、因幡のことを知ったら姫がどうなるかわからないって、姉上たちがおっしゃってだな。
その、お前、愛されてるな!」
しょんぼりとする因幡に、スサノオはアタフタし、姫が記憶を飛ばしていることが言えないとなって、答えが直球になってしまった。真っ赤になった因幡は、オオクニヌシやキビヒコ達に冷やかされ小突き回されたのだった。
◇
「さて、今後について皆に報告と相談をしたい。
まず、天津神たちが高天原に帰還する際に詳しくは言えないが事故が起きた。その影響で高天原は再び全面封鎖となり、天津神たちは地上に戻ってくることができなくなった。この封鎖がいつ解けるのかは不明だ。そして、因幡は事故に巻き込まれ地上に落下し、鷹のアキヒコによって救われた。事故によって体内の器官が損傷したのもあり、現状高天原に戻ることができない。器官が壊れたことで、体内の神力が使えないが、耳環に溜めた神力を使うことができ、今までのようにオニムカデの毒素の浄化ができる。因幡には、これまで通りオオクニヌシとオニムカデの退治に向かうか、屋敷内で俺の補佐をするか選んでほしい。旅に出る場合は、勉強もかねてニニギも同行する。すぐに答えは出さなくてもよい、じっくり考えてくれ。」
「行かせてください。僕の地上での存在意義だと思っています。誰かの役に立ちたいのです。」
スサノオの提案に、因幡はすぐさま答えた。
「では、僕もご一緒させてくださいね!」
ニニギが因幡に飛びつき、スサノオはやっぱり置いてきぼりかーと口を尖らせた。
「あの、天津神様が帰ってこられないとは、ウワハル様とシタハル様もでしょうか?」
おずおずとキビヒコが手を挙げた。
「ああ、そうなんだ・・・。すまない。
神である我々にとっては、永遠の中のわずかな時になるとは思うが、キビヒコはウワハル様と思いを通じ合わせているものな。離れているのは寂しいかと思う。父上であるオモイカネ様を通じて、言づけがあれば言ってくれ。ナガスネヒコもウワハルに何かあれば。」
「あの、お待ちしていますとお伝えください。」
「俺は、ますますナイスミドルになる前に戻ってきてくれと。」
「そうか、ナガスネヒコは人間の血が濃いから・・・。すまん、努力する。」
「めちゃくちゃ俊敏な年寄りになって、あいつを脅かせてやりますよ!」
落ち込むスサノオに、ナガスネヒコはがははと笑った。
「あの、ウワハル様たちが帰られないとなると、魂魄の浄化はどうなるのでしょうか?」
「ああ、今晩、それを議題とする打ち合わせがあるので相談させてほしい。
本来であれば、ウワハル殿たちが組織を結成し、大々的に執り行う予定だった。はっきりと計画を話されていなかったが、監視の鳥たちを増やすつもりだったのだろう?」
「はい、オモイカネ様にご相談のうえで実施する予定でしたが、サイズや特技の異なる鳥たちでいくつかの部隊を結成して進めようかと考えておりました。ですが、ウワハル様が戻られないとなると、鳥たちに呪いを掛けられず、増やすことができません。」
「そう、当初の想定通りは難しい。だが、少しづつでも浄化していったらどうだろうか?この前ニニギに言われたのだが、少ししか出来ないのではなく、少しだからこそじっくりと観察できると。転生による浄化の程度や重要な条件が見定めれるかもしれない。」
「なるほど・・・。ニニギ様は素晴らしいですね。まさに禍転じて福となす。」
「いやー僕、情報分析するの好きなんです!分析できそうなもの見つけるのも好きで。」
照れながらも任せてください!とニニギはガッツポーズをした。
「ところで、鳥たちはウワハル様の呪いでしか増やせないのですか?」
「実はそれ以外の方法を試したことがなくて・・・。」
ニニギの問いに、キビヒコが申し訳なさそうに答えた。
「呪いを掛けられた鳥に会わせてもらえませんか?」
ニニギのお願いに、スサノオが了承を出し、キビヒコの影から鷹のアキヒコが出現した。
濃紺の翼と金色の目を持ち、人の大きさほどもあるアキヒコにニニギは感嘆の声を上げた。
「お目にかかれて光栄です。」
「こちらこそ!君のおかげで因幡殿が助かったのだ。本当にありがとう!」
アキヒコの挨拶にしっかりと返事をした後、しゃべれるんだねーとニニギは大はしゃぎだった。
「君には番はいないの?」
「ウワハル様に呪いを掛けられた当時はいたのですが、私が長寿となり、番には先立たれてしまいました。」
「番との間に子はいなかったの?」
「呪いを掛けられてからも数羽子を成しましたが、キビヒコ様の影に住まうようになってから会っておらず、その後はわかりません。」
「アキヒコの縄張りだった場所はここから近いの?」
「私の翼で半刻ほどです。」
「君の翼で半刻だと、結構距離あるね・・・。僕を連れて飛べる?」
「両肩をつかませていただければ。」
「ニニギ、どうするつもりなんだ?」
ニニギとアキヒコの会話にスサノオが割り込んだ。
「呪いを掛けられたアキヒコと番の子供がどうなってるか探しに行こうかと。」
「どういうことですか?」
キビヒコも身を乗り出した。
「呪いを掛けられた鳥の子も、一般的な鳥よりも長寿であれば、監視とかお願いできるんじゃないかと思って。」
「なるほど!
では、他の鳥たちも同じことが言えるかもしれないということですね!
皆を集めて聞いてみましょう。」
「それもいいですが、まずはアキヒコの子供を確認してみましょう。ひょっとしたら普通の鳥のままかもしれませんから。」
なるほど!まずは確実にいる子供を確認してからですね!と落ち着いている性格のはずのキビヒコも、早く行きたくてうずうずしている様子を見せた。
「ちょっとまて!今から行くのか?もう昼だぞ。夜の打ち合わせの前に寝なくては持たないぞ。」
珍しくスサノオが制止を見せた。
「全然眠くないです!お昼を食べたらすぐ出かけて、夕食前には戻ります。夕食後に寝れば夜中の打ち合わせには全く問題ないです。」
わかいなースサノオと因幡が顔を見合わせて苦笑いをした。
そして昼食後、ニニギはアキヒコに、キビヒコは呼び出したアキヒコの弟分のナツヒコに両肩をつかまれ、二人で出かけて行った。
そして夕食前、二人はアキヒコより少々小さめの人の言葉を話す紺色の鷹、モモとアンズを連れて帰ってきた。年齢は”女の子に年齢聞くなんて!”と怒られたが、アキヒコと10も違わなかった。
「うわっ、めっちゃ長生きだった!」
声出して驚いてしまったスサノオは、2羽のくちばし攻撃を浴びたのだった。
ありがとうございましたm(__)m




