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新釈古事記伝  作者: りんたろう
3/15

3.貴神の誕生

「父上、父上!」

 少年の声の呼びかけとともに身体がゆすられた。


「そんなに揺すってはダメよ。お水を汲んできたわ。」

 今度は少女の声だ。


「いま力をお送りいたします。」

右手と左手がそれぞれ小さな手で包まれた。


ぼんやりと目を開けると四人の子どもたちが周りを囲んでいた。

少女はアマテラス、少年はツクヨミ、彼らより少し小さい双子はスサノオとスサオミと名乗った。


「父上、黄泉軍から逃れられましたが、川に落ちられました。

 幸いなことに清流によって黄泉のケガレの禊が行われ、我らが生まれ、お助けすることができました。」

アマテラスは水の入った蓮の葉の器を差し出しながら端的に状況を説明した。

 イザナギは横たわったまま顔を両手で覆い、最後に見たイザナミの姿を思い浮かべた。

 ・・・・・一体何があったのだ、二人で黄泉国から帰るのではなかったのか?

 何が彼女を悲しませ、暴走させたのか。

 黄泉の神や侍従たちの変化はイザナミの神力の暴走によって引き起こされたのは明らかだ。


 歯を食いしばって深呼吸をし、自身を無理やり落ち着かせた。

起き上がってアマテラスから水を受け取りつつ子どもたちに話しかけた。

「君たちは、黄泉のケガレの禊から産まれたのか?」

 イザナギの問に、アマテラスはイザナギの左目のケガレが清流に濯がれることによって、ツクヨミは右目、スサノオとスサオミは鼻と口から生まれたと答えた。

 「では、ケガレの記憶から黄泉の状況はわかるのか?」


「黄泉国から父上が脱出する直前の状況になってしまいますが、母上の暴走した神力により黄泉軍とオニムカデたちが異形化し、理性を失い凶暴化しました。また力も格段に上がっているとともに、変化(へんげ)の異能を獲得したようでした。」とツクヨミが答えた。

「ははうえは、ちちうえのことが大好きだったのに、見た目が変わっただけで逃げていったと悲しんでいたよ。恥ずかしくって悔しいって。」とスサノオとスサオミが言った。

「ケガレの記憶は残念ながら以上でございます。

 次に現状でございます。先ほど父上が塞がれた大岩をみてまいりましたが、黄泉国側から削り取ろうとしている音がいたしました。また、わずかながら隙間があり、黄泉軍とオニムカデが何匹か漏れ出た気配がございました。

 とりあえず私の神力で隙間に結界を張るとともに大岩を強化してまいりましたが、内側で母上のお力が巡っていることからそんなには持たないかと。早急に父上に見ていただいたほうが良いと存じます。」とアマテラス。

イザナギは黄泉国で見た最後の光景を思い出し、血の気が引いた。

 

駆けつけた大岩にはアマテラスの言う通り隙間が空いており、隙間の縁にはオニムカデの毒素の気配がこびりついていた。

「たしかに隙間から外に出たものがいる。内側でイザナミの力が溢れて渦巻いているのも感じられる・・・・・。

 これ以上外に出すわけにはいかない。

 解決方法が見つかるまで外側から封印の力を送り続けるしかあるまい。

 しかしながら完璧な応急処置だ。君たちに心から感謝をする。」


イザナギは頭を強く振ってから両手のひらで自分の頬を強く叩いた。

イザナミを失ってから悲しみを言い訳に呆けていた隙を悪しき者につけこまれたのだ。

 

「本当にありがとう。君たちのお陰で世界の崩壊が免れたと言って良い。

 

 我ら天津神は、地上と天上の安寧と発展を守るべき存在だ。

 産まれたばかりであるが、君たちに一員として力を貸してほしい。」


 兄弟たちを見ると、皆、イザナギに恭しくお辞儀をした。

  

「まずは、ここの結界を維持し、その間に高天原へ戻り、知恵の神に相談をしたい。

 スサオミ、君は、一番小さいが、神力をあやつるのか一番上手のようだ。

 君の神力でこの場を守ってほしい。」


 イザナギの言葉を聞いてスサノオが尋ねた。

「ちちうえ、すぐ終わるよね。

 ぼくはスサオミと長く離れていたくないんだ。」


「解決するのにどれくらいかかるのかわからないのだ。知恵の神であるオモイカネは、きっと早急に解決してくれると思っているのだが、約束はできない……。」

「・・・ぼくはスサオミと離れたくない。みんなでこの場所を守って、ちちうえだけ帰るんじゃダメなの?

 ・・・・だいたい、そもそもちちうえがははうえを悲しませたの原因なのに、スサオミを一人おいていくなんてひどいよ!」

 

「それは違う!

 オレはイザナミのことを愛している。そもそも、どのような見た目でもイザナミは美しい!」

 イザナギは黄泉国を訪れてからの出来事を手短に子どもたちに語った。


「誰かの陰謀としか思えませんね。

 生まれたばかりの私たちにはわかりかねますが、父上がこのような目にあうということは、この世は平和でなく、対立や争いがあるということでしょうか?」ツクヨミがつぶやいた。


「オモイカネに脳筋とからかわれる私も流石に嵌められたと感じている。

 日常的な諍いや言い争いは、地上でも天上でもそれなりにはある。

 だが、世界を危機に陥れるような(はかりごと)を誰かがするなんて、考えたこともなかった。

 

 君たちが産まれなければ、葦国中原は壊滅し高天原まで黄泉軍が到達していたに違いない。

 このようなことを引き起こす輩がいることが分かった以上、確実に敵ではない君たちには私のそばで力を貸してほしい。よって、全員をここに残すことはできないんだ。」


「なるほど、文字通り”手駒”ってことですね。」

 面白そうにアマテラスが言った。

 

「でもっ、でもっ!

 スサオミが寂しいじゃないか・・・・」

スサオミの手を強く握ったまま下を向いて話を聞いていたスサノオが、目に涙を一杯に浮かべて言い募った。


スサオミはそんなスサノオをぎゅっと抱きしめてからイザナギに向き合い、恭しくお辞儀をした。

「謹んでお役目お引き受けいたします。ぼくもこの世界を守りたいです。」


そしてにっこりわらって言った。

「ちちうえ、迎えに来てくれるのをまってるからね。

 スサノオも心配しないで!ぼくは本当に強いからね。

 ただ・・・・スサノオに会えないのは寂しいから、あねうえ、鏡のうちの一組をぼくとスサノオに貸してくれないかな?」

 

「あら、それはいい考えね!」

 アマテラスはにっこり笑って腰の小さなカバンから、手のひらほどの鏡を二枚だし、さっと撫でて顔ほどの大きさにした。 

そしてスサノオとスサオミにわたして

「これで顔を見ながらお話ができるわね。

 ただ悪しき者がいるとすると、会話を聞かれてなにかしらの企みに利用されてしまうかもしれないわ。

 だから一回五分間、一日に二回が限度よ。」

そして胸を張って続けた。

「日中であれば、太陽神である私が通信と第三者の傍受の妨害を完璧にやってあげるわ!!」


するとツクヨミがニヤリと笑っていった。

「では、夜間は月の神である私が完璧にこなそう。」


「なによ、私の提案の尻馬に乗らないで!」

 むくれたふりをするアマテラスを横目でみながらツクヨミが答えた。

「姉上だけに良い格好させるわけないでしょ。可愛い双子を喜ばせたいのは私も同じです。」


言い争う二人にスサオミとスサノオは涙目になりながら抱きついた。

「あねうえ、あにうえ本当にありがとう!!

 これでおはようとおやすみが言えるよ!」


「では、そのように設定して神力をそそぎましょう。

 午前中に5分間、日没後に5分間。

 時間指定はしないから。

 鏡は縮めて、鎖で首から下げられるようにするわね。

 どちらかが通信を始めたら、相手方に知らせが行くわ。

 それぞれの鏡は、スサオミとスサノオ以外使えないように設定を。」


 つらつらと述べるアマテラスの言葉に、スサオミとスサノオは抱きついたまま顔をお腹に埋めて、グリグリと擦り付けながらウンウンとうなづいた。


「さあ、ではツクヨミと私が神力を注いだら、あなた達の神力で、持ち主の設定をするわよ。」

 アマテラスがやさしくほほえみながら声を掛けると、二人が顔を上げた。


「・・・ちょっと!!鼻水だらけじゃない!

 っていうか、私の服も鼻水だらけ?!

 まだ替えの服もってないのよ!!」 

”どうしてくれるのよ〜!!”という雄叫びが辺りに響き渡った。


姉を唖然とみあげるスサノオとスサオミ。

耐えきれずツクヨミは吹き出した。どうやら彼は笑い上戸であった。

”そういえば、父上が静かだけど”

クスクス笑いながらイザナギの方を見ると、無言でお腹を抱えて地面に倒れ痙攣していた。


イザナギのあまりの有り様にツクヨミの笑いは瞬間で上限突破し、同じ格好で地面に倒れた。 

”・・・どうやらわたしの笑い上戸は、父上譲りらしい”


「ちょっと、そこの二人何地面に倒れているのよ〜!

 なんとかしなさいよ!!」

アマテラスの怒りの声が辺りに響き渡った。

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