27.天津神の降臨~ニニギ その3~
次の日の真夜中、異空間貝の中、通信鏡の前でスサノオとニニギは、オモイカネ、ツクヨミ、スサオミと向かい合っていた。アマテラスは、眠り続けている白鰐のミヤビヒメに付き添っているとのことだった。
「因幡の様子はどうだ?」
通信が繋がると同時にツクヨミが画面いっぱいに映り声が響いた。
「まだ目が覚めない。外から見た怪我はないが、神力が体から漏れ出している。」
因幡が心配で寝かせた客室に防犯の結界を張り、さらに仮の寝台を運びこんでスサノオも寝た。翌朝目を覚ますと結界の中に神力が漂っていた。驚いてニニギと二人で必死に調べると、漂っているのは因幡の神力で、体から漏れ出したものが、結界のなかで溜まっていたのだった。因幡の体内に残っている神力を探ると、ほぼゼロの状態でしかも新しく神力が作られている気配がなかった。どうしたらよいかわからず、結界内に因幡をそのまま寝かせている。
そのように伝えるとオモイカネとスサオミが顔を見合わせ、ツクヨミが最悪だと呻いた。
「どういうことだ?」
「僕は直接見ていないけど、因幡が青紫に光ったとき、僕たちの体の中にある神力を作り、溜める器官が壊れたんだと思う。」
え?という顔をしたスサオミとニニギに、スサオミは続けて説明した。
「以前、ウワハル殿たちが異空間貝をつかって、魂魄の毒素を取り除く実験をしたら爆発して消え去ったことがあったでしょ?その映像を送ってもらってたんだけど、爆発の色が青紫だったことを覚えているかな?解析した結果、生き物は、身体にしろ魂魄にしろ、浄化の波動に触れると青紫に光ることが分かったんだ。地上の生物の魂魄が爆発したのは、その魂魄に対して浄化の波動が強すぎたから。で、我々天津神が大丈夫なのは、身体も魂魄も非常に強いので、浄化の波動が強すぎることがないから。天叢雲剣が出来上がったときも、何度も実験して安全性を確認した上で太鼓判を押した。天津神への使用限定でね。
じゃ、なんで因幡がこんなことになったかなんだけど、近くにいた神の話によると、波動が来た瞬間、因幡の腰あたりから何かが光って体に吸い込まれたそうだ。
ここから僕の予想なんだけど、ニニギ、天叢雲剣を肌身離さず持ってるよね?柄についている石をスサノオに見てもらって。」
石を見てスサノオはつぶやいた。
「これ、形がちょっと違うけど因幡が後生大事にしていた、白鰐の姫からもらった腰紐の石によく似ている・・・。」
「やっぱり因幡はその石を持っていたか・・・。姉上はその石をニニギからもらったんだけど、今思えば、その時白鰐の姫が驚いたように石を見ていたって言ってたんだ。おそらく、因幡に渡したものと同じだとか、似ているとか思ったんだろう。その石は強力な浄化作用を持っているんだ。石自体が悪いわけじゃなくて、その効果が2重になったことが問題なんだ。おそらく、剣の石のほうの浄化の波動がその石に届いた時、そちらの石が共鳴して浄化の波動が発生してしまったんだろう。
彼は天津神だから直接的な怪我は防げた代わりに神力の器官が壊れてしまったんだと思う。神力の器官があることが我々を天津神たらしめる。高天原の雲の床を突き抜けてしまったということは、その器官を失ったことを示している。」
「それってつまり・・・因幡殿は天津神でなくなったということですか!?」
「そうだ。因幡はもう高天原に帰れない。この異空間にも耐えられないかもしれない。」
ニニギの問いへのスサオミの答えに、彼は茫然となった。
「そんな!何とかならないのか!?・・・そもそも姫はどうやってそんな石を?」
スサノオが言い募った。
「それについては、こちらでも調べた。大っぴらにできないから、姫の侍女に探りを入れたぐらいだが。
姫が腰紐を作るからと紐の色合わせの相談に乗ったそうだ。見たことがない石があったから聞いたら、従兄弟のガロに譲ってもらったと言ってたそうだ。
・・・あいつ!!因幡のことを疎んでいた。良かれと思って渡したはずがないっ。
因幡が門の前にいた時も、腰のあたりを見ていたんだ。
因幡が落ちたときも真っ青になって震えていたっ・・・。
私と目があったときだって!絶対何か知っている顔をしてたのにっ。」
話しているうちに気が高ぶったツクヨミがこぶしで机をたたいた。
アマテラスのところに出入りするようになった白鰐の姫を、妹ができたようだとツクヨミは可愛がっていたのだ。ツンデレながらも嬉しそうな白鰐ちゃんを見ていたツクヨミには、姫の隣にいたガロの様子も目に入っていた。
「・・・とりあえず話を聞こうと思ったんが、ガロは姫を白鰐の屋敷に連れ帰った後、行方知れずになっている。」
オモイカネが引き継いだ。
「ガロも地上に落ちたのではと、高天原の床が抜けるかもしれぬと騒ぎになった。一度解除した完全封鎖を再度かけることでやっと落ち着いた。あれは、高天原の全方向ですべての出入りができなくなるからな。」
「・・・これからどうしたらいいのですか?
完全封鎖がとけない限りウワハル殿たちは戻ってこれない。他の天津神たちだってそうだ。それに因幡が目を覚ました時、なんと言ってやればいいんだ?」
スサノオらしくない沈んだ声に皆黙ってしまった。
今後について答えが出ないままであったが、間もなく日の出の時間となった。
ツクヨミには夜の間しか通信鏡の傍受を阻むことができないため、明日の夜、再度打ち合わせを行うこととなった。
通信を切る間際にスサオミが言った。
「結界から因幡をだして、神力は玉にするってできるかな?僕が根の国で作って奴みたいに。因幡の役位たつと思うんだ。スサノオ、因幡を結界で覆ったのはお手柄だと思うよ!」
スサオミに褒められたスサノオは、ちょっと笑顔になり、ニニギと共に異空間を後にした。
◇
二人で因幡の元に戻り、ニニギに因幡を彼が使っていた部屋に連れて行かせた。
神力が漂っている結界を親指の爪ほどの大きさまで小さくしたうえで、耳飾りの形状に整えた。
白銀に輝くそれを握りしめ、因幡の部屋に向かった。
スサノオが因幡の部屋に着くと、そこにはニニギと共にオオクニヌシがいた。
落ちてきたのが因幡だと知ってから心配で眠れなかったらしく、目の下に大きなクマができていた。
「義父上。こんな時間に申し訳ありません。因幡が部屋に戻ったと聞いたので、一目でも顔を見たくて押しかけてしまいました。」
「大叔父上、許可を得ずに申し訳ありません。」
頭を下げる青年二人にイヤイヤいいんだ、ありがとう、因幡はきっと喜ぶとスサノオは答えつつ、眠る因幡に近づき白銀の耳飾りを付けた。そして因幡をじっと見ながらオオクニヌシに話しかけた。
「因幡は前と同じように神力を発揮できないかもしれないんだ。」
「・・・そうなのですか?
ですが、私は因幡が無事なことだけでも本当にうれしいです。地上に落ちてきてるのが因幡だとわかったときの恐怖と、鷹が彼を捕まえてくれた時の安堵を思えば。生きてさえいればという言葉の意味が心底わかりました。それに神力が発揮できなくても、彼は他にも色々できるようになったんですよ?私たちの旅は生半可じゃなかったので。別な方法を探したり、別なことをするんでもいいと思うんです。また色々できるようになるだけです。」
オオクニヌシの言葉に、スサノオはハッと顔を上げてニニギを見た。ニニギもこっちを見ていた。
この耳飾り、良く似合ってますねと、因幡の頭をなでるオオクニヌシに、良ければこの部屋に護衛がてら泊っていってくれと頼み、ニニギに作戦会議をするぞ!と声をかけた。
快くお泊りを了承したオオクニヌシは、やる気をみなぎらせて部屋を出ていく二人を見送った。
今週もよろしくお願いします。




