24.天津神の降臨~ニニギ その1~
その日、地上は快晴であった。
スサノオはニギハヤヒの部屋で行われていたタカミムスビ達との通信会議に招かれていた。
天津神の降臨の日、因幡からの伝言という形で、オモイカネから彼らを含めニギハヤヒを警戒するようにと言われた。翌日に有無を言わせずオニムカデを粉砕してしまった時には、何をしてくれるんだと真っ青になり警戒心は最高潮に高まった。
だが、そのあと落ち込んで引きこもってしまった彼を監視がてら頻繁に見舞う内に、世話係となったナガスネヒコ達への気遣いやその素直な人柄に警戒心が薄れていった。ナガスネヒコ達の妹であるミカシヒメの支えによって立ち直ったニギハヤヒは、彼女と思いが通じ合った時には本当に幸せそうで。地上のためにますます頑張り、魂魄を破壊することに心を疲弊させていたスサノオにも涙を浮かべて寄り添ってくれた。
それらが自分たちをだますための嘘だったとしても許せてしまいそうなくらいスサノオは彼が大好きになっていた。
そんな今までのことを思い出しながら、スサノオはニギハヤヒと共に通信用の水晶によって投影されるタカミムスビ達に平伏した。
タカミムスビ達と顔を合わせるのは、高天原を追放されて以来のことであった。
理由があったとは言え、高天原で騒動を起こしたことをタカミムスビにどう思われているか・・・。
この方が敵の可能性があるのか?敬愛と疑いの間で複雑な気分だった。
「久しぶりだね、スサノオ。ニギハヤヒからも地上での活躍を聞いているよ。」
穏やかなタカミムスビの呼びかけにスサノオは顔を上げた。
「お久しぶりでございます。ニギハヤヒ様には大変お世話になっております。
その節は大変ご迷惑をおかけいたしました。母のそばで精進する日々でございます。」
「おやおや、随分大人になったものだ。地上での暮らしはよい経験になってるようだね。
ニギハヤヒと仲良くしてくれてありがとう。君がいることで日々が楽しいと言っているよ。」
ちらっと隣を見ると、にこにこしながらニギハヤヒが見ていた。
タカミムスビ達からアマテラスの道具が完成し、ひと月後に天津神たちを高天原に帰還させるとの話を聞いたとき、スサノオとしてはついにこの日が来たかと身の引き締まる気持ちとなった。
タカミムスビ達の後ろに控えるオモイカネも感慨深そうな顔で頷いていた。
だが彼は違ったらしい。通信が切れた後も座り込んだまま動かないニギハヤヒを見やった。
「大丈夫か?」
「・・・私は帰りたくないんだ。妻と息子がいるんだ。妻に死ぬまでそばで守ると誓ったんだ・・・。」
地上で人間との関係を築き始めた天津神たちに混乱と動揺が起きるかもしれないと告げると、タカミムスビは、帰還した後、地上に戻りたい神はそうすれば良いといった。だがニギハヤヒだけは違った。その後も高天原に留まるようにと、為さねばなならないことがあると命じられた。
仲睦まじい彼ら家族をずっと見てきたスサノオには掛ける言葉が見つからなかった。
やがてニギハヤヒはふらりと立ち上がり、残りひと月を大切にせねばなと妻と息子のもとに帰っていった。彼の息子は神力が強いニギハヤヒの血を引いている。非常に長生きするだろうから再び会うことも叶うかもしれない。が、彼の妻は違う。国津神の血を引きつつも人間に近い彼女とは、もう今世で会うことは出来ないだろう。
いつか会える世のために、輪廻の中で親友の妻の魂魄を見失わないようにしよう、スサノオは心の中で誓った。
◇
天津神たちが高天原に帰還する日がやってきた。
その日も地上は快晴であった。
オオクニヌシと各国をめぐっていた因幡も呼び戻された。
すっかり二人は仲良くなったらしく、しばしの別れを惜しんでじゃれ合っていた。
シタハルとウワハルは、キビヒコ、ナガスネヒコと別れを惜しんでいる。
次に会った時、ナガスネヒコは渋いおじさんになってるねとシタハルが笑っている。
キビヒコとウワハルがお揃いの腕輪をしているのを女性陣がひやかし、
ウワハルが見せつけるようにキビヒコの腕に抱き着いた。
キビヒコが早く帰ってきてくださいねと抱きしめ返すとキャーッと黄色い声が上がった。
高天原に帰れることをホッとしつつ、しばしの別れを惜しむ皆をスサノオが眺めていると
ニギハヤヒが妻子を連れてやってきた。ニギハヤヒとミカシヒメの目が赤い。
少年となった息子のウマシマジは必死に涙をこらえているようだった。
「スサノオ、私の家族をよろしく頼む。君が見守ってくれれば安心だ。
ウマシマジには私の代わりにしっかり母と地上を守るように伝えている。良ければ鍛えてやってくれ。」
「ああ、任せろ!親友のお前の家族は俺の家族だ。守り抜くと誓うよ。だから高天原での仕事を早く終わらせて戻ってこい。」
「・・・ああ、そうだな!早く終わらせて戻ってこなくっちゃな。」
泣き笑いのような顔でニギハヤヒは何度も頷いた。
その時、天上の高天原のほうから地上に光が差し、アマテラスの道具を携えた天津神の降臨が始まった。ひときわ強い光が差したのち、一人の青年が姿を現した。
「皆さま初めまして!アマテラスの孫のニニギと申します。この度は皆さまのお迎えという大任を仰せつかりました。若輩者ですが、精いっぱい務めさせていただきます。」
堂々とした口上にスサノオはひるみつつも年上の神として挨拶を返した。
「では皆さま、私の従僕がご案内しますのでお並びいただけますか?
お並び頂いたのちに、これからの流れについてご説明いたします。」
てきぱきと進めるニニギを呆気に取られてみているスサノオに因幡が近づいた。
「アマテラス様のお孫様がお迎えとは豪勢ですね。
しかし、皆様の血を引いてるのにすごい爽やかな好青年で本当に驚きです。しかも礼儀正しい!」
どうしても言いたかったと、ウキウキしながら言ってきた。
おい!とスサノオが言おうとしたとき、ニニギがひょっこりやってきた。
「大叔父様、お初にお目にかかります!
お会いできるのをとっても楽しみにしていたんです。
皆さまをサクッと帰したら速攻で地上に戻ってきますからね!
僕、こちらに来れるのをとっても楽しみにしていたんです。
スーちゃんから大叔父様の話もいっぱい聞いていたんですけど、一緒に暮らせるってきいて本当に嬉しくて。あーこのお役目、僕に回ってきて本当に良かった!
あ、整列終わったみたいですね!じゃサクッと説明して、サクッと帰してきまーす!」
怒涛のようにしゃべると去っていった。
「・・・やっぱり皆さまの血を引いていらっしゃいますね。」
「・・・スーちゃんって・・・。」
「アマテラス様のことでしょうね。
良かったですね。僕たちが帰っても寂しくなさそうですね。」
じゃ、僕は列に並びますね。といって因幡は列の最後尾に走っていった。
◇
「ではこれからの流れをご説明いたします。
まずは、アマテラス様によって作られた道具をご紹介いたします。
こちらになります。」
ニニギは腰に下げていた大太刀を掲げて見せた。
「かつてスサノオ様が地上の大蛇を退治された際、尻尾から発見された大太刀が基盤となっております。
地上に追放した後も弟君を思うアマテラス様によって改良され、天叢雲剣と名付けられました。お二人の絆を象徴するものと言えるでしょう。
これを薙ぎ払うことで波動が発生し、皆さまが纏っていらっしゃるかもしれない、毒素やケガレ、呪いなどの悪しき物が浄化や除去されます。
ただ、地上の生き物には強すぎる道具で、波動を浴びると存在自体が消し飛んでしまいます。そこで、皆様には大きな結界を張らせていただき、高天原の入り口前に移動していただきます。
結界の中で浄化をさせていただいたのち、高天原の封鎖を解除し帰還となります。
何かご不明な点はございますか?」
説明、えらく丁寧だな。とスサノオは感心した。
よくわかったと頷く天津神たちを見やり、ニニギはスサノオを見て頷いた。
「では大叔父様、行ってまいります。」
え、もう?早くない?と驚くスサノオに、神々しくゆっくり上昇しまーすとニニギは親指を立てた。
天津神たちは透明で巨大な結界に包まれるとゆっくりと上昇した。
神々しく光る演出付きだ。地上のすべての生き物の目に映ることだろう。
手を振る天津神たちにスサノオは手を振り返し、すべて上手くいきますようにと祈った。
今日もありがとうございました。
話の流れ的に明日はちょっと短めになりそうです<(_ _)>




