23.天津神の降臨~ニギハヤヒ その6~
時はさかのぼっておよそ100年前。
完全封鎖となるとの知らせに、高天原には激震が走った。
子供や家族の誰かが降臨に参加していた天津神たちは、タカミムスビやカミムスビ、そしてオモイカネの屋敷に押しかけ説明を求めた。その他の神たちも、しばらく友に会えなくなることを悲しんだ。
当初、知らせを聞いたアマテラスはなんてこったと天を仰いだ。
降臨した天津神たちがオニムカデに襲われ、ニギハヤヒ殿が粉砕してしまったらしい。
うちの弟並みの脳筋と驚いたが、その脳筋弟が粉となったオニムカデを結界で包み込んで皆を守ったらしい。それ、本当にうちの弟?とさらに驚いた。
その上、キサガイヒメの異空間貝をたまたま持っていて、気づかれないように根の国の入口につなぎ、皆を通らせて念のために毒素の浄化というか排除というかを行ったと聞いたときには・・・。その成長に驚きすぎて、冤罪だけど地上に追放されてよかったのでは?とまで思ってしまった。
だが異空間貝の存在とその能力を仲間以外に知られたくないことから、浄化のことは秘密となった。よって、天津神たちはオニムカデの粉で悪影響を受けている恐れありと、地上にとどめ置かれることになってしまった。そしてオモイカネの追加提案で、高天原の入り口は完全封鎖となったのだった。
確かに”地上に嫌気がさして帰ってきた”とやられたら、一介の門番では追い返すことは難しい。さらに完全封鎖をすれば、地上に対する怪しい動きも見張りやすくなり手も空く。この隙に、オモイカネは天津神たちの洗い直しを含め、色々見なおすそうだ。災い転じて福となす。さすがはオモイカネ様とアマテラスは感心した。
そして皆を浄化する道具をアマテラスが作ることになってしまった。
高天原の封鎖とその解除は、今後の行方の要ともいえる重大事。仲間以外の誰かが担当して、何かあったら困ることは明白。オモイカネとツクヨミが忙しくなってしまう以上、自分にお鉢が回ってくるのは仕方ないと思いつつも、得意分野ではない”物づくり”。困惑しながら引き受けた。
アマテラスは悩んでいた。
道具作りが進まない。
キサガイヒメの異空間貝が、毒素や呪いを弾き飛ばす力があることがわかっていることから、それをベースとすることは決まった。だがその異空間を発生させる装置の形状が決まらないのだ。
アマテラスが作り出す道具だ。一回こっきりの使用ではなく、今後の地上での禍を祓うものとして下賜されるのである。祓うとは対象全体を包み込むだけでなく、一部だけを祓う場合もあれば、深部をだけ祓う場合もある。場合によっては素早く異空間を発生させる必要もある。
そしてなによりも神からの下賜物なのだ。見た目はとても大事である。
「それができる形状ってなんだろな~・・・。鼓だと細かいこと出来なさそうだし・・・。笛かな?細くは出せるけど深部だけにってわけにはいかないか。」
考え疲れたアマテラスが外をぼんやり眺めていると、白鰐の姫が従兄弟を従えて高天原の見回りを行っているのが見えた。
完全封鎖で因幡が帰ってこれないと女性の天津神たちが騒いでいるのを、似非色男めと内心ニヤニヤしながら眺めていたら、よく口げんかしていた白鰐のお姫様までしょんぼりしていて、えーっひょっとして??と思わずときめいたなとニヤッとした。そういえばあの子は剣舞が得意で、あのこっぱずかしい天岩戸事件の時にも舞ってくれたと聞いたなと思い出した。そして閃いた。そうか、剣か・・・。いいかもな、剣。突き刺せるし、切れるし、振り回せる。そしてなにより恰好良い。
そういえば、スサノオが地上の大蛇の中から剣が出てきたってくれたのがあったな!すごく良いこと思いついた、さすが私と胸を張った。
侍女を呼びつけ、スサノオがくれた剣を倉庫から急いで探し出すように命じ、アマテラスはいそいそと出かける用意を始めた。
どちらに行かれるのですか?との侍女の呼びかけに
「白鰐のお姫様に手伝わせてやろうとおもって。剣には詳しいだろうし、なによりやる気にはときめきが必要よね!」
オモイカネ様に相談してくる!と飛び出していった。その後ろ姿を見送りつつ、がんばれ白鰐の姫と、侍女は心の中で応援した。
白鰐の姫が参加することで、道具作りは格段の進歩を見せた。
道具作りに姫を参加させたいとアマテラスがオモイカネに告げると、白鰐の姫ことミヤビヒメと因幡の両片思いと、”降臨から帰ってきたら”の密約を知らされた。「それってフラグなんじゃ?」とツクヨミと全く同じ反応を見せたアマテラスだったが、ミヤビヒメの知識と共にときめきがやる気に火をつけどんどん仕事が捗った。
なお、ミヤビヒメの従兄弟のガロは、因幡の悪口を吹き込んでいたようなので出禁とした。さらにミヤビヒメには、ここで見たことは誰にも言わないようにと厳重に注意し誓約もさせた。
そしてアマテラスとミヤビヒメの二人は最後の段階まで来て行き詰っていた。
「異空間が今一つ細くなりきらないのよね・・・。こうさー、相手に差し込んだ時に剣の先からピッて針みたいに出て悪いところに届くって感じにしたいんだけど。」
「やっぱりもともとが空間ですから、細くするには限界があるんでしょうね。針みたいに細いものは、別な何かを使うのがいいかもしれませんね。」
「でもその別な何かが見つからないのよ・・・。ミヤビちゃんが来てくれる前から色々探してはいたのよ。異空間貝を察知されたらと思って、代替がないかなって。
でもないのよね・・・。ミヤビちゃんのおかげで異空間を今までにないくらい細くできたにはできたから、これで妥協すべきかしら?」
その時に部屋の外から「すーちゃん!」と少年の声がした。
アマテラスの孫のニニギであった。ぐたっと机にもたれかかっていたアマテラスは満面の笑みを浮かべて立ち上がり、部屋の外に出た。「ニニギ!スーちゃんのところに遊びに来てくれたの?」
ニニギは少年の姿で生まれた、農耕を司る神である。
二人でいるとちょっと年の離れた姉弟のよう見えることもあり、孫が可愛くてしょうがないアマテラスは”スーちゃん”呼びをさせている。
ミヤビヒメもアマテラスの後を追って部屋に外に出ると、アマテラスは何やら小さな石を受けっとって興奮していた。
「どうされたのですか?」
「ちょっと見て!これニニギが庭の畑を耕してる時にで見つけたんだって。とっても強い浄化作用があるみたいなの。」
興奮して渡された石を見てミヤビヒメは既視感を覚えた。因幡に渡した石によく似ていた。
じっと石を見つめているミヤビヒメに同意を得たと思ったアマテラスが更に続けた。
「これを涙型に加工して剣に装着させたらどうかしら?尖った部分を剣に沿わせれば剣先で細く出力させられると思うの。」
成功しちゃうんじゃない?ニニギったらすごいわねと婆バカを炸裂させているアマテラスに、ミヤビヒメは慌てて頷いた。
そして涙型に加工された石が、剣の柄の縁に装着され、幾度かの調整と試験を繰り返しついに完成した。
伝説の天叢雲剣の誕生である。
今日もありがとうございました!




