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新釈古事記伝  作者: りんたろう
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21.天津神の降臨~ニギハヤヒ その4~

 オニムカデの毒素による影響は酷いものであった。

 毒素に侵され始めた当初はちょっと怒りっぽくなったぐらいで普通に日常を過ごすが、毒素が回るにつれ周りとの軋轢を生むようになる。

 化け物のように理性を失って誰かを襲うということではなく、自身の欲を満たすために、狡猾でずる賢く周り巻き込み、悪意を持って相手を陥れる性質に変わっていくのだ。

 人間であれば、他人を陥れ物を盗み、果ては謀反を企て戦を起こし、命を奪う。その他の生き物であっても、大型の生物であれば野山の縄張りをかけて争い、徒党を組んで人間や集落を襲った。虫や鳥さえも、仲間に罠をかけ、蹴落とすような生き物となった。

 そんな中で、根の国での実情をスサノオに報告されたニギハヤヒから、”制圧ではなく鎮圧を”とのお達しが出た。

 天津神が怒りを爆発させれば、怒りの対象となった生き物は命を奪われてしまう。命を奪わずに相手を無力化する。それはすなわち、説得が通じなかった場合、自身は理性的な状態で、相手を抵抗できなくなるギリギリまで痛めつけ、捕縛するということだ。痛みに喘ぎ、いっそ殺してくれと言われても叶えることは出来ない。天津神たちの心は疲弊していく一方だった。

 そのような悲惨が続き、”死者が出るほどの暴力を引き起こしている生き物”のみを捕縛対象とすることとなった。



 天津神が直接降臨した葦国中原は、当初、周辺に比べて非常に平和であった。しかしながらオニムカデとその毒素は確実に広がりつつあった。

 人族の長であるナガスネヒコは兄であるキビヒコと共に天津神に仕えつつ、その鎮圧に奔走していた。

 最近はナガスネヒコたちの乳兄弟である女の、狂気的な権力欲に手を焼いていた。

 ナガスネヒコたちだけが天津神に仕えていることが気に入らないと。ナガスネヒコたちの母親は自分の母の妹なのだから、もっと優遇しろ、天津神に自分や仲間も仕えさせろ、私たちのほうが上手くやると皺だらけの顔で目をギラギラさせて言い募る。多くの恩恵を手に入れているのだろう、その恩恵を自分たちにも回せ、妹を天津神に嫁がせてお前も神になったつもりか?

 暴言とその頻度はどんどん酷くなり、彼女の後ろには同じような目をした仲間たちが日に日に増えていく。


 はーっとため息をついて切り株に腰かけたナガスネヒコの肩を励ますようにシタハルが叩いた。

 今日は久しぶりに二人で素敵な景色を探しに来たのだ。

「乳兄弟殿のことか?どんどんエスカレートしていってるようだね。毒素が魂全身に回りつつあるのだろう。しかし、あの程度の暴言では捕縛の対象にはならないね。」

「子供のころは本当にやさしい姉貴分でした。私達の成長がゆっくりでしたので余計に可愛がってくれて。父である国津神が他国の争いに巻き込まれて亡くなったときも嫁ぎ先から駆け付け、ことさら気にかけてくれました。」

「彼女はすごいと思うよ。あれだけ毒素が回っても決して君たちに手を上げないじゃないか。そして彼女が先頭を切って言い募ることで彼女の仲間が抑えられている。無意識なのか意識的なのかはわからないけど、君たちは守られているよ。」

「そんな心優しい彼女なのに、死んだら魂魄は破壊されてしまいます。もう生まれ変わって会うこともできないのです。彼女の仲間もそうです。幼き頃からの我々の友人だった。オニムカデさえいなければあんな風にはならなかったんです。暴言を聞くのもつらいですが、死んでしまうような騒動になったらと思うと気が気じゃないのです。」

 皆を、彼女を失いたくないのです、大切な人なのですとナガスネヒコは涙を流した。

 人族の長でありながら独身を貫く親友の大切な思いをなんとなく悟り、シタハルは切なく聞いた。


 泣いて少々気持ちが落ちついたナガスネヒコとシタハルがスサノオの屋敷の部屋に戻ると、スサノオと共にウワハルとキビヒコが待っていた。

「そろってどうしたの?」

「シタハル!朗報なの。

 魂魄についたオニムカデの毒素を何とかして除去できないか研究を進めていたんだけど、どうやら転生を繰り返すことで毒素が薄くなっていくようだということが分かったの。」

「マーキングした魂魄を優先的に何度か転生させ、観察していたら明らかに毒素が薄くなっていった。もちろん、転生先には手のものを張り付け監視をしていたがな。」

 本当に色々大変だったんだよとスサノオが肩をすくめた。

「なんかコソコソやってるなとは思っていたけど、そんなことしていたの?すごいじゃない!」

 シタハルは予想外の朗報に驚くとともに、隣のナガスネヒコの背中かを良かったな~とバシバシ叩いた。

「まだ手放しでは喜べないの。当然だけどひどく凶暴化してしまった魂魄もいたわ。

 毒素が薄くなった魂魄は、転生先で生きる喜びや驚きを多く体験していることが分かったの。一方、凶暴化したものは絶望や無力感を多く体験していたわ。ただ、どの程度の体験で結果が分かれるのかは個体差がありそうなの。どちらの魂魄も、まったく絶望を感じなかったとか、喜びを感じなかったってわけではなかったし。」

「つまり、魂魄の毒素を薄めるには、転生先で、観察とちょっとした手助けができる存在が必要ということ?」

「さすがシタハルね!その通りなの。ただ今の溢れかえっている毒素が付いた魂魄の数を考えると途方に暮れてしまうわ。オニムカデをけしかけたのは、十中八九我々の敵だから、このことを大っぴらにしていいかもわからないし。

 父上のお考えを伺いたいところだけど、スサノオ殿の鏡通信では時間制限もあって埒が明かないし、高天原が完全封鎖されていると、案が出ても実行できないってことになりそうで。」

「・・・ん?でも、ということは、とりあえずスサノオ殿がもう魂魄を破壊しなくてもいいということなのでは?アマテラス殿が道具を作り出されて高天原の完全封鎖がとければ、大っぴら対応できるかもしれないのですから!保管しておけばいいんですよ!」

 ナガスネヒコの思いを知ったシタハルは前のめりであった。

「た、たしかにそういう考えもあると思うけど。根の国にそこまで保管できる場所が今のところないし、保管用の容器だって数がそろってないし・・・。魂魄の破壊をしていないのをごまかさなくちゃいけないし。」

 勢いに押されてしどろもどろのスサノオに更に言いつのった。

「根の国はそもそもスサノオ殿によって作り出されたと父に聞いております。もっと広い場所を作って容器も増やせばいいではないですか!ごまかすのも、スサノオ殿ならどうとでもなります!」

 えー言いたい放題だな…俺めっちゃ頑張らなくっちゃいけないじゃんとスサノオがぶつぶつ言ったが、喜びで泣きそうになっているナガスネヒコの背中をなでるキビヒコを見て何かを感じたのか、やるか―と立ち上がった。

週末はお休みします。

また週明けによろしくお願いいたします!

今週もありがとうございました<(_ _)>

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