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新釈古事記伝  作者: りんたろう
21/22

20.天津神の降臨~ニギハヤヒ その3~

 オニムカデの毒素による影響がわかり、天津神たちに周知されるとともに様々な対策がとられることとなった。


 まずは根の国にやってきた死者の魂魄の選別。

 毒素がこびりついていないかを入念に調べ、大丈夫であった魂魄だけを輪廻の輪の列に並ばせる。

 こびりついていた魂魄は、その毒素の量が多いものからスサノオが破壊する。選別にも破壊にも時間がかかるため、根の国では魂魄が溢れ、転生にも時間がかかるようになってしまった。


 次に地上の争いの鎮圧。制圧ではなく鎮圧だ。

 以前であれば、争いがあまりにひどい場合、首謀者たちを屠るのもやむなしとの風潮であった。しかしながら首謀者たちの魂魄はおそらく毒素にやられている。そして根の国で魂魄が溢れていることから、死者を出さないように争いを鎮圧し、首謀者たちは捉えてなるべく生き永らえさせるといった方針に変更された。これには時間も手間もかかる上に、天津神たちは怒りを爆発することを耐えなければならず、相当の忍耐を強いられることとなった。


 そしてオニムカデの退治と毒素の浄化。

 根本的な解決のためには、爆発的に増え、各国で見かけられるようになったオニムカデの退治とその毒素の浄化は必須であった。しかしながら、オニムカデが出たことを各国の人族の長は隠したがった。毒素と争いがおきることを恐れ、自国の民が逃げてしまうから。

 そこで、各国に顔が利き、人当たりもよく根回しも上手いオオクニヌシと、腕がたち、諜報活動に長けた因幡とで秘かに各国を回ることとなった。


 これらの対策は、神たちに大きな負担をかけるものであったが粛々とこなされていった。

 皆、アマテラスが作り出す道具が出来上がりさえすればと、いずれ終わることだと思っているから。



 そのなかでウワハルとキビヒコは、スサノオの許可のもとに秘かに研究を進めていた。

 魂魄にこびりついた毒素を取り除く研究だ。

 魂魄の破壊は本当の消滅となる。再び生を得て何かに出会い、何かを感じることは出来なくなってしまう。こびりついた毒素を消し去ることができれば再び輪廻の輪に載ることが叶う。

 当初は毒素が付いた魂魄を保管しておいて、アマテラスの道具が出来た時に、どさくさに紛れて異空間貝でまとめて浄化することが仲間内で提案された。そして確認のため、こっそりといくつかの魂魄を異空間貝に通したところ、すべてすさまじい音を立てて破裂したのである。地上の魂魄には異空間が耐えられなかったようだった。その時の魂魄の断末魔は、立ち会った仲間を含めウワハルの耳にこびりついていた。さぞかし苦しかったことであろうと思い出すたび心が痛むのを感じた。

 アマテラスが作り出そうとしている道具もキサガイヒメの異空間貝の機能を模していることから、同様も結果になることは確定であった。

 そのため、なるべく苦しまないように、細心の注意を払ってスサノオが魂魄を破壊することとなった。

 これは希望だ。

 疲労困倍しているスサノオを、同族の魂魄が破壊されているのを知りながら我々に仕えているナガスネヒコ達を救いたい。魂魄の断末魔を聞いて以降、その一心でウワハルは研究に取り組んでいた。



 本来ウワハルは、学問に対する興味と好奇心、そして世界を開拓することを至高とし、常に楽しいと思うことに目を向け続ける存在である。そんな彼女がどこかにコソコソと出かけ、暗い顔で帰ってくる日々を繰り返すのをナガスネヒコの兄であるキビヒコが気が付いた。

 キビヒコ達は、人間を母に、鳥を使役する国津神を父に持つ存在である。人間の性質が強いナガスネヒコと異なり、キビヒコは国津神の性質が強い。ちなみに妹でニギハヤヒの妻となったミカシヒメは中間といったところだ。

 弟でありながら人族の長を務めることになってしまったナガスネヒコのことをキビヒコは誇りに思うと同時に常に心配していた。オニムカデの毒素にやられた魂魄が破壊されることになったと知ってからは特に。

 人間の性質が強いとはいえ、国津神の血を引いているナガスネヒコは普通の人間より寿命が長く老化も遅い。恋い慕う相手もいたようだが同じ時の流れを生きられないことから諦めてしまったようだった。その代わりのように人族すべてを心から愛し大切に思っている。天津神にともに付き従いながらも、弟の苦悩が気がかりでしょうがなく、常に気にしていた。そこで気が付いた。同じようにナガスネヒコに気づかわしげな視線を送っているウワハルに。様子をうかがっているとコソコソと出かけ、いつもウキウキとしていた表情を曇らせることが増えてきた。

 気になったキビヒコは出かけるウワハルを後をつけると根の国のそばの岩穴に消えた。

 慌てて追いかけるとそこには大きな空間があり、毒素がかすかにこびりついた魂魄を閉じ込めた器をのぞき込むウワハルがいた。

 さすがのキビヒコも動揺して転び、その音に気が付いたウワハルに武力で拘束され、すったもんだがあった挙句の協力体制となった。

 ウワハルの本来の性格についてもしっかりと口止めされた。



 仲間でもある根の国の侍従の監視のもと、こびりついた毒素が比較的少ない魂魄を封じ込めるための器に入れ岩穴の空間に運び出す。魂魄を封じ込める器は、かつて大罪を犯した魂魄への処罰として、輪廻を禁じるための封印に使用していたものだ。魂魄に様々な試験を行う。歌や音楽を聞かせるものから神聖な泉の水を与えたり雷を落としたりもした。


 今回、ウワハルの神力を徐々に強くしながら浴びせたところ、魂魄自体が引き裂かれるといった悲惨な事態になった。

 どうにか復活した魂魄を前にシクシクと泣くウワハルに、キビヒコは彼女に深い愛情を抱いていることに気が付いた。この方を支えて差し上げたい。望みをかなえて差し上げたいと思った。

「泣かないでください。この魂魄も元の姿を取り戻しましたし。

 そうだ。この魂魄が望むようなことを想像してかなえてあげましょう。我々の自己満足かもしれませんが・・・。」

 上手く慰めることもできず、絞り出したキビヒコの言葉にウワハルははっとした顔で彼を見上げた。

「魂魄の望むこと!それは試していなかった!!

 魂魄は本来生まれることを望むものだ。何かに出会い、何かを感じることを望むものだ。それは魂魄の喜びであり輝きだ。魂魄の力が強くなれば毒素が取り除かれるかもしれない!」

「しかしそれは毒素を持つ魂魄を転生させることになり、争いの種になる可能性があります。」

「だが可能性があることは試してあげたいのだ。監視をつければよいであろう?もしもの時は捕えればよい。お願いだキビヒコ。なにかいい方法を考えて一緒にスサノオを説得して。」

 愛おしさに気が付いたばかりというのもあり、キビヒコは何とかしたいと悩みに悩み、自身の使役している鷹を呼び出した。

「私の父は鳥を使役する国津神でありました。その血を濃く引く私もある程度鳥を使役出来ます。この鷹であれば転生した魂魄が凶暴化した際も、その肉体を捕え連れ帰ってくることができるかと思います。」

 ウワハルは嬉しげに手をたたくと、早速キビヒコと共にスサノオの説得に向かった。



 案の定スサノオは渋った。もちろん根の国の侍従たちもである。

 凶暴化した場合は鷹によって連れ戻すとの説明を聞いて言った。

「転生した先の生き物が鷹よりも長寿だった場合はどうするのだ?いくら国津神の血をひくものに使役されているとはいえ、鳥も含め寿命があるものに監視させるのは無理がある。天津神たちも国津神たちも忙しいから手を割くことは出来ない。」

「じゃ、寿命がめちゃくちゃ長くなればいいんでしょ!」

 その言葉を聞いて業を煮やしたウワハルが叫ぶとともに鷹に聞いたことがない呪いをかけた。

 その瞬間、鷹が光につつまれた。

 光が収まると何処にでもいるような鷹が青黒い羽根を持ち銀色の目を持つ姿に変わっていた。

 おどろくスサノオたちにウワハルが胸を張った。

「地上の花がすぐ枯れてしまうのが嫌で、地上の生き物の寿命を延ばす呪いを作ってみたの。この子は通常の10倍は生きるわ!病気もしないし。

 ケガとかは普通にしちゃうけど、防御用の道具を身に着けさせればいいでしょ?まぁ、あたまの中身は普通の鳥だけど。」

「・・・すみません、あたまの中身も普通じゃないようです。」

 聞いたことがない声が響き、皆がぎょっと鷹を見た。

「え、お前なの?」

 ウワハルの言葉に鷹はこくこくと頷いた。

「失礼ながらウワハル様はこの呪いを植物にしか使ったことがなかったのではないでしょうか?

 我々だとどうやらこうなってしまうようです。私としてはキビヒコ様とお話ができるようになって非常にうれしい限りですが。」


 鷹はアキヒコと名付けられた。更にキビヒコの使役する数羽の鳥に呪いがかけられ、実験的に転生させる魂魄の監視にあたることとなった。もちろん事前に説明もせずにいきなり呪を使ったウワハルは遺憾ながらスサノオにこっぴどく叱られ、許可なく呪いを使うことを禁止された。

 だがまぁ願ったことが最終的にかなったのだからとウワハルはご満悦であった。

 そんなウワハルをニコニコと見るキビヒコに気が付いたウワハルが赤くなった。

 それを見た根の国の侍従がうんうんと頷く。

 そしてその侍従を見たスサノオは首を傾げた。




 鷹のアキヒコ達の監視のもと、試験的な魂魄の転生が密やかに繰り返された。

 ・・・そして驚きの結果を得た。 

少々遅くなってしまいました<m(__)m>

明日は頑張ります!

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