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新釈古事記伝  作者: りんたろう
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16.天津神の降臨~ニギハヤヒ その1~

 天津神の降臨は厳かに粛々と始まった。

 ニギハヤヒを先頭に30名ほどのきらびやかな衣装をまとった天津神が天鳥船に乗り込む。

 周囲を武装した蔵人たちが数席の小舟に乗って取り囲む。


 ニギハヤヒの合図でこぎ手たちが天鳥船や小舟に神力を流し込む球に手を触れた。

 ふわっと浮き上がった船に天津神たちから歓声が上がった。

 タカミムスビ、カミムスビをはじめとする高天原の神々が集まり、天を駆け地上の葦国中原を目指す彼らを見送る。


 オモイカネは妻のウタヒメの肩を抱き、ウワハルとシタハルを見つめた。

 双子は嫋やかに微笑み、ゆるゆると手を振った。

「あいかわらず”()()”ですわね。」含みを持たせた妻の言葉に苦笑いをする。

 双子の後ろにいた因幡が何やら球のついた腰紐を触り、ハニカミながらどこかに視線を向けた。

 視線をたどるとツンと横を向いた白鰐の姫がアマテラスとともにいた。

 その光景にオモイカネは心から皆の無事で平穏な帰還を祈った。



 間もなくついた葦国中原はスサノオの神力と統治力でそれなりに平穏であったが、その周辺の国々では小さな諍いから始まった戦がいくつも起きていた。

 恭しく出迎えたスサノオとその侍従たちにニギハヤヒは屈託なく笑いかけた。

「久しぶりだな、スサノオ。

 元気そうで何よりだ。後日根の国にも行ってイザナミ様にもご挨拶したい。」

「お久しぶりでございます.不肖の息子でございますが、日々精進しております。

 姉上、父上をはじめ、天津神の皆様には心配ばかりかけ、申し訳ないく思っております。」

「そんなに固くならないでよ、私たちは幼馴染ではないか。

 私は君の元気でまっすぐなところが大好きで憧れている。こちらにいる間に昔のように仲良く過ごせる間柄になれればと思っているんだよ。

 ところで、見たところ侍従たちは人族や国津神と様々だな。」

「お言葉大変嬉しく思います。

 ええ、地上での統治にはやはり住まうものの意見を聞く必要がありますので。人や国津神に協力をしてもらっています。皆、非常に優秀で協力的です。此度も彼らに皆様のお世話をさせていただこうと思っておりますが、よろしいでしょうか?」

「いや、よろしく頼むよ。私は人族と接することが初めてなので、非常に興味深い。色々と話を聞かせてもらえれば嬉しい。」

 イザナギの言葉にスサノオは破顔すると、まずはそれぞれの部屋に案内し、夕食時に今後のスケジュールについて説明とご相談をさせていただきたいと申し出た。

 ニギハヤヒが承諾すると、侍従たちが担当とする天津神に近づき、そ部屋への案内を開始した。

「ニギハヤヒ様にはキビヒコ、ナガスネヒコ、ミカシヒメをお付けいたします。

 彼らは人を母に、国津神を父に持つ兄弟とその妹です。ナガスネヒコが一番人に近い性質を持つことから、次男ながら葦国中原に住む人族の長をしております。」

 恭しく額づく10代半ばから20代半ばほどの男女にニギハヤヒは頷き、部屋に案内するように命じ、では夕食時にと言って去っていた。


 ため息をつきつつ自室にの扉を開けて中に入ったと思ったスサノオは、頭上でくす玉が割れ、”おかえり~”と書かれた垂れ幕と花吹雪が舞う異空間にいることに気が付き、目の前で土下座をしている色男を睨んだ。

「おい、因幡。なんだよこれは?」

「本当に申し訳ございません!!

 誰かに気が付かれない方法ってこれしかないって、ツクヨミ様に言われて!

 僕一人の時は普通だったんですよ!スサノオ様が入ってきたとたん、くす玉が現れて・・・。」

 因幡はスサノオがニギハヤヒと話している隙にスサノオの自室に忍び込み、入口にツクヨミから渡されていたキサガイヒメご謹製の異空間貝をつないでいた。

「まぁいいよ。確かに誰にも気づかれずに俺に接触するにはこの方法だ一番だと思うけど。

 作ってる時の兄上の顔が思い浮かぶよ。」

 スサノオがため息をつくとくす玉と花吹雪は消え、代わりに茶器が載ったテーブルと椅子が現れた。

 スサノオの好きな焼き菓子付きだ。

「こういうところが兄上だよな!」いそいそとテーブルにつくと一緒に食べようと土下座をしている因幡を呼んだ。

「明日からの日程ですが、どのようにお考えですか?」

「まずは根の国で”母上”に挨拶をと言われたのでそのようにしようかと。

 スサオミの神力がこもった球を核に音声と気配を作り出す予定だ。若干、根の国の周りの結界が弱まってしまうが、今回の随行している蔵人たちにも協力してもらい警備を強化することで対応したいと思っている。そして、最小限の時間で事を済ませる。

 その後は、葦国中原の各集落を回り、続いて周辺各国を回っていただこうと思っている。およそ15年ほどかかるかと。

 我ら天津神にとっては大した年月ではないが、人族にとってはそれなりに長い時間だ。天津神の存在を示すには十分であろうからタカミムスビ様のおっしゃられた目的は十分果たせるだろう。」

 尊敬するタカミムスビの役に立てることに嬉しそうなスサノオに因幡は伝えなければいないことを思うと気が重くなった。

「スサノオ様。

 オモイカネ様からのご伝言です。

 タカミムスビ様、カミムスビ様のこの度のご提案は似つかわしくなく、ご子息のニギハヤヒ様を含め警戒するようにとのことです。顔に出やすいお前には伝えるか迷ったんだけど、今回は非常事態だから肝に銘じよとのことでした。ちなみに、どうしてもタカミムスビ様がたを疑うことを嫌がるようなら、スサオミもそう言っていたと言えと。」

 スサノオのお菓子を食べる手が止まった。

「・・・やっぱりな。

 俺もそんな気がしていたんだ。でもタカミムスビ様を信じたかったんだ。」

 絶対拒絶から入ると思ったスサノオの返事に因幡は驚き、スサノオは眉をしかめて続けた。

「おい、俺だって成長するんだよ。

 特に今回地上におりて根の国だけでなく、人族や国津神たちの諍いをそれなりに抑えているんだぞ、もちろんスサオミのころからの侍従たちに助けられつつだったけど。

 人の寿命は短いから入れ替わりもあるしな。諍いや謀を繰り返す彼らにはいろいろ学ばされる。もちろん、良い面もいっぱいあるから見捨てられないし、惹きつけられる。」

「うわっ、皆様が聞いたら目を剥きますよ!

 お芝居だったとはいえ、追放になってよかったかもしれないですね。」

「・・・おい、ちょっと不敬が過ぎるぞ。

 でも!タカミムスビ様やそのほかの方々が黒幕と決まったわけじゃないんだろ?

 警戒はするけど、真っ向から疑うことはしないぜ!もちろん顔にも出さない。成長したからな!」

「承知いたしました。

 皆さまスサノオ様もご成長を知ればお喜びになるでしょう。僕が高天原に戻ったあかつきにしっかりお伝えいたしますね。」

 では夕食時にと言って因幡は帰って行きキサガイヒメの異空間貝はスサノオの懐にしまわれた。



 夕食は大広間での歓迎のうたげとなった。地上の食べ物を始めて食べる天津神も多く、地上の音楽と舞と共に賑やかで楽しいものとなった。

 翌日以降のスケジュールについても皆が快く了承し、お開きとなった。



 翌日、朝食をとると早々に根の国に向かった。

 物部(=兵士の能力を持つ天津神)に根の国の入口周辺を固めさせ、根の国の王の間にニギハヤヒを先頭に天津神を通した。

 薄衣を頭からかぶった女性とおぼしき存在が玉座の奥から現れ座った。

「イザナミ様、お久しぶりでございます。ニギハヤヒでございます。

 お隠れになられてから今までの長きにわたり、根の国及び輪廻の輪の任を担っていただき誠にありがたく存じます。父、タカミムスビからくれぐれもよろしく伝えるようにと言付かっております。」

「久しいのう。大きくなられて。

 かような立派なご子息がおられて、タカミムスビ様もご安心であろう。今、わたくしのそばにはスサノオがおりますが、心配が尽きませぬ。まぁ、息子と共に過ごす時間が与えられたことを喜ばしくも思いますが。」

 涼やかな声が薄衣の向こうから聞こえてきた。


 スサノオと因幡が上手くいったと心の中で安堵していたその時だった。

 入口のほうで鎧がぶつかるあわただしい音と共に焦った大声が聞こえた。

「ムカデだ!大きなムカデが侵入してきた!!」

 前を向いていた天津神がそろって後ろを振り返ると入口から巨大で真っ赤な棘を全身にはやしたトカゲが結界で体を引き裂かれながら宙を飛んできた。

 全員が押しつぶされるかと思ったその瞬間、ニギハヤヒが高く宙を飛び、ムカデの頭に手をかざし四散させた。

 スサノオは大急ぎで舞い上がる粉々となったムカデのなれの果てを結界で包み込むと皆に呼び掛けた。

「ケガをしたり吸い込んだ方はいらっしゃいませんか?」

 大丈夫だという声があちこちから上がり、ホッとしたのもつかの間

「とげが刺さってしまった。」

 ニギハヤヒであった。ムカデの頭にかざした手のひらに小さなとげが赤黒く光っていた。

 

次回更新は月曜日になりそうですが

更新できそうなら週末もUPしたいと思っています。

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