14.腹をくくれ
タカミムスビの提案を受け、スサオミが作った隔離世の空間に集まった面々(オモイカネ、アマテラス、ツクヨミ、スサオミ、ワカヒメ)は皆困惑の表情を浮かべていた。
「タカミムスビ様のご提案なだけに、それなりに実行せざるを得ないと思う・・・。」
いつになく重たい口調でオモイカネは口火を切った。
「考えたくはないのですが、タカミムスビ様が黒幕という可能性があるのではないでしょうか?」
言いづらそうに発言したツクヨミにアマテラスは噛みついた。
「なんてことを言うの!
天津神はこの世界を守るための存在なのよ。
特にタカミムスビ様は空間の神。
天も地もこの上なく愛していらっしゃるわ。
・・・それに、父上につれられて突然やってきた私たちなのに、とても温かく迎えてくださったじゃない。あのお方のおかけで高天原に早くになじめたのよ。
タカミムスビ様を疑うのであれば、カミムスビ様もニギハヤヒ殿も疑う必要があるわ。」
「もちろんわかっております。
姉上だけでなく、私もスサノオもあの方を慕っております。
ニギハヤヒ殿は大切な幼馴染ですし。カミムスビ様は正直よくわからない方ですが・・・。
ですが、すべての可能性を考えなければならないと思うのです。」
苦しげに反論するツクヨミにうなづきつつオモイカネが言った。
「ツクヨミの言うとおりだ。
君たちが生まれてからずっと探り続けているのに敵の目的すら把握しきれていない以上、我々の仲間以外にはすべてある程度の疑念を持って接するのが最善と言える。
もし、かの方たちのいずれかが黒幕だとしたら、いままで敵のしっぽが全くつかめなかったことには納得がいく。ただ、世界が傷つくようなことを引き起こそうとされる理由が全く分からない。」
「タカミムスビ様は、此度のようなご提案をなされるようなお人柄なのでしょうか?」
かの方のことを全く存じ上げないので、とスサオミが疑問を投げかけた。
「正直、タカミムスビ様がこのようなご提案をされたことに驚いている。
始まりの神である三柱の方々は我々と同じ天津神ではあるが、一線を画されている。
天津神である我々は生まれ出でた目的を遂行することを本能として持っているところがある。
例えば君たちの両親のイザナギとイザナミは国生みと神生みを、私自身は知識や情報というものを収集し考察し自身に収めることを至高としている。
それを妨げる事柄には最優先で対処する、というかしてしまう。
あの方は空間の神であられるからなのか、すべてのものに同じように接されていて、困っているとか、うれしいとか、そのようないろいろな出来事に対しても遠くから凪いだ目で眺められてるような、そんな感じでいらっしゃった。
ただ、君の兄弟とイザナギに対しては心を砕かれているなと思ったよ。イザナミが黄泉国に行く前は、イザナギと一緒にいるところを、にこにこしながら嬉しそうに眺めていらしたしね。」
オモイカネの返答にスサオミはうーんと唸った。
「好意的に考えて、父上やスサノオはタカミムスビ様にとって、それなりに特別だから提案をしたと。
ではカミムスビ様やニギハヤヒ殿はいかがなのでしょうか?」
「カミムスビ様は大地の神であられ耳がとてもよく、地上の声をまどろみの中で聞かれ、その波動を大地に還元されている。最近の諍いの声に辟易されたことは想像に難くない。
ニギハヤヒ殿は世の中というものの安定を図ることに特化された神で、戦が増えた乱世と呼べる地上への降臨としては適任と考えられるのも納得だ。父君であるタカミムスビ様を心から尊敬されているし、その同胞であるカミムスビ様がお困りであるのであれば、と役を買って出ることに不思議はない。」
いくら悩んで話し合ってもらちが明かない状況に、アマテラスがうなり声を上げた。
「腹をくくってこの状況に乗っかってみてはいかがでしょうか?
我々は因幡を地上に派遣しようとしていたでしょう?
この降臨に彼を随行させれば表向きの名目もたつというもの。
さらに我らの手のものを送り込めば、もしタカミムスビ様や他のいずれかが黒幕であったらしっぽがつかめる絶好の機会です。我々も敵も同じ年月を過ごし、じれ切っていると思われるこの今が!」
アマテラスの思い切りの良い提案に皆彼女を見つめ、しばしの沈黙の後にオモイカネはくすくすと笑いだした。
「そうだね!我らの敵にはアマテラスのような性格の神はいないだろうね。きっと私やスサオミみたいなタイプだ。思考をぐるぐる回してねちっこい感じで目的の結果を得ようとしているのだろう。ここは思いもよらない思考をつっこむのはありかもしれないな。
・・・よし!!腹をくくろう!」
「大丈夫ですよ、オモイカネ様。
姉上は太陽の神であるとともに勝利の神。その方が直感でご提案されたことの先には勝利が待っているはずです。」
スサオミの言葉にツクヨミが頷きつつ「スサノオと姉上はよく似ている。」とつぶやいた。
それを聞いて青筋を立てゆらりと立ち上がったアマテラスを押しとどめるように、ウタヒメが提案した。
「オモイカネ様と私の子供である、ウワハルとシタハルを降臨に随伴させましょう。
あの子たちはたおやかな見た目から想像できないほど賢くしたたかで、腕っぷしも強いです。」
それを聞いてオモイカネは頷いた。
「たしかに!あの双子に任せれば何とかしてくれるだろう。
・・・では腹をくくり、飛び込もう!
こちらでの話し合いは以上として解散する。よろしいかな?
早速我らのほうからの随行メンバーを選び出し、同意を得ねば。
アマテラスとツクヨミは私の執務室のほうへ。ツクヨミは因幡に声をかけて伴うように。ウタヒメは我らの仲間と個々の性質についてスサオミに説明をし、随行へのスサオミの推薦についてまとめてくれ。」
吹っ切れたように一同はあわただしく動き出した。
のちに天鳥船による天津神の降臨として古事記に記される出来事の始まりであった。
ストックが無くなったので自転車操業になりますが、更新頑張ります。
誤字脱字が増えるかもしれません。
申し訳ありません!




