13.始まりの神の提案
イザナギの岩戸へのひきこもり(表向き)が始まった。
アマテラスのように世界への直接的な影響がないことから、大きな混乱は起きなかったものの、多くの天津神たちが岩戸のあるアマテラスの屋敷や、大親友であるオモイカネの屋敷に駆け付けた。
イザナギを心配している神々が大多数であったが、アマテラスに続きイザナギもと、親子およびその兄弟であるツクヨミやスサノオへの不満を口にする神々も少なくなかった。そして、その不満は地上にも広まっていった。
「高天原である程度の不満が出ることは予測していたが、地上にまで広まるのは解せないな。」
スサオミの隔離世の空間での会合でオモイカネが呟いた。
「私もそう思います。
父上の神生み国生みのお力は大変大きいですが、現状不足はなく、生み出されないことでの不便や困りごとが地上にあるとは思えません。」
ツクヨミの言葉に本日参加の因幡もうなずいて続けた。
「我ら白兎の一族としても、不肖の息子に心を痛めた謹慎と、美談としてもっていくよう情報操作を進めているのですが、地上においてはイザナギ様とそのお子様方のせいでもう神も国も新たに生まれないと、神と国の奪い合いで戦が起きております。」
「”もう生まれないから誰かに奪われたら最後”と不安と欲が煽られているということか・・・。
天津神自体を奪い合うことはできないから、天津神のご神体を守っている国津神が争いに巻き込まれているということか?」
「はい。以前地上に頻繁に天津神が降臨されていた頃に神力を込められたものを、そこより生まれ出でた国津神が守っていたのですが、戦によって命を落とすものも出てきております。」
オモイカネの問いに因幡が答えた。
「では、根の国では混乱が始まっているということか?」
「スサノオとの通信では、通常の3倍ほどの国津神を含む多数の魂魄がやって来ているとのことです。
ただ、私とオモイカネ様の力を込めた球を両方とも稼働させて輪廻の輪を回す対応をしたので、魂魄の渋滞はほぼ起きなかったとのことでした。」
今度はスサオミが答えた。
「十中八九我らの敵の仕業と思うが、目的として3つ考えられる。
一つ目は戦自体を起こすこと、二つ目は戦によって人や国津神を死なせること、三つ目は根の国を混乱させることだ。
三つ目は回避できたが、一つ目と二つ目は流言を消さない限り鎮めることは難しいと思われる。
流言の出どころを探り、潰す必要がある。」
「では、私が地上に参りましょう。」
そう答えたのは因幡だった。
「変化と諜報が得意の私であればお役に立てるかと存じます。
最近なぜか白鰐の一族の長じきじきに剣を指導していただける機会があり、それなりの腕前とお墨付きをいただきましたので、人や国津神相手であれば身も守れるかと思います。」
(あーっ)とオモイカネとツクヨミは思った。因幡くんと白鰐の姫を娶せるために、白鰐の長にこっそり話を持ち掛けたことでおきた直々の剣の指導であったに違いない。
お墨付きをもらったということは姫の婿としてお眼鏡にかない、あとは縁談の申し込み!という段階だということだろう。
そんなタイミングで地上へ諜報活動とは・・・。
二人は心の中でおもった(ごめん!だけど因幡くんが一番の適任なんだ!帰ってきたら幸せいっぱいになれるから!長期のお休みもあげるから!!)。
「そうだね。因幡君に行ってもらうのが一番だね。ただ表向きどんな名目で行ってもらうか検討しなければ。」
オモイカネが素知らぬ顔で言い、ツクヨミがうなずいた。
その時だった、隔離世に設置された通信機が鳴った。
「タカミムスビ様よりオモイカネ様にお呼び出しです。なるべく早くにタカミムスビ様のお屋敷にいらっしゃるようにと。」
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急ぎの呼び出しにオモイカネたちがタカミムスビの屋敷に行くと、もう一人の始まりの神であるカミムスビとタカミムスビの息子であるニギハヤヒも居た。
「今度はイザナギがひきこもってしまっただろう?
アマテラスとは違って世界への直接的な影響はないから気が済むようにとは思っているけど、地上でも不満がでてるようだね。カミムスビは耳がいいからいろいろ聞こえてしまっているようでね。」
タカミムスビは穏やかに微笑みながら向かいに座るオモイカネを見つめて早速口火を切った。
「不満の声が多くて大きい。最近は死に際の怨嗟も多くて不穏だ。」
カミムスビは眠たげながらタカミムスビの言葉を引き継いだ。
「地上の状況は、天津神が地上を気にかけていないと思われていることが根底にあるのではないかと思う。我らの存在と情を地上に知らしめることが根本的な解決につながるであろう。さらにスサノオを天津神たちから孤立させるのはよくないと思う。我々の一員であることの自覚と安心感は、彼の心の支えになり、改心につながると思う。
そこで、私の息子であるニギハヤヒを筆頭として地上に幾名かの天津神を降臨させたいと思う。
天津神の降臨は、国津神との交流にもつながるだろう?さすれば、世界の一体感や盛栄にもつながる。
いかがであろう?」
重々しいタカミムスビの思いもかけない提案にオモイカネは文字通り固まってしまった。
そんなオモイカネを思いやるように、言葉を崩してタカミムスビは続けた。
「あと、イザナギが安心して出てこれるような世界の体制を作ってあげたいんだよね。
イザナギのことが大好きな君ならきっと賛成してくれるんじゃないかと思って。」
「オモイカネ様、直接にお目にかかるのはお久しぶりです。
アマテラス様の天岩戸の件でのご采配、誠に素晴らしかったです。
イザナギ様は私も尊敬する方の一人であり、地上での流言と状況に心が痛むばかりです。
そしてスサノオ殿は幼馴染の一人でもあります。
ぜひともアマテラス殿をはじめとする天津神たちとの懸け橋に私がなりたいと思っています。」
タカミムスビは息子のニギハヤヒの言葉に二人でにっこりと顔を見合わせ、そろってオモイカネを見た。
ほとんど話さないカミムスビまでも眠そうでありながらも頷いた。
----素晴らしい発案です!わが最愛の友のイザナギも皆様のお心遣いを喜ぶことでしょう。
ただ、降臨への参加者を含め、一度熟考させていただきたい---------
なんとか力まかせに立ち直ったオモイカネはタカミムスビに嬉しそうな顔でそう返答した。
笑顔でタカミムスビの屋敷を後にし、さすが始まりの神で在らされるな~と言いながら自身の屋敷に入り、門扉が閉まった瞬間、額に手を当てて大きくため息をついたのだった。
また明日続きを投稿いたします!
天鳥船に乗って降臨することになります。




