10.因幡くんと白鰐ちゃん
(いや、あの舞は反則だろう!
可愛らしいあの見た目から想像できないような研ぎ澄まされた剣筋。
力強い眼差し...。
惚れるなって方が無理だって!
っていうか、もうずっと惚れっぱなしだけど!)
白鰐の姫が舞を舞うと聞いた瞬間、因幡は岩穴前の舞台からはちょっと暗がりになっていて目立たない場所をささっと陣取った。
それはもう、姫の舞をこっそりじっくり堪能するためだ。
なのに目ざとい女性陣に囲まれて舞に背を向ける羽目になっている。
日頃の自分の振る舞いが恨めしい。
でもそれだって人使いの荒い上司たちの命令でやってるに過ぎない。
もともとは、引っ込み思案で草花を育てるのが好きで得意なところをオモイカネの奥方に見出され、お屋敷の専属庭師となった。
たまたまお庭を訪れたツクヨミにこの顔を見出されてしまったのが運の尽き・・・。
(いや、世を守るのは姫も守ることになるんだから、お仲間になるのは本望だよ。
だけど色仕掛系間諜てのはどうなの!有益な情報てんこ盛りだけど、俺の羞恥心が大爆発だよ!!
姫の舞、みーたーいーよー!!)
優雅微笑みながら女性陣の相手をしているが因幡の心は大荒れであった。
兎族と白鰐族は頭領同士が幼馴染であることから交流が盛んで、因幡と姫は同い年であった。
因幡は歳の離れた二人の兄がおり、末っ子は家族に可愛がられていたが、対等に遊んでくれる相手はいなかった。
姫の方は、一人っ子で跡取り娘であったため一族挙げて大切にされていたが、同年代からは一線を引かれているように感じていた。
そんな二人は交流会で出会うと、遊びの好みが全く違うとういのにすっかり意気投合し、野山を駆け巡ったり書庫で本を一緒に読んだりと、仲良しの友達の大好きなことを共に楽しむようになった。
じっとしていることが大嫌いだった姫は本を読むようになり、ひょろひょろだった因幡は体力がつくとともに体つきがしっかりした。互いの両親はたいそう喜び、2つの一族の仲はますます深まった。
男女の区別もない友情が変化したのは、奇しくもイザナギが黄泉国を追われたときの騒動の余波であった。
その日、二人は高天原の門のそばで遊んでいた。
その時、黄泉国から這い出た一欠片のケガレが侵入を試みようと接近していた。
門番よりも神力の強い姫は、ケガレの接近にいち早く気が付き、懐に隠していた短刀に神力を込め投擲し、消滅させた。
聴力と視力が優れている兎族の中でも、ずばぬけて能力の高い因幡はそれをバッチリ見て断末魔をしっかり聞いてしまった。
(そして、姫は知らないうちに高天原の危機を救い、門番の若者は何も気が付かなかった・・・)
因幡は姫の攻撃する際の所作の美しさに見惚れ、足元が疎かになりひっくり返ってしまった。
その様子を見た姫は自分の攻撃というか凶暴さに怯えられたと感じ、顔を強張らせた。
その姫の顔を見た因幡は、弱くて頼りないと引かれたと感じた。
落ち込んだ二人はぎこちなくなり、関係の変化から気持ちも変化といった王道の幼馴染の両片思いへの道を辿った。
残念ながら彼らにはその両片思いを見破って橋渡してくれるような友人はあらわれないまま、因幡くんは純朴な庭師を経て色仕掛け系間諜となり、姫は入り婿ばなしが持ちかけられまくるお年頃となってしまった。
(因幡め!まーたデレデレと!!)
剣舞をしつつ因幡の様子を目の端に捉え、白鰐の姫は大層ご立腹だった。
あんなにほんわかと純朴だった因幡はいつの間にか色気ダダ漏れの青年になり、庭師からツクヨミ様の側近へと大出世をし、美女に囲まれても臆することなくスマートに対応をする大人の男になってしまった。
対して自分はいつまでも少女のような見た目のまま。
(私は子どもなんじゃなくて、こうゆう見た目の大人なの!歳だっておんなじなんだから!)
ついこの前、自分と因幡とが立ち話をしていたら、見た目お姉様の女性たちがクスクス笑いながら”兄と妹のようで微笑ましいわね”とコソコソ言っていたのを思い出しますますムカムカした。
婿候補の一人である従兄弟が頻繁に因幡の女性関係を報告してくるのが本当に心に刺さる。
(俺は姫様一筋ですとか言ってくるけど、私はやっぱり因幡が・・・。そろそろ諦めなくっちゃいけないかな?この前、女たらしって罵っちゃったけど、ホント因幡にとったら余計なお世話よね。)
今度は切なく因幡を見やった。
その視線に気がついたのはツクヨミとオモイカネだけではなかった。
(姫はまだあんなヤツを気にされているのか!!)
姫の従兄弟で婿候補の一人であるガロは、舞台の姫を一心に見つめつつ心の中で歯噛みした。
彼自身も容姿は悪くなく、身分も白鰐族の頭領の甥で要職を任されており、一族の中では出世頭である。
白鰐族らしくガッシリとした体つきで、腕にも覚えがある。
(あんなナヨナヨした男に姫を取られるなんて嫌だ!)
ガロは姫の気持ちも因幡の気持ちにも気がついていた。
(あいつがこの世から消えてくれれば・・・いや、せめて高天原消えてくれ!)
今までに何度唱えたかわからない呪詛を心のなかで呟いた。
”その願い叶えてやろうか?”
心の声に誰かが答えた。
驚いたガロは周りを見回した。
”そう驚くな。お前の心に話しかけている。
私の話を聞く気があるのなら、高天原の入口そばの森に来い。
・・・おい、あまりキョロキョロするな。怪しい感じになっちゃってるぞ”
心の声にガロは恐怖を感じたが、親しみやすい口調に変わったことで、少々冷静になった。
(そのような怪しい話に乗る白鰐族の者はいない。我らは高天原の門番、守りの一族である)
”すばらしいね!
たしかに誰かもわからない相手に、こんな話を持ちかけられたら陰謀だと思うよね。
君の高天原への忠誠心と誇りへの敬意として私の正体を明かそう。
私は ******だ。
私の先読みの力により、天津神の未来のために君と白鰐の姫との婚姻を願っており、君の恋敵が未来の障害となることを分っている。”
心の声が明かした正体に思わずガロはその場に膝をつきそうになった。
”おいおい、やめてくれよ。ますます怪しい感じになっちゃうじゃないか。で、どうする?”
(本当なのでしょうか?私と姫の婚姻が天津神の未来のためになるというお話は。
姫のお気持ちはどうなるのでしょうか?)
”姫を渡したくないと強く願っているのに姫の気持ちを心配するとは優しい子だね。
天津神の未来につながる婚姻なのだから、姫もすぐに自身の思いの間違いに気がつくだろうさ”
自信たっぷりの相手にガロは希望を見出してしまった。
(お話をお受けいたします)
”良い決断だ
では今からすぐに高天原の入口そばの森においで
私はこの場を離れられないので、分身を遣わそう”
ガロは姫を見やり因幡を見た後に、******をちらっと見ると、******は視線を舞台に向けたまま口端をわずかに上げて”しっ”と言わんばかりに口もとに指先を当てた。
舞い踊る姫をもう一度見た後、ガロはその場を歩み去った。
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
しっかりお話を進めていきたいと思っております!




