■ リノアとの出会い ~“子供扱いされる”天才少女~
リノアから話を聞くとやはり日本から転生してきたようだ。
元の名前やなぜ死んだかなどはうろ覚えだが、
化学が好きで色々な実験をしては家族に怒られたことを教えてくれた。
その現代知識を10歳の子供が今のこの世界で披露しても気味悪がられるだけだろう。
さて、せっかくなのでリノアに井戸を見てもらった。
実は水は湧いてきたが、濁り、悪臭がする。
町民に聞くともともとこんなものだったと気にもしていないようだが、
自分ではとても飲めたものじゃない。
これは衛生的だとは思えないので科学の力もフル活用だ。
彼女は水を手のひらにすくって眉をひそめる。
「うーん……やっぱり、鉄とマンガンが多すぎる。これじゃ飲めないよね……。でも、簡単に濾過できる方法、あるはず……」
彼女はポケットから取り出した羊皮紙に、何かを書きつけ始めた。
その日の夕方。
町の片隅で、リノアが自分と同じくらいの年齢の子どもたちと一緒に何かを組み立てていた。竹筒や木炭、砂、小石などを使い、いくつかの筒を段階的に重ねた――簡易型の層状濾過器だった。
「できたっ。誠さん、これ試してみて!」
リノアが自信満々ににやけた
通りかかった数人の農夫が、胡乱な目つきで彼女を見つめる。
「子どもが何を……こんなもんで水が綺麗になるわけ……」
訝しげに濁った井戸水を入れてみる。ゴボッ、ゴボッと音を立てながら、下から流れ出た水は――驚くほど澄んでいた。
「おい……これ、ほんとに井戸水か……?」
一人が恐る恐る飲んでみる。そして、目を丸くした。
「ま、まずくない……変な臭いもねぇ! おい、こいつはすげぇぞ!」
周囲に人だかりができる中、リノアはちょっと得意げに笑った。
「材料さえあれば、誰でも作れるよ。あと、これを定期的に干して、砂と炭を入れ替えるだけでいいの」
一人の老婆が近づいてきて、感心したように言った。
「どこでそんな知恵を……? まるで聖女様みたいだねぇ」
リノアは照れ臭そうに笑い、誠のほうを振り返った。
「誠さんがいなかったら、きっと私はまた黙らされてた。ありがとう、私の知識を信じてくれて」
誠はうなずきながらも、思った。
(この子は、きっともっと大きな力になる……俺が手を引いてやるだけで、世界だって変えられるかもしれない)
アリシアがその隣で、ぽつりと呟く。
「……年下だけど、ちょっと尊敬しちゃうかも」
こうして、リノアは「知識の聖女」として町人から一目置かれ始めた。
かつて「気味が悪い」と言われていた少女が、皆の役に立てたことにうれし涙を流していた。