◆第2章 新たな一歩
村の中に案内され、あたりを見回しながら誠は深く息をついた。
「ここが……俺の再スタートの場所か」
再配置スキルの意味もわからず、未来も見えない。
だが、それでも。
「この村で……何か掴んでみせる。もう、誰にも“無能”なんて言わせない」
それが、誠の旅立ちの本当の始まりだった。
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辺境の村「セイラン」は、木々に囲まれた静かな村だった。
王都から離れ、魔物の脅威と常に隣り合わせでありながらも、人々は強く、優しく、慎ましく暮らしていた。
誠は「記憶喪失の旅人」として村に受け入れられた。
最初は戸惑いもあったが、サラリーマン時代の社畜根性がここで生きる。
「動くのは慣れてるんで……」
地道な労働、報連相(報告・連絡・相談)、挨拶回り。気づけば彼は、村の中で少しずつ信頼を得ていく。
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ある日の昼下がり。
畑の見回りをしていた誠は、森の方から子どもたちの叫び声を聞いた。
「キャーッ!!」
「助けてー!!!」
誠は反射的に声の方へと走り出す。
茂みをかき分けた先にいたのは、小さな女の子と、牙を剥く魔物――小型のウルフ種だった。
(間に合えッ!)
誠は咄嗟に体を投げ出し、少女の前に立ちはだかる。
「――来るなッ!!」
牙が迫る。
瞬間、誠の手がウルフに触れる。
《スキル〈再配置〉発動──対象:魔物の???》
見えない力が、魔物の???を“ずらす”。
バキッと嫌な音がして、ウルフは体勢を崩し、そのまま地面に倒れた。
「くっ……!」
誠は素早く村の子供を抱えて後退し、木の棒を手に取った。
「来いよ、俺だって……サラリーマンやってたんだ。しつこい奴は慣れてんだよ!」
だが、ウルフは片脚を引きずり、唸るだけで動けなかった。やがて森の奥へ逃げていく。
あれ?何で?まあいいか。
少女は震えながら、誠の袖を掴んでいた。
「……ごめんなさい、私……花を取りに来てて……」
「いいんだ。無事でよかった」
村へ戻った誠を、村人たちは驚きと安堵の目で迎えた。
村の子供が、魔物に襲われていた――それを助けた。
「お前……あの牙狼から、子どもを……」
「いや、自分でも何がなんだか」
そして数日後。
誠が畑で作業していると、村の子どもたちが、手作りの花飾りを持ってやってきた。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
「また遊んでね!」
子どもたちの笑顔に、誠はふっと笑った。
(この世界で……やっと、必要とされてるのかもしれないな)
さらに別のとある日、
村の外れの小屋に魔物が出たとの報告が入る。
村長は村長の娘のアリシアに調査を頼む。
アリシアは村長の娘で村の中では珍しく剣技のスキル持ちのため、
魔物が出た時にはいつも村の男たちと一緒に討伐に出ていた。
「足手まといにはなりませんので自分も連れて行ってもらえませんか?何か役に立てるかもしれません」
断られると思いながらもアリシアの目を見てお願いをしてみた。
「・・・ふんっ」「まあいいわ、ついてきて」
そう言って、誠はアリシアと共に村はずれにある小屋へ向かった。
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「早く逃げて!!!みんなに知らせて!」
「そんな大きな魔物一人で戦えるわけないだろ!!」
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10分前に遡る
村はずれの小屋へ向かう道中に恐ろしい殺気を感じたアリシアは
咄嗟に誠を道の脇にはじき飛ばした。
誠は近くの木にぶつかり、うずくまる。
「う・・・」
一瞬何が起こったか分からずに目の前の景色を見て呆然とした。
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現在時間に戻る
アリシアは初撃を剣で受け流しきれなかった時に利き腕が違う方向に曲がり腫れあがっている、
内臓もすこしやられたようだ。
口からポタポタと血を吐きながら叫んでいる。
自慢の剣もすでに折れて元の長さの半分もない。
――巨大な牙狼は、既に誠の前に迫っている。
その眼には、怒りと殺意が見えた。
この巨大な牙狼は前に村の女の子を襲った小型ウルフの親だろう。人の臭いを辿ってこんな村の近くまで来てしまったようだ。
(……逃げられない……ここで死ぬのか、俺……)
そのとき 無意識のまま、誠の右手が《フォレスト・グランウルフ》を捉えた。
《スキル〈再配置〉、──連続展開します》
「――ッ!」
そして、誠の〈再配置〉は暴走するかのように、次々とその怪物の内部構造を「正しくない場所へ〈再配置〉」していく。
「が……があああああああッッ!!」
咆哮が森を揺らす。
内臓が交差し、血管が捻じれ、肺が喉元に、胃が背中側に再配置されていく。
肉体が機能不全を起こし、巨体がのたうち、崩れ落ちた。
そして――静寂が戻った。
誠は、初めて異世界で「魔物の討伐に成功」したのだった。
〈レベルがアップしました。〉
「・・・」
「何をしたの???」
「いや、なにがなんだか」
「いえ、そんなことより、あなたのおかげで命拾いしたわ、ありがとう。」
「あなたの事、誤解してたみたい・・・」
緊張が解けたことでアリシアがぐったりし始めた。
脳内に声が響いたが今はそんなことよりもアリシアの傷が心配だ。
早く村へ運ばないと。
誠はその辺にあった木の板と自分の服を破いて包帯を作り
腕に板を添えながらぐるぐるとアリシアの腫れあがった腕を固定した。
ぐったりしたアリシアを背中に背負い、急いで村長の家に戻った。
アリシアを見た村長はすぐに部屋に運びポーションを飲ませた。
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その夜、フォレスト・グランウルフを討伐したことで村では宴が開かれた。
「この魔物はこの村周辺で数々の死傷者を出したこともあることで有名です」
「生きて戻っただけでも奇跡なのにまさか討伐してしまうとは」
「誠様、家族の敵討ちをありがとうございます。」
「やっとこれでうちのひとは安らかに眠れると思います」
村の人たちから何度もお礼を言われて誠は照れ臭かった。
「これはこの魔物から取れた魔石です。ギルドに持っていけば買い取ってくれますよ。」
「ありがとうございます。」
誠は赤く濁った握りこぶしくらいの石を受け取り麻の袋の中にしまった。
「アリシアの傷の具合はどうですか?」
そのあとすぐに後ろから頭をポンっと叩かれた。
「私は無事よ。このくらいならポーションも飲んだし寝ていれば治るわ」
そう言いながらも右腕はしっかり固定されていた。
初級のポーションでは多少の傷は治せても骨折は治らないようだ。