■ リノアの初めての体験
晴れた空の下、森の端にある小さな空き地に、誠とリノア、そしてアリシアが立っていた。今日はリノアにとって大切な日。初めて本物のモンスターと対峙する戦闘訓練の日だった。
廃村のラズン村へ行くにはどうしてもダンジョン化した洞窟を通らないといけないことがわかったのでリノアも戦えるようになって貰おうと特訓中だ。
もちろん自分が守るつもりではあるが、戦えないとダンジョンの中ではぐれた時危険だし。
「本当に……やれると思うの?」
アリシアが心配そうに眉を寄せた。風魔法の心得もある彼女にとって、まだ10歳そこそこの少女が戦うことには抵抗があるのだ。
「うん。誠さんに教えてもらった動き、ちゃんと覚えたし。やってみたいの!」
リノアの目は真剣だった。生まれてからずっと知識だけで周囲から浮いていた彼女にとって、今の仲間と肩を並べて旅をするためには「守られるだけ」ではだめだと痛感していた。
誠は静かに頷き、小さな斜面の向こうに潜む《スライム》を指差した。これはランクFのモンスターで、脅威度は最低クラス。
「まずはあいつだ。怖くなったらすぐに下がれ。それで十分頑張ったってことになるからな」
リノアはこくりと頷き、手にした小さな杖を握りしめた。
ガルディアの町の道具屋で売っていた護身用の杖だ。
魔力がなくても扱えるが、どうしても値が張るが命には代えられない。
「はあああ!……《ショック・スパーク》!」
リノアが詠唱と共に放った電撃の魔法が、ゼリー状の身体を貫いた。パチンと音がしてスライムの体が揺らぎ──その場に焦げカスが残っていた。
「や、やった……?」
リノアは半信半疑で焦げカスに近づき──それが完全に消えたのを見てほっと胸を撫でおろし、両手で口を押さえた。
「倒せた……わたし、モンスターを……!」
《ティンッ!》
その瞬間、頭の中にメッセージが流れる。
【リノア】のレベルが1 → 2に上昇しました。
新たなスキル【エネルギーフォーカス(初級)】【ライト(初級)】を獲得しました。
「すごい、リノア……本当に自分の力で倒したんだな」
誠が微笑む。アリシアも感嘆の息をついた。
「でも今の魔法、ちょっとアレンジしてた? 通常のショック・スパークより貫通力あったような……」
「う、うん。雷ってエネルギーの集中が大事だから、最初にチャージするイメージで構えをしてみたの」
「それ、完全に化学……」
誠とアリシアが顔を見合わせ、吹き出す。
「スキルも手に入れたんだ。これなら今後もきっと役に立つさ」
「うん……ありがとう、誠さん!」
リノアの目に輝きが戻る。こうして、少女は仲間として、冒険者としての最初の一歩を踏み出したのだった。