閑話 旅の途中の露天風呂
「……ん? あれ、煙?火事?」
「いえ、ほのかに硫黄のにおいがします!」
旅の途中、山道を抜けた先。ふと、湯気が立ち昇っているのを誠が見つけた。近づいてみると、そこには岩に囲まれた自然の露天風呂があった。
「わぁ……これ、源泉だよ!」
リノアの目が輝く。
「自然のの露天風呂なのね!ラッキーね」
アリシアも髪をかき上げながら、感心した様子で湯を覗き込む。
「せっかくだし、休憩がてら入っていこう。見張りはやっておくよ」
誠が提案すると、二人はハイタッチした。
しばらくして――
岩の向こう側にて、女性陣が先に入浴中。
「はぁ~……極楽……」
アリシアは肩まで浸かりながら、湯の温かさに目を細めた。
「ねぇアリシアさん、誠さんのこと、どう思ってるの?」
湯の中ではしゃぎながら、リノアが突然切り出した。
「ぶっ……!」
アリシアは思わず湯を飲みかけた。
「そ、そうね……仕事に真面目で、人のことばっかり考えてて……ちょっとお節介だけど、ああいう人が……嫌いじゃない、かな」
アリシアが珍しくしおらしい口調で言うと、リノアはニヤニヤと笑った。
「へぇ~、嫌いじゃない~……ってことは好きってことじゃん?」
「ち、ちがっ……ちがうわよ!!」
アリシアは頬を赤らめて慌てる。
「でもさ、アリシアさんって綺麗だし、強いし、誠さんもドキドキしてるんじゃないかな~。ライバル多そうだし、ちゃんと気持ち伝えた方がいいよ?」
「……なにそれ、どこでそんなこと覚えたのよ……」
アリシアは溜息をついたが、口元にはうっすらと笑みが浮かんでいた。
リノアも笑いながら、湯の中で両足をぱちゃぱちゃと動かす。
「……でも、私も頑張るからね。誠さん、すごい人だもん。ずっと一緒に旅したいから」
アリシアは少し驚いたようにリノアを見つめると、ふっと笑った。
「ふふっ……そっか。じゃあ……ライバルね、私たち」
二人の声が湯気に包まれて、やわらかく夜の山に溶けていった。
岩の反対側では、誠がくしゃみをしていた。
「……なんか変な噂されてる気がするな……」