■ 旅立ちの決意
夜。村の広場に、小さな焚き火が灯っていた。
リノアは、火の揺らめきを見つめながら、少しだけ緊張した面持ちで誠に話しかけた。
「……あのね、誠さん。お願いがあるの」
「ん、どうした? お腹でも空いたか?」
冗談めかして返すと、リノアは少しだけむっとした顔で睨んできた。
「ちがう! ……真面目な話」
「ごめんごめん、ちゃんと聞くよ」
誠は笑いを収めて、焚き火の向こうからリノアの瞳を見つめた。
その瞳は、どこまでも真剣だった。
「私、旅に出たい。誠さんと一緒に。……お願い、連れていって」
その言葉に、誠は少し驚いた顔をした。
「リノア……。ここには、君を育ててくれた人たちがいるんじゃないか? 急にそんなこと言って、家族が悲しむんじゃ……」
リノアは静かに首を振った。
「私、赤ちゃんのとき、この町の門の前に捨てられてたんだって。血のつながった家族は……たぶんいない、血はつながっていないけど、私を拾って育ててくれた家族はいるの」
「育ててくれたお母さんにはとても感謝している。」
誠は息をのんだ。
リノアは続ける。
「だからこそ、何か残したかった。役に立ちたかった。誰かの役に立つことで、ちゃんと“ここにいてよかった”って思いたかったんだ」
「そう思いながら、10歳になったとき転生前の記憶が流れ込んできたの」
「この知識でお父さん、お母さんの役に立てたらいいなって、色々教えたんだけど、、、」
「現代の知識を理解してもらうことはできなかったの」
「気味が悪いと」
リノアは過去を語ってくれた。
でもその眼差しに見えるのはキラキラ輝く野心だった。
「私は……この世界をもっと知りたい。現代の知識を使ってもっと人を助けたい。そのためには、ここにいるだけじゃ、一人じゃ何もできない。」
誠は、しばらく何も言わずに火を見つめていた。
そして、ぽつりとつぶやく。
「……俺も、転生してきてから、いろんなものを失った。でも、ここで初めて“仲間”に出会えた。もし、君が本気で俺と一緒に歩きたいと思ってくれるなら――」
そこまで言って、にこりと笑う。
「歓迎するよ、リノア。ようこそ、俺たちの旅路へ」
その瞬間、リノアの目に涙が浮かんだ。
「……ありがとう、誠さん!」
焚き火の温もりの中、小さな手がしっかりと誠の手を握った。
そしてその夜、リノアの「家族」に、彼女の決意が語られた。
皆が驚き、寂しがり、そして――誇らしげに彼女を送り出してくれた。
「リノア、お前なら大丈夫だ!」
「うちの自慢の娘だ、胸を張って行ってこい!」
彼女は今まで育ててくれた家族に深々と頭を下げ、旅立ちの第一歩を踏み出した。
新たな仲間が加わった。