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仲間


 「それで明日の放課後にこの学校の部活動を紹介して周りたいんだけど暮上君の都合は大丈夫かな?」


 「はい」


 結局、その日はそれ以外の進展がないまま放課後を迎えてしまった。


 「それじゃあ明日よろしくね。……それで、どうだったかな?今日一日この学校で過ごしてみて……少しは慣れたかな?」


 「はい」


 「なら良かった。でも何か困ったことがあったら遠慮せずに言ってね」


 「……はい」


 ……ヒナは朝もそう言っていたが、家庭環境レベルのものでなければ他人に干渉出来るのか……?


 まあ心配事程度の話にすら干渉できないなら教師にはなっていないか……。


 ポルルはあの時妹が自分の手で俺を殺していたらもっと酷いことになっていたと言っていたが……やっぱりこのままにしておける訳ないよな……。

 

 「それじゃあ暮上君、また明日」


 「……はい、また明日」


 改めて妹の抱えている恐怖をどうにかすることを決意し直し、その日はアパートに戻ったのだった。






 そしてその日の夜……


 「…はぁ、ヒナの恐怖をどうにかする方法がなんも思いつかねぇ」


 心の問題なら手っ取り早く精神科医にでも頼らせようかと思ったが、《兄を魔法使いに誘ったせいで結果として死なせてしまった事を気に病んでる》と正直に説明する事が出来ない以上その手段は使えないだろう。


 「……それとヒナのクラスにいたあの女子……あっちの方もどうにか……。……そういえば前野が近くのゲーセンで目撃情報があるって言ってたな」


 曇月学園の近くのゲーセンってなると………。




 

 「…俺の記憶ではこの先にあったはず……」


 記憶を頼りに、件のゲームセンターへと行ってみることにした。


 すると……


「…………あ」


 「……あんたは」


 丁度、そのゲームセンターから出てきていた件の生徒とバッタリと出会してしまった。


 (会えればラッキーぐらいの気持ちで来てみたが、まさかこんなすぐに会えるとは……)


 ……だがこれは彼女の生活態度が突然悪くなった原因を探る絶好のチャンスだ。


 彼女がなんらかの事情を抱えているのならそれを解決とまでは行かなくとも、聞き出すことが出来れば………現状を打破するきっかけになるかもしれない。


 その為にも彼女に掛ける言葉には最大限に気を遣って………


 「……学生がこんな時間に出歩くなよ」


 「……アンタに言われたくないんだけど」


 ……ワンアウトってところか?


 「……まあ、でも丁度よかったかな」

 

 「は?」


 「ついて来て」


 「ちょっ……!?」


 彼女は突然俺の手を掴んだかと思うと、そのままゲームセンターの中へと入って行ったのだった。

 




 そしてそれから閉店時間までの間、訳も分からぬままエアホッケーなどの相手をさせられ続けた。


 「いやー遊んだ遊んだ。一人で遊ぶタイプのヤツは全部やり尽くしちゃって飽き飽きしてたんだよね。どうやって時間を潰そうか悩んでたからアンタが居てくれて助かったよ」


 ゲームセンターから出た彼女は、背伸びをしながらそんな事を言ってくる。


 (まさか閉店時間ギリギリまで居る事になるとは……でも一つ分かったことがある)


 「……もしかして家に帰れない事情でもあるのか?」


 「…………」


 その問いを突き付けた瞬間、それまでの楽しそうな表情から一転、彼女の顔から全ての表情が抜け落ちた。


 (この反応……ビンゴか)


 「………あんたも」


 「ん?」


 「あんたも同じなんじゃないの?」


 「……え?」


 「私が朝アンタに家庭の事情で引っ越して来たのかって聞いた時に少し動揺してたよね。それにこんな時間に出歩いてるし………アンタんとこの家も両親が喧嘩してるとかじゃないの?」


 (両親の喧嘩……それが雲母坂の抱えている事情なのか……。家に居づらいからこうして帰る時間をギリギリまで遅くして、それで朝に起きる時間が遅くなってしまって遅刻してるということか)


 思いがけないタイミングで知る事が出来たが、そういった内容となると仮にヒナを元に戻せたとしても解決する事は……。


 ……とりあえず今は誤解だけ解いておこう。


 「…すまん、俺は今一人暮らししてるからそういうんじゃ……」


 「フーン、でもあの時のアンタの目……家に居場所が無い奴が浮かべる目をしてたよ」


 「……!?」


 居場所が無い……今朝、彼女が家庭の事情というワードを出した時に、無意識のうちに陽巻家で生活してた時のことを思い出していたかもしれないが……そんな目をしてしまってただろうか。


 「まぁ、でも一人暮らししてるってんなら丁度よかった」


 「……丁度よかった?」


 「暫くアンタんところに厄介になろうかな」


 「は!?」


 「なに?文句ある?」


 「文句しかねーよッ!!俺、男だぞ!?泊まるんなら女の子の家にしときなさい!」


 「無理、ツルんでた子達はみんな家族と一緒に暮らしてるし、………何より家族仲が良好な奴らと今更仲良く出来る気がしないし……。いいじゃん、同じ傷を持つもの同士助けあおーよ」


 ……どうする、どうやら彼女の中には《もう少し出歩いてから家に帰る》か《俺の家に泊まる》の二択しか存在しないようだ。


 彼女の頼みを断った場合、また明日も遅刻してヒナを困らせるだろうし、何より女子高生がこんな夜中に出歩いていたらどんな目に遭うか分かったもんじゃない。


 「…………分かった」


 「ホント?!じゃあ今から家に付いて来てくれない?服とか色々取ってくるからさ」


 そうして、一度彼女の家に向かう事になった。






 「あれがアタシん家」


 ゲームセンターから歩くこと数十分、周りの景色が歓楽街から住宅街に変わって暫くした頃、彼女は此処が自分の家だといって一軒の民家を指差した。


 「じゃあ服とか取ってくるから此処で待ってて」


 そして、俺に外で待ってるように言って、彼女は一人その家の中へと入って行った。


 それからすぐのことだ。


 

 「父さん!?母さん!?なにしてるの!?やめて……!」



 開けっぱなしになっている玄関の扉の向こうから、切羽詰まったような悲鳴が聴こえてくる。


 (!?…なにかあったのか?!)

 

 此処で待っていろとは言われたが、どう考えても先程の声は緊急事態のそれだ。


 「おい大丈夫か?!何があった!」


 急いで家の中へと駆け込み、彼女の姿を探す。


 そして家に入ってすぐにその違和感に気付いた。


 (ガソリンの臭い……?)


 一般の民家の中ではするはずのないその臭いに、嫌な予感を覚えながら先に進むと、リビングでへたり込んでいる彼女の姿を見つけた。


 そしてその視線の先には雲母坂の両親らしき男女も居た。


 ……ただ、その様子がどうもおかしかった。


 ……父親だと思わしき男性はガソリンの携行缶を抱えており、母親の方は火の着いたライターを片手に握って、体に黒いモヤを纏わせながらお互いに向かい合う形で何かをブツブツと呟いている。


 「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」


 「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」


 そんな不気味な光景を作り出している二人の足元には、何かの液体がばら撒かれている。


 不味い状態であることは一目瞭然だった。


 (あの身体に纏わり付いている黒いモヤも気になるが、先ずはあの女性が手に持っているライターを回収しないと)


 そう決めて足を一歩踏み出したその瞬間、ライターを握っていた女性がその手をパッと開いた。


 ………そして、


 「…マズっ!?」


 ライターの火が床に触れた。



 轟ッ!!



 刹那、爆発でも起こったのかという勢いで炎が広がる。


 「……………やっぱりあの液体ガソリンだったのか」


 「……あれ、私なんで生きて………ハッ?!父さん!母さん!!」


 「……大丈夫だ、二人もちゃんと回収してある」


 「え?……なっ!?アンタその格好………」


 俺の方へと顔を上げた雲母坂が驚きの声を上げる。


 そう、あの瞬間咄嗟に『魔法使いマギア・ヌヴォーラ』に変身して、父親と母親を引き寄せつつ自分たちの周りにバリアを張ったのだ。


 バリアの外では今も轟轟と炎が燃え上がっている。

 

 「……子供の時にニュースで見たような………確か『マギア・シエロ』って魔法使いの女の子達がそんな格好してたような………え、アンタまさか……『マギア・シエロ』!?」


 「………」


 緊急事態だったから咄嗟に人前で変身してしまったが……大丈夫だよな?


 ポルルは他者の認識の中で俺と本当の名が結びつかなければ大丈夫と言っていた。なら『陽巻ソラ』という人物を知らない雲母坂に俺が『マギア・ヌヴォーラ』だとバレたところで問題は無いはずだ。


 「……とりあえずこの炎が家の外に燃え広がる前に消してしまおう」

 

 「出来るの?!」


 「ああ」


 『マギア・シエロ』のメンバーなら全員が使える、怪人との戦いで壊れた街を元に戻すための魔法。


 「……こほん、人々の安寧を見護りしモノ達よ、かつての姿を取り戻せ!『リプリ…グゥッ!?」



 魔法を唱えていると突然、何者かに首元を掴まれた。



 「父さん?!母さん?!何してるの!?その人は私達を助けてくれた人なんだよ!?」

 

 「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」


 「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」


 首を絞めていたのは雲母坂の両親だった。


 「ぐぅぅっ!?」


 (不味い、今自分が意識を失ったらバリアの維持が出来なくなって全員焼け死ぬ……!)


 『ポルル!緊急事態だ!!身体に黒いモヤを纏わせている人達に襲われている!何か知らないか!』


 『……!!今すぐその人達に怪物化を治す魔法を!』


 『……!』


 「じょ……化の……光よ……ゴホッ、彼のも……の真実の……がたを照らし……出せ!」


 『『オォォォォォ!!』』


 「……っ!ゴホッゴホッ!………ハァ…ハァ…ハァ」


 俺の首を掴んでいた四つの手が離れた。


 (……!雲母坂の両親が纏っていたモヤが消えた!?……よし、これで……!)


 「人々の安寧を見護りしモノ達よ、かつての姿を取り戻せ!『リプリス』!」


 バリアの向こうの光景が、火事の起こる前のものへと巻き戻っていく。


 『……ありがとうポルル、助かったよ』


 『……ふぅ、ソラが無事なら良かったポル』


 『それであのモヤなんなんだ?対処法を知ってたってことはアレが何か知ってるんだよな?』


 『……今日の朝にボクが怪物化する人はもう現れないだろうって言ったのを覚えているポルか?』


 『……ああ』


 『……かつて邪精王とその一派は、人間の怒りの感情を増幅させながら怪物化させることで恐怖と破壊を振り撒き、効率良く人間の負の感情を集めていたポル』


 『それは勿論知ってるが……』


 『だけど、ソラ達が怪物化した人達と戦い続けるうちに、人々は怪物化というものに対してどんどんと恐怖を抱かなくなっていったんだポル』


 『たしかにそんな感じだったな』


 『怪物が現れてもすぐに魔法少女達が来て解決してくれる。自分が怪物になってしまってもすぐに元に戻してくれる………人々がそんな認識になってしまっては怪物化で回収出来る負の感情もたかが知れる……だから奴等はキミが死んだ後ぐらいから人々に負の感情だけを植え付けてそのまま放置するという手段を取り始めたんだポル』


 『……えぇ、陰湿すぎない?』


 だが雲母坂の現状を見る限り確かにかなりの負の感情が回収されてしまいそうだ。


 『……ごめん、だから怪物化みたいな派手なものと違って被害に遭った人達を見つけづらくて……僕達も総動員でパトロールはしてるんだけど、まさかその街にも被害者がいたなんて……』


 『そんな大変なことになっているのか………ならやっぱり俺も手伝ったほうが良くないか?』


 ヒナのクラスで唯一大きな問題を抱えてたっぽい雲母坂の問題もこれで解決するかもしれないし……。


 『駄目だ。せっかく生き返れたんだからソラには自分の人生を取り戻す事に全力を注いでほしいんだ。…………と言ってもソラは聴いてくれないポルよね。分かったポル、お手伝いをお願いするポルよ………ただし!』


 『……ただし?』


 『前みたいに学校に通いながらの活動にしてほしいポル。セレーナのクラスの子達だって誰がいつ困り事を抱えるか分からないし……何より今回は活動時間を放課後に限定できる筈だポルから』


 『ん?どういう事だ?』


 『ソラにはその日のうちに僕達がリストアップした被害者達のところを回ってもらって、直接対峙する役目をやってもらうつもりポル。そしたら僕達も被害者の捜索の方に全力を尽くせるようになるから、今回みたいな見逃しは無くせると思うポルよ』


 『なるほど、まあ詳しい話は明日にしよう。雲母坂が説明して欲しそうな目でこっちを見てる』


 『状況の説明も大事だけど、ソラのことに関する口止めをしっかりとしておくんだポルよ。その人達に暮上大地がマギア・ヌヴォーラだと認識されても《おまじない》は解けないポルけど、もしその事が……ヌヴォーラの正体がソラだと知っている元マギア・シエロのメンバーの娘たちに伝わってしまったら……』


 『分かってる。ああ、それと今回のやつって記憶の方はどうなるんだ?怪物化事件の時の被害者は暴れてた時のことを憶えてなかったみたいだけど……』


 『どうやら今回のも植え付けられていた感情の影響を受けていた間のことは記憶に残らないみたいだ』


 『……マジかよ。雲母坂の両親が夫婦喧嘩するようになってから二ヶ月ぐらい経ってるっぽいが……』


 ……まあ、喧嘩してた時の記憶が無いならそれに越したことはないか。


 『二ヶ月か……夫婦喧嘩ってことは植え付けれたのはお互いに対する怒りや憎しみだろうね。という事は幸いにも家の外の人間に対してはいつも通りの対応をしてたと思うけど……人間社会の中で二ヶ月間の記憶を失うっていうのはかなりのハンデポルね。身内の……その雲母坂っていう子のフォローが不可欠になってくるポルよ』


 (家の外の人間には普段通りなんてそんなことあるか?いや、外の人間に対してさっきみたいな様子を見せていたらとっくに警察が介入している筈だよな)


 『分かった。他に伝えとかなきゃならないことってあるか?』


 『もう無いと思うけど……ソラの正体に関する口止めは絶対に、ちゃんとしておくんだよ!』


 『ああ、分かった分かった』


 テレパスを切り、意識を雲母坂とその両親の方へと向ける。


 「雲母坂、両親の様子はどんな感じだ?」


 「ね、眠ってるだけみたいだけど………父さんと母さんは……どうなったの?」


 「さっき二人に植え付けられていた負の感情を浄化した。……あー、昔怪物化事件ってあっただろ?」


 「……うん」


 「雲母坂の両親は身体は人間のままに心だけ怪物化させられてたんだ。それでさっきそれを治した」


 「………ッ、じゃ、じゃあもう二人は喧嘩しないってこと?」


 「ああ、それで雲母坂には二つほどお願いしたい事が……」


 「ウウッ……うえぇ……」


 「!?」


 「……………わ、私……どうすればいいか分からなて、二人の仲が悪くなったきっかけにも心当たりがなくて、でもこの事を誰かに言ったら家族がバラバラになると思って………」


 確かに夫婦が子供にも影響が出るレベルで喧嘩しているとなると、警察や児相案件となるだろう。そしたらきっと彼女達は家族と引き離されていた筈だ。


 そしてそれがヒナの申し出を拒んでいた理由か……。


 「………二ヶ月もよく耐えたな。もう大丈夫だ」


 「うっ、うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!」


 先ずは安心させてやろう。そんな気持ちで言葉をかけた途端、それまでこらえていたものが一気に溢れ出したかのように彼女は泣き出したのだった。


 


 そしてそれから暫くして……


 「……ぐすっ、ごめん。もう大丈夫」


 「……そうか。………すまない、今は余裕が無いかもしれないが二つ頼みを聴いてほしい」


 「……そういえばさっき何か言いかけてたわね。なに?なんでも言って」


 「ああ、一つは雲母坂の両親の事なんだが……多分二人とも様子がおかしくなってからの事を何も憶えていないと思う。だから雲母坂がフォローしてやってくれないか?」


 「わ、分かった……それでもう一個の頼みっていうのは?」


 「俺が魔法使いだってことを決して口外しないでくれ」


 「分かった、秘密にする」


 「…助かる」


 これで一先ず正体に関する事は安心出来そうだ。



 「……ううっ」「ここは……」



 そして、丁度雲母坂との話が終わったタイミングで夫妻が意識を取り戻したようだ。


 「……なんで私たちはここで寝てるんだ?」

 

 「父さんッ!母さんッ!」


 「……伊織じゃないか。そんなに泣いてどうしたんだ……一体何が」


 「それは俺から説明しましょう」


 「……ん?一体誰だ………なっ!?その格好、マギア・ヌヴォーラ!?」


 「本物なの?!」


 「本物です」


 目の前で姿を消して見せる。


 「魔法……なんでヌヴォーラがうちなんかに……」


 「実は………」



 出来るだけ簡潔に今の状況を説明と口止めを行った。



 「……そんな事になっていたのか」


 「私達が喧嘩してたなんて考えられないけど……ヌヴォーラが言うなら本当の事なのよね」


 ……どうやら夫妻は負の感情の影響を受けてなければ仲は良好なようだ。……一先ず安心出来そうだな。


 「すまないな伊織、一人で大変だっただろう」


 「もう大丈夫だから」


 「…………うえっ」


 久しぶりに聴いたであろう両親の優しい声音に改めて安心したのか、彼女は二人に縋り付いてわんわんと泣き出した。


 「……それじゃあ俺はこの辺で」

 

 俺がこの場でやる事ももう大丈夫無いだろう。そう判断してこの場を後にしようとした。


 その時だった、


 

 「おい伊織!裏山からお前ん家の部屋が燃えてるのが見えたんだが!大丈夫か!」



 玄関の方から、張りのある女性の声が聞こえてきた。


 「……この声……姐さん?」


 その声に心当たりがあるのか雲母坂が顔を上げた。


 「姉さん?姉がいるのか?」


 「あ、いや……その、私の事をよく気に掛けてくれてた交番の婦警さんを勝手にそう呼んでただけで……」


 婦警に気に掛けられていた?……そりゃそうか。女子高生が深夜に出歩いてたりしたらそりゃあ警察との関わりも出来るよな。


 「名前は五十嵐いがらし愛菜あいなって人なんだけど」

 

 「へぇ……いがらしあいな…………………五十嵐愛菜!?!?」


 それは俺たちの仲間の一人だったマギア・テンペスタの本名だ。………え、あいつ警官になったのか?!というかすぐそこにいるのか!?



 「玄関も開けっぱなしだったから緊急事態だと判断して勝手に入らせてもらうからな!」



 そういえば玄関を開けっぱなしにしたままだった……!


 (………まずい!この場に来ようとしている!?アイツに顔を見られるわけにはいかない……!今俺はヌヴォーラに変身していて前髪ガードもメガネも無い!)


 「雲母坂すまん!俺は帰る!俺のことは誤魔化しといてくれよ!頼んだからな!」


 「え…!?ちょっ……!」


 「じゃあな」


 彼女にそう伝えながら庭に繋がってる掃き出し窓まで向かい、そこから外へと出て飛行魔法で急いでその場を離れたのだった。


 「おい!伊織!大丈夫か…………………え」


 


 









 「あ、あの姐さんこれは…………」


 「……………………」


 「……姐さん?」


 「………ヌヴォーラ……?なんで…………ソラ?」




  

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