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ポルル


 「……………………………………………は?」


 ……なんで俺は住宅街のど真ん中に突っ立っているんだ?


 先程まで俺は怪物化事件の黒幕との戦いに身を投じてた筈だ。


 ………そして、黒幕を道連れにする為に自ら命を絶った筈だ。


 もしかして此処はあの世ってやつか?


 いや、それにしては目の前の光景は見慣れた人間の世界の…所謂住宅街のように見えるが……。


 「……そういえば戦いはどうなったんだ?みんなはまだ妖精の国にいるのか?スマホは……流石に繋がる訳ないよな。こうなったら……」


 頭の中で、仲間達の顔を思い浮かべながら語りかける。


 『あー、こちら陽巻ソラ……気付いたら人間の世界に戻ってきてたっぽいんだが、誰か何か知らないか?』


 これはテレパスと呼ばれるもので、妖精と契約した者同士が距離を問わずに頭の中で会話することが出来るという便利な通信手段だ。


 これならば彼女等がまだ妖精の世界に居たとしても連絡が取れると思っていたのだが………


 「…………………」


 どれだけ待っても仲間達からの返答は返ってこなかった。


 (……もしかして何かあったのか?まさか俺に取り憑いていたヤツが仲間達に何かしたんじゃ……)


 自分の置かれてる状況も…仲間達の状況も…まるで把握出来てない。


 「…とりあえず此処がどこかを把握して、家に戻ってみよう」



 あそこには今、俺たちに魔法の力を与えた妖精ポルルがいてくれてる筈だ。



 その為にも先ずは今自分がいる場所を把握しなければと、その辺りを歩いていた通行人に現在地を尋ねたのだが………


 「……なんだって?」


 「いや、だから此処は〇〇県の□□市××町だよ」


 「……本当に此処は××町なんですか?」


 「だからそう言ってるじゃないか」


 「……あんな家建ってましたっけ?」


 「え?そうだなぁ……五年くらい前には既にあったと思うけど………」


 「……………」


 教えられた現在地は………ウチの近所のものだった。


 だが此処が本当にウチの近所なら、俺はその辺の景色を見てすぐに気づけた筈だ。


 ……突然知らない世界に一人放り出されたような……得体の知れない恐怖を感じた。


 そんな恐怖から逃げるように、自宅のあるはずの場所を目指して…走った。




 幸いな事に、街並みが変わっていても道の造りは変わっておらず、迷う事なく其処へと辿り着く事ができた。


 そして……


 「……良かった。この家は変わっていないみたいだ」


 俺を引き取ってくれた夫妻の住まいは俺が知ってる形のまま、そこに存在していた。


 急いで玄関へと向かい、インターホンを押す。

 

……この時、その家の表札がまったく別のものに変わっていることを、俺は気づけなかった。


 「はーい」


 インターホンについたマイクから中年ぐらいの女性の声が聴こえてくる。


 だが俺はその声にまるで聴き覚えがなかった。


 「……どちら様ですか?」


 「…この家の者ですけど」


 「……………え?」



 今朝、妖精の世界に突入するまで確かに居た筈の家に……知らない誰かが住んでいた。


 (……どういうことだ。この家は良介さんの家だろう。ポルルだって此処で俺達が帰ってくる為の転移門の維持をしてくれてる筈だ)


 「……この家って陽巻良介さんの家ですよね?」


 「……どこか別の家と勘違いしてませんか?ウチは陽巻って苗字でもなければ、良介なんて名前の者は住んでませんが」


 「ッ!そんな訳が……」


 「…………‥あ、いや、そういえば私達の前にこの家に住んでた人たちがそんな苗字だったような……」


 「……前に………住んでた人……だって?」




 その後、混乱している様子の俺を見かねて警察を呼びましょうかと女性が提案してきたのだが、警察に「妖精の世界から戻ってきたら世界が知らないものになっていた」なんて言う訳にもいかず、俺の勘違いでしたと一言伝えて一旦その家から離れることにした。


 そして、次に何をすればいいかも思いつかないまま知ったようで知らない景色の中をあてどなく歩いていると……何処からか俺を呼ぶ声が聴こえてきた気がした。

 

 「今誰かに呼ばれた気が……上か?」


 その声の出所を探すように上を見上げると、薄緑色の小さな物体が高速で此方に近づいてくるのが見えた。


 そしてソイツはスピードを緩めることもなく俺の顔面に抱きついてくる。



 「ソラーーーーーーーーーッ!!!」



 「わぷっ?!………まさかポルルか?!」


 その手のひらサイズのぬいぐるみのような生命体には見覚えがあった。


 「ソラッ!ソラ!ソラァ!」


 それは先程まで俺が会おうとしていた筈の妖精ポルルだった。


 ソイツは大粒の涙を流しながら何度も俺の名を呼んで顔をこすり付けてくる。


 「まさかと思ったけどっ!ソラの声でテレパスが届いた気がして、気になって見にきて本当に良かった……!またソラに会えるなんて!!」

 

 「ポルル、一旦離れてくれ……!さっきから何かがおかしいんだ。良介さんの家に知らない人が住んでたり、知ってる筈の場所が知らないものになっていたり……」


 顔にへばりついているぬいぐるみのような物体を無理矢理に引き剥がした。


 「っ!ソラ……やはりあの道具が使われて……」


 「……!何か知っているのか?!教えてくれ!頼む!」


 「もちろん説明するよ。……でもこのあたりだと人目についちゃうから場所を変えよう。


 ……あの神社に場所を移そうか


 」


 「…そうだな。あそこなら誰もいないだろう」





 


 ポルルの言う神社が家の近くにある寂れた神社のことだというのはすぐに分かった。


 此処は俺が、陽巻家の人達の……家族の団欒の時間を邪魔するのが申し訳なくて、よく時間を潰す為に来ていた場所だ。


 「此処は変わってないんだな。……それで、一体何が起こってるんだ?ヒナ達は無事なのか?」


 神社へと続く階段を登り終えるのと同時に、単刀直入に問いただした。


 「……それを教える前に一つ質問に答えてほしい。ソラはさっきまで怪物化事件の黒幕と戦っていたんだよね?」

 

 「あ、ああ………」


 「………落ち着いて聴いてほしい。怪物化事件の黒幕が倒されたのは十年前……


此処はソラからすると十年後の世界なんだ



 「…………そうなのか」


 ……自分でも驚くほどすんなりと、その事実を受け入れることが出来た。


 ポルルの言ったことが事実であるなら、近所の街並みが知らないものになっていた事にも、家に知らない誰かが住んでいた事にも説明がつくからだ。


 むしろ黒幕が倒されていたという事実の方に安心した。


 「それで、なんでこんな事になったんだ?」

 

 「……少し前に、妖精の国からある秘宝が盗み出されて、僕はその行方を追ってたまたま人間界に来てたんだ」


 「ある秘宝……?」


 「うん、『一度だけ真実を無かったことに出来る』ってアイテムなんだけど、ソラが生き返っているって事は……どうやら秘宝を盗んだ者の目的は……キミと一緒に死んだ筈の邪精王の復活……だろうね」


 「………なっ?!」


 「ソラの死と邪精王の死は深い因果関係で結ばれた出来事なんだ。ヤツの死が無かったことになるという事は、ソラの自己犠牲も無かったことになるということ。だから君がこうして生き返ってるっていう事は………」


 「ヤツも生き返ってるっていうことか……!」


 「ヤツは次こそボク…達に勝つ為に、また人間の負の感情エネルギーを集め始めるかも知れない」


 「また人が怪物に変えられてしまうってことか!?不味いだろ、早く他のメンバーにも伝えないと……!!」


 「……マギア・シエロの娘達にまた戦ってもらうっていうのは……厳しいだろうね」


 「厳しいって何が……そんなこと言ってる場合じゃ」


 …俺が死んでから十年、みんなはもう26かそこら……あっ(察し)


 「その……もしかして年齢的な意味で」


 「…怪物化事件が終息した後、彼女達からは魔法の力を返してもらっているんだ」


 「あーね」


 「そして君が言うように彼女達はもう大人の一員になってる。学生の時ほど自由に活動出来ないだろうし頼るのは厳しいんだ」


 「そうそう、俺が言った年齢ってそういう意味ね。誤解なく伝わって良かったよ!いやぁそれにしても十年かぁ!ポルルも変わっちまう訳だ!」


 「…??ボクは何も変わってないと思うけど……」


 「何を言ってるんだ。俺の知ってるポルルは語尾にポルってつけて喋ってたのに、今はすげえ大人びた喋り方になってるじゃないか」


 「………………………………あっ、忘れていた………ポル」


 ………ん?


 「忘れてた……って、え?語尾を?まさかあれ作ったキャラだったのか……?」


 「…………そんな訳ないポル!ボクは素で語尾にポルってつけてたんだよ……ポル」


 (……自分で語尾って言わないでほしい)


 「ん゛んっ!ともかく、此方の方で怪物化事件への備えは進めておく……ポルけど、先ずはソラの生活基盤を整えてあげるポル」


 「それは………助かる」


 ポルルがどうやってそれをしてくれるのか分からなかったが、突然十年後の世界に放り出されて、身分も金もない状態の俺からすればありがたい申し出だった。


 


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