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最終決戦


 今から二年前、人が突然化け物のような姿に変異して暴れ回るという事件が世界各地で発生し始めた。


 何者かによって人外の力を与えられ、増幅された負の感情のまま暴れ回る彼等には、人類の持つどの様な攻撃手段も通用せず、人々はただ逃げ惑うということしか出来ずにいた。


 そんな絶望的な状況に陥っていた人類の前に救世主の如く現れたのが、後に『マギア・シエロ』と呼ばれることになる魔法を使う少女達だ。


 怪物へと変異してしまった人々と魔法を用いて戦い、その者たちの肉体を元に戻すことの出来るその少女達のおかげで、人々は怪物化の脅威に晒されながらもそれまでと変わらぬ日常を送れていた。




 ………そんな魔法少女達の中に…一人の男性が混じって活動していた。


 それが俺、陽巻はるまきソラだ。


 一番最初に妖精と契約した魔法少女、《マギア・セレーナ》の正体であった義妹に誘われる形で妖精?と契約した俺は、流されるままに《魔法使いマギア・ヌヴォーラ》として活動を始めた。


 それから二年もの間、怪物化事件の黒幕を倒す為に妹の仲間達と共に戦い続けて、とうとう俺達は黒幕が妖精の世界に身を潜めていることを突き止めたのだった。


 そして、今まさに……


 「みんな!これで最後だよ!力を合わせて!」


 「うむ!」「おう!」「はい!」「ええ!」「うん!」「……ん」


 『『『『『フィルマメント・マギア!』』』』』


 「おっ、おのれぇぇぇぇ……!人間の負の感情さえ集まっていれば貴様等なんぞにィィィ!!」


 妹とその仲間達の放った魔法が、黒幕とされる化け物の身体を貫いたのだった。




 「これで……もう誰かが怪物になるって事はなくなるんだよね?」


 「ヘッ、ボスって割には呆気なかったぜ」


 魔法に貫かれた黒幕の、その巨大な身体が崩れるように消えていくのを見届けた後、仲間たちの間には気の抜けた雰囲気が漂っていた。


 「……おい、みんな…まだ油断するな」


 ……だが何故だろう。黒幕を倒したのだから俺も周りと同じように勝利ムードに身を任せても良い筈なのに……何故かまだ倒していない敵が残っている気がして仕方なかった。


 だからだろうか…


 「……!?セレーナ!危ない!!」


 妹の背後に迫る、邪悪な気配を漂わせる何かに俺だけが気付いた。


 ドンっ!


 咄嗟に妹を突き飛ばし、妹に当たる筈だったソレをその身に受ける。


 「ぐぅぅぅっ!!」


 「兄さん!!」「「「「ヌヴォーラ!?」」」」



 「……!?俺に近づくな!!」


 

 「「「「…ッ!?」」」」


 「…兄さん、その腕は………」


 こちらに駆け寄ってこようとしている妹達を静止するために突き出した手は……人間のものではなくなっていた。


 「これは……怪物化してるの!?」


 「なんで………ルル君は魔法使いになれば怪物にならないって……取り憑かれる事はないって言ってたのに」


 ルル君とは俺たちが契約した妖精のことだ。


 『それは、今までお前たちが敵対してきた者達が、お前達と契約しているあの者よりも存在の格が下だったからだ』


 突然……俺の口が勝手に動き出した。


 「「「「………!?」」」」


 『だが私は……妖精王の血を継ぐ私だけは、彼奴の加護の上からでも影響を与えることが出来る』


 「……っ!浄化の光よ、彼の者の真実の姿を照らし出せ!」


 最初に現状を認識したのは仲間の一人である『マギア・ピオッチャ』だ。


 彼女は俺の口を動かしている者が最後まで話し終えるよりも先に、怪物化を治す魔法を放ってきた。


 『無駄だ。妖精王の血に連なる者は一度何かに取り憑けば二度とその器から離れる事はない……そして、フンッ!』


 俺に取り憑いているソイツが、俺の腕を無造作に動かした瞬間、妹以外の仲間達が地面から伸びてきた黒い糸のようなモノで地面に縫い付けられた。


 「「「「「きゃあっ!!」」」」」


 「みんなッ!!」


 『彼奴の加護に私の肉体が合わされば貴様たちなぞ取るに足らない存在となるのだ!………そして、マギア・セレーネ』


 「……っ!」


 俺の首が妹のいる方へと勝手に回る。


 『お前は先程この者のことを兄と呼んだな。……フフフフッ、一つお前にチャンスをやろう』


 「……っ、チャンス?」


 『まだ変異していない部分は、私の同化が完了していない部分。全力であれば貴様の攻撃も通用するだろう。流石の私でも同化先に選んだ肉体の半分を消し飛ばされれば生命活動は不可能だ』


 「!?それって…!」


 『ああ、私を倒すなら今しかない。ほら、早くこの身体の人間の部分を殺さないと………他の仲間達が私に殺されてしまうかもしれない』


 「……そんな」


 ……妹は、後ろで動けずにいる仲間達を一瞥した後、ゆっくりと此方へと顔を戻した。


 その表情には色濃く恐怖が浮かんでいる。


 「わ、私には……出来な……」


 『おっと、これは薄情なリーダーだ。君のその躊躇いが仲間達を…』


 

 「……妹を、虐めないでもらおう」



 目の前で絶望の表情を浮かべている妹を助けなければと四苦八苦しているうちに、口を動かすことが出来た。


 『…?これは、どういう事だ?頭部の支配は完了した筈。どうして口を動かすことが……』


 「どうやら動かせるのは口だけじゃないみたいだぜ……!」


 『なにっ!?』


 「お兄ちゃんッ!?」


 俺は既に人外のものへと変わってしまった腕を動かし、手刀へと変えて自身の心臓に向かって突き立てた。


 ……どうやら同化してしまった腕での攻撃は同格のものと見做されてコイツにも通用するみたいだ。


 『ぐうぅぅっ!?不味い……!心臓が………このままではこの肉体の生命活動が……!!』


 「ゴボォッ……カハッ、ハァ…ハァ…お前が取り憑いたのが俺で良かったよ……本当に」


 『何を……』


 マギア・シエロのメンバー中で……俺だけが唯一、肉親が存在しない。


 それに先程の合体攻撃でハブられていた事からも分かるように、あまり他のメンバーとも深い関係は築けていない。


 死ぬとしたら……俺が死ぬのが一番ダメージが少ないのだ。


 『くそっ……お前は自分が死ぬ事に躊躇いが無いのか?!』


 ……躊躇いが無い訳がない。両親が亡くなってしまった後、俺を引き取ってくれた夫妻に……まだ何の恩も返せていない事が気がかりだ。


 しかし、こうなってしまったら彼等の一人娘の命を守る為にこの命を使ったという事で、引き取ってもらった恩を返したとしてもらうしかないだろう。


 「お、お兄ちゃん……ダ、ダメ………死んじゃ………」


 「……ガプッ……コイツのことは俺に任せろ」


 「待っ………!」


 心臓に突き刺していた手刀を引き抜き、また肉体を乗っ取られてしまう前にとそのまま返す刀で自分の首へとそれを叩き落とした。





 そこで意識が途切れた……と思っていたのだが、次の瞬間……



 俺は住宅街のど真ん中に突っ立っていた。



 「………は?」




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