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最終決戦


 「………お、お兄ちゃ………ダメ」


 「「「「………ッ!!…………ッ!!」」」」


 目の前で、妹とその友人達が泣き叫んでいる。


 『……すまない………コイツを倒すには……どうやらこの方法しか無さそうだ』


 俺は、怪物のように変化してしまった己の手を自身の心臓の前に添え、一気にソレを抉り出したのだった。




 ……現代日本に住む筈の俺が、どうしてこんな現実味のない死に様を迎えようとしているのか……。


 その理由は今からニ年前まで遡る。


 今から二年前、人が突然化け物のような姿に変異して暴れ回る…という事件が、日本各地で発生し始めた。


 何者かによって人外の力を与えられ、増幅された負の感情のまま暴れ回る彼等には、人類の持つ攻撃手段が全く通用せず、人々はただ逃げ惑うということしか出来ずにいた。


 そんな時だった。


 『マギア・セレーナ』と名乗るファンタジーな衣装に身を包んだ一人の少女が魔法という不思議な力を用いて怪物と戦い、彼らを人間の姿に戻してみせたのだった。


 当時の俺は、その少女の正体も気付かぬままに『一人で怪物達と戦わなきゃならないなんて大変だな』ぐらいの認識しか持っていなかったのだが、後日妹に『マギア・セレーナ』の正体は自分なのだと突然カミングアウトされる。


 そして一緒に世界を救って欲しいとお願いされて、妹に魔法の力を渡したという妖精と契約したのだった。


 それから俺は、二番目の魔法使い『マギア・ヌヴォーラ』として妹と…新たに出来た四人の仲間達と共に怪物に姿を変えられた人達を助ける為の活動に身を投じたのだった。


 そして二年間のそうした活動の末に、俺たちはこの事件の黒幕が妖精の世界にいる事を突き止めた。


 そうして俺たちは今日、そのアジトの場所に乗り込み……黒幕とされる存在を倒した。


………筈だった。


 「これで……もう誰かが怪物になるって事はなくなるんだよね?」


 「ヘッ、ボスって割には呆気なかったぜ」


 魔法に貫かれた黒幕の、その巨大な身体が崩れるように消えていくのを見届けた後、仲間たちの間には気の抜けた雰囲気が漂っていた。


 「……おい、みんな…まだ油断するな」


 ……だが何故だろう。黒幕を倒したのだから俺も周りと同じように安心していい筈なのに……何故かまだ倒していない敵が残っている気がして仕方なかった。


 だからだろうか…


 「……!?セレーナ!危ない!!」


 妹の背後に迫る、邪悪な気配を漂わせる何かに俺だけが気付いた。


 ドンっ!


 咄嗟に妹を突き飛ばし、妹に当たる筈だったソレをその身に受ける。


 「ぐぅぅぅっ!!」


 「兄さん!!」「「「「ヌヴォーラ!?」」」」



 「……!?俺に近づくな!!」


 

 「「「「…ッ!?」」」」


 「……なんで、ルル君は私達は怪物化しないって言ってたのに」


 此方に駆け寄ってこようとする仲間達を静止するために突き出した俺の手は……人のものでは無くなっていた。


 「……っ!浄化の光よ、彼の者の真実の姿を照らし出せ!」


 仲間の一人である『マギア・ピオッチャ』が瞬時に状況を理解し、怪物化した人を元に戻す為の魔法を俺に向けて放ってきた。


 ……しかし、


 「「「「!?」」」」


 「な、なんで……元に戻らないの……!」


 俺の腕は……人外のもののままだった。


 それどころかその人外化はどんどんと広がっていき、俺の頭部まで覆い始めたのだった。


 そして突然、俺の口が一人でに動き始める。


 「ーーー、ーーー。」


 ソイツは『邪精王』という名を名乗り、この事件の黒幕は自分だと語り始めた。


 『妖精は一生のうちに一度しか他者の肉体を奪えない。つまり一度なにかの身体を奪えば、その者の肉体で一生涯生きなければならなくなるということだ。本来ならこうも簡単に使ってよい能力ではないのだが……私は一刻も早く元の肉体から脱する必要があった。そして……折角であればより良い肉体をと彼奴が他者に自身の加護を分け与えざるを得なくなるように仕向け、その加護が与えられた者の肉体を私のものにしようと計画したのだ。本来なら彼奴の加護の上からその者の肉体を奪うのは不可能だが……私は特別なのだ』


 最初に狙っていた肉体では無いがコレでもさして問題は無い……とソイツは続けて、俺の身体を取り戻そうとしてくる妹達と戦い始めたのだった。



 ソイツの力は圧倒的だった。


 

 そんな力が発揮できるから俺たちの肉体を狙っていたのか、それとも元々のソイツの力なのか分からないが、ソイツは俺の身体を自在に使い妹達を容易く無力化したのだ。


 『無駄だ。私の肉体を傷付けられるのは最早私だけであろう』


 地面に伏した妹達を見下ろしながらソイツは片腕を振り上げた。


 「お前の身体ならお前に通用するんだな?」

 

 『…?これは、どういう事だ?彼奴の加護があったとしても此処まで侵食されている状態で身体の支配権を取り戻すなぞ……』


 「どうやら動かせるのは口だけじゃないみたいだぜ……!」


 『なっ!?やめ………』


 俺は自分の腕で己の心臓を掴み、そのまま握り潰したのだった。





 ……乗っ取られたのが俺の身体で良かった。本当に……


 他の仲間達には家族がいるのだ。


 死ぬとすれば セレーナの両親に引き取ってもらっているだけの俺が一番ダメージが少ないのだ。


 本当はその恩を返したかったのだが…… 、こうなってしまったら彼等の一人娘の命を守る為にこの命を使ったという事で、引き取ってもらった恩を返したとしてもらうしかないだろう。



 意識が薄れていく中で、そんな事を考えているうちに視界が真っ黒に染まっていき…………



 気付いたら俺は住宅街のど真ん中に突っ立っていた。



 「………は?」





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