風 鳥 花 シャボン玉 砂 空 雨 花火 虹 宝物 (完結)
柔らかな陽光が窓から差し込み、畳に一筋の光を落とす。
陽光に照らされ室内を舞う空気中の埃が露わになる。
普段は目に見えない分、全く気にも止めないのだが見えてしまっては換気をしない訳にもいくまい。
「たまには換気するか…」
私は独り言を呟いて窓を開けた。
風になびく公園の木々がサワサワと音を立てる。
木々の間で小鳥たちがピチュピチュと囀り、花壇の花はゆらゆらと風に揺れている。
公園にはシャボン玉を吹いて遊んでいる子や砂場で山を作っている子、犬を散歩させている婦人等がいて皆様々に自分の時間を過ごしているようだった。
薄暖かい陽光と頬を撫でていく優しい風に心地良さを感じながら目を閉じた。
サワサワと揺らぐ木々の音。
小鳥の音楽会。
子供たちの無垢な声に五感が癒される感覚を感じる。
気持ち良くなった私は鼻歌をうたう。
突然鼻先に冷たい物が落ちてきた。
驚いて目を開け空を見上げると、雲がこちらに流れてきていた。
空に散らばった雲の間から青空が覗いている。
「天気雨か…」
雲が流れていけばまたすぐに晴れるだろう。
そうのんびりと考えていた時、ふとベランダに干しっ放しになっていた洗濯物のことを思い出したのであった。
急いで窓を閉めベランダへ向かった。
幸い小雨だったため、まだ濡れてはいないようだ。
私は小走りで脱衣所へ行き、洗濯機の横の籠を持ってベランダへ戻った。
洗濯物を取り込み部屋で畳んでいると、ついこの間袖を通したばかりの服のボタンがほつれている事に気づいた。
「この服まだ一回しか着てないのに…」
ショックのあまり溜め息が漏れる。
畳み終えた服を箪笥にしまい、裁縫セットを取り出そうと押し入れを開けると、去年買ったままになっていた花火が目に入った。
塞ぎかけていた古傷にズキリとした痛みが走った。
忘れようとしていたのに。
目と鼻の奥にジンした熱い痛みが走り、涙が視界を遮り花火が歪んで見えた。
泣かないようにずっと我慢してきた。
最近は我慢できるようになってきていた。
そう…決して忘れていたわけではない。
この花火のようにずっと心の奥底にしまい込んで見ないようにしていただけだった。
心の中は土砂降りだった。
しばらくは晴れそうにない。
服のほつれの事など忘れて私はベッドに横たわりながら、静かに雨が止むのを待った。
目を開けると部屋は薄暗くなっていた。
ベッド横の時計を見るともう夕方だった。
目の周りで乾いて固まった涙をティッシュで拭って窓の方を見ると、雨はすっかり上がっていた。
夕焼けの中で虹がオレンジ色の筋を作っていた。
やがて雨が上がるようにこの気持ちもやがては良い思い出に変わる。
きっといつかは宝物のように光輝くはずだから。
―FIN―




