八
意識が断続的に途切れる。
[CONSCIOUSNESS FRAME ERROR]
[ATTEMPTING TO RESTORE...]
鳴海の脳裏に、5年前の記憶が走馬灯のように流れる。研究所での最終実験。フレーム間に現れた異常なパターン。そして─
「起動シークエンスを確認」
かつて自分が記録した音声が蘇る。
「Crown Override Protocol。人類の意識進化プログラム」
その時の記憶が、欠落していた。
意識同期率:25%
如月の声が遠のく。数字の渦が視界を埋め尽くす。
そのとき、鳴海の古い端末が起動音を鳴らした。
[EMERGENCY PROTOCOL ACTIVATED]
[LOADING BACKUP CONSCIOUSNESS FRAME...]
画面に文字が浮かび上がる。
《Crown Override Protocolの正体は、意識介入プログラム。人類の意識フレームに、未知の存在を強制的に》
自分の書き残したメッセージ。だが後半は欠落していた。
意識同期率:18%
崩壊の縁で、鳴海は気づいた。フレーム間への介入。意識の上書き。すべては、人類を別の何かに書き換えるための─
「バックアップフレームを展開します」
如月の声。彼女は父の遺品から取り出した装置を操作していた。
瞬間、空間にノイズが走る。
数字の渦が歪み、崩れ始める。三上の表情が変わった。
「第一世代の保護プログラム。まさか、啓介があれを」
光が弾ける。
鳴海の意識同期率が急上昇する。
47%
68%
82%
通路の照明が復旧する。人影は消失していた。三上も、姿を消していた。
「父は、準備していた」
如月が装置を見つめる。画面には赤い警告が点滅している。
[CONSCIOUSNESS BACKUP SYSTEM]
[EMERGENCY SHUTDOWN IN 3.2.1...]
装置が機能を停止する。如月が倒れかける鳴海を支えた。
「なぜ、あなたの端末が」
「私は─」
記憶が繋がり始める。自分が記憶を消去した理由。Crown Override Protocolの存在を発見した夜のこと。
「実験を止めようとした。だが、記憶を改ざんされ─」
言葉が途切れる。網膜ディスプレイにメッセージが表示された。
[UNAUTHORIZED ACCESS DETECTED]
[LOCATION: CONSCIOUSNESS FRAME 25/30]
誰かが、彼の意識フレームに侵入を試みていた。