七
足音が近づく。
「移動します」
鳴海は如月の腕を掴み、非常口へ向かった。扉が開く直前、彼の視界がまた歪んだ。
意識同期率:75%
通路の照明が完全に消える。暗闇の中、数字の発光だけが浮かび上がる。
そこに人影が現れた。
歩く動作に違和感があった。まるでフレーム落ちした映像のように、不自然な動きで前進してくる。顔は見えない。
「撮影します」
如月がカメラを向けた瞬間、人影が立ち止まった。
[CONSCIOUSNESS FRAME: 29/30]
鳴海の網膜に警告が点滅する。次のフレームへの移行まで、0.033秒。
人影がこちらを向いた。
素顔ではなかった。無数のフレームカウントが光の文字となって浮かび上がり、顔の形を作っている。
[CONSCIOUSNESS FRAME: 30/30]
「見えているんですね」
声は、人間のものではなかった。複数の音声が重なり合い、反響するような音。
「我々の存在に気づける人間は、稀少です」
[CONSCIOUSNESS FRAME: 1/30]
「我々は、フレームの狭間に生きる意識体」
如月のカメラが砂嵐のようなノイズを映し出す。
「人類の意識進化に、介入する」
その言葉と共に、人影の形が崩れ始めた。フレームカウントの数字が空間に拡散し、渦を巻く。
鳴海の意識同期率が急降下する。
67%
58%
42%
「なぜ人類に─」
問いかけた瞬間、もう一つの人影が現れた。三上鷹士だった。
「実験は順調です」
三上は人影に向かって言った。まるで、古くからの知己に話しかけるような口調。
「人類の意識を、より高次の存在に書き換える。Crown Override Protocol」
三上が鳴海たちに気づく。表情は変わらない。
「予定外の介入者です。排除を」
人影が動いた。数字の渦が、鳴海と如月に向かって収束する。
意識同期率:31%
鳴海の視界が真っ白になる。