六
銀座線浅草駅。警察のホログラムテープが地下通路を封鎖していた。
「記者証です」
如月が警備ドローンにIDをかざす。認証音が鳴り、バリアが一時的に開放された。
「どうやって入るつもりです?」鳴海が問う。
如月は無言で古い磁気カードを取り出した。非常口の扉に翳す。ロックが解除される。
「父の遺品」
地下通路に足を踏み入れる。非常灯だけが点滅する薄暗い空間。床には血の痕が続いていた。
「暴走した男は保安要員に射殺された。でも、それより注目すべきは─」
如月の言葉は途切れた。通路の壁一面に、何かが描かれていた。
無数の数字の羅列。
30/30 29/30 28/30...
「フレームカウント」鳴海が呟く。
「被害者の証言です。暴走した男は発狂したように数字を叫びながら、これを書き始めた」
如月がカメラを取り出す。シャッター音が静寂を破る。
「待って」
鳴海は壁に近づいた。数字の隙間に、微かな文字が見える。
「Crown Override Protocol」
その瞬間。
[CONSCIOUSNESS FRAME ALERT]
鳴海の視界が歪んだ。網膜ディスプレイが警告を表示する。
意識同期率:82%
「鳴海さん?」
彼の視界に、異常な波形が浮かび上がる。見覚えのあるパターン。
フレーム29と30の間。人工的に作られた波形。それが、この場所に漂っていた。
「危険です。ここを─」
警告を発する間もなく、地下通路の照明が明滅し始めた。如月のカメラが不規則なノイズを発する。
そして、通路の奥から、足音が聞こえてきた。
規則正しい、機械的な足音。
壁の数字が、かすかに発光を始めた。