四
「記憶編集技術の真相に迫る」
鳴海は端末に届いた記事を読み返した。夜の高層マンションの一室。暗がりの中で、ホログラム画面だけが青白く光を放つ。
記者:如月詩音
「政府は記憶編集被験者の死亡例を否定し続けているが、関係者の証言によれば─」
ドアベルが鳴った。
「鳴海さん。週刊サイバーフロントの如月です」
モニターには、黒いスーツの女性が映っていた。28歳。知的な印象の中に、どこか鋭利なものを感じさせる。
「取材は受け付けていません」
「瀬川誠さんの件について、お話を伺いたい」
鳴海の指が止まる。
「どこから」
「父から聞きました」
如月の表情が変化した。
「記憶編集第一号の被験者。如月啓介の娘です」
扉が開く。如月詩音は小さなため息をついた。
「5年前の実験で、父は記憶を失いました。人格も、崩壊した」
応接室に入った如月は、鞄から古い写真を取り出した。笑顔の中年男性。妻と娘を抱く温かな表情。
「これが最後の記憶です。その後の父は、まるで別人でした」
如月は写真を胸に抱いた。
「今、また同じことが起きています。記憶編集を受けた人々が次々と崩壊する。しかし政府は隠蔽を続けている」
「私に何を求める」
「真実です」
如月は鳴海を見据えた。
「父の記憶を失わせたのはあなたの技術。でも、それを暴くために来たわけじゃない」
如月は端末を取り出した。
「これを見てください」
画面に映し出されたのは、地下鉄での暴走事件の別アングル映像。死亡した男性の最期の瞬間。しかし、如月が指さしたのは、群衆の中の一人の人物だった。
「この男性に注目してください」
拡大された映像。男は混乱する群衆の中で、ただ一人、静かに立ち尽くしていた。その目は、暴走する被験者を冷静に観察している。
「三上鷹士。国家安全保障局長です」
鳴海は息を呑んだ。
「事件の30分前、彼は被験者と密会していた。私たちは、証拠を掴んでいます」