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Ⅱ.6. 追憶

 

「ではまず、基礎の基礎から始めるとしよう。アレン、お前のステータス確認をするぞ。拒否するんなら、俺はもう知らん。好きにやれ」


 会議室の演台に立ったキオンが、右目に視野共有の魔法陣を展開し、片手に古書を携えて言い放った。その声音はどこか軽く、けれども断固たるものだった。


「拒否なんてしません。何でも聞いてください」


 アレンは椅子の背もたれから体を離し、背筋を伸ばして応じた。


 前回の作戦が終わった後、利剣のメンバーたちは一月分の短い調整期間に入った。その期間を利用して、キオンは記憶喪失の副隊長であるアレンのために特別講座を開くことになったのだ。


 事前にキオンが「興味のある者は自由に参加していい」と通達していたが、アレンは他に参加者がいるとは思っていなかった。利剣の隊員たちは世界一の人口を持つタンランで、一握りの少数精鋭の集団だ。基礎的な座学に時間を割くような者は、いないだろうと考えていたからだ。


 しかし、実際にはアレンの両隣にダリオとニクスが座り、黙ってキオンの話に耳を傾けていた。それが気遣いなのか、ただの興味なのか、アレンには判断がつかなかった。


「さて、アレン。お前の記憶だが……何年前のものが残っているんだ?」


 この質問をされることだけは避けたかった。アレンの額にじんわりと汗が滲む。


「えっと、今はエリオンが創世してから……2000年と、何年が経ちますか?」


 アレンが記憶している最後の出来事は、エリオンの建国2000年を祝う学園祭だった。その時期を基準にして、自分の記憶の欠落を説明しようとしたのだ。


「はあ?創世?建国の間違いだろ?それにエリオン?」


 キオンが不思議そうに眉をひそめた。確かに、エリオンはこの世界で初めての国であり、「創世」と呼んでも間違いではない。だが、人類史的にはそれを認めていないことをアレンは思い出し、慌てて訂正した。


「あ、建国してから、です」


「ふうん?」


 キオンは顎に手を当て、屈強な身体に似合わない仕草で首を傾げた。その仕草にはどこか愛嬌があった。


「隊長、俺からいいですか」


 静かに手を挙げたのはニクスだ。その表情はいつものように無表情だった。


「ブリーフィング中でも作戦中でもねえんだ。発言に許可なんざいらねえよ。好きに喋れ」


 キオンは顎に当てていた手を拳に変え、だらりとニクスの方へ向ける。


「ありがとうございます。エリオンが建国2000年目を迎えたのは、確か8年前のことです。あの大災害の時期と重なっていましたね。俺、タンランの要人の護衛でその場にいましたから、間違いありません」


「ほう、あの時か……。ニクス、お前は大丈夫だったのか?」


「ええ、まあ、なんとか」


 アレンの視界がふらつく。


「ちょっと、待ってください!」


 声が自然と震えた。目の前の共有魔法の魔法陣が、彼女の動揺とともにかき消えていく。キオンの声も、ニクスの声も、彼女耳には届かなかった。


「どうした」


 キオンは、アレンの挙動を見て、ふっと浅くため息をついた。呆れとも、諦めともつかない表情を浮かべながら、それでも期待を捨てきれない目をしている。


「どうしました、副隊長!」

「アレンさん!」


 ニクスとダリオがほぼ同時に声を上げた。二人とも本気で心配している様子で、すぐにアレンのそばへ寄ろうとする。


「大丈夫です。これ以上、皆さんに迷惑はかけられませんから……!」

 アレンは震える息を押し殺しながら、無理にでも毅然とした声を出した。


「勘弁してくれよ。また発作かと思ったぜ。で、何年だ?」

 キオンが、淡々とした口調で問いかける。


 深呼吸を一つ挟み、アレンはキオンの目を真っ直ぐに見つめた。逃げずに答えるべきだと、腹を決めた顔だった。


「八年です。私は……八年の間の記憶がありません」


「八年!?」


 ニクスが低く呟き、ダリオが驚愕の表情でこちらを見つめた。

「副隊長、じゃあ僕たちが出会った日のことも全く……?」

 ダリオの声が震えている。その目には明らかに涙が滲んでいた。


 アレンはその視線を受け止めることができなかった。

「ああ、すまない。騙していたようで、本当に申し訳ない」

 言葉を絞り出すように謝罪するアレンの姿はどこか痛々しく、見ている者の胸を締めつけた。


 ダリオはアレンから目をそらし、拳を握りしめる。そして数秒後、何かを決意したかのように顔を上げ、力強く言い放った。


「いえ、副隊長は立派です!」

「はへ?」

 思わぬ言葉に、アレンが間抜けな声を上げる。


「副隊長は、22歳とおっしゃってました! これは間違いないですよね?」

「えーっと、まあ、あってるけど……」

 アレンは困惑しながらも頷く。


「つまり、この何日かの間、副隊長は14歳の精神年齢で、ほぼ初対面の叔父さん戦士たちと同じ作戦に挑んでいたわけですよ!」


「たしかに、そういうことになるな」

 キオンが苦笑を浮かべながら同意する。


「それが事実なら、アレンさんというより、アレンちゃんだな」

 ニクスがその場を和ませるように茶化す。


「それは……そうだけど……」


「副隊長が可哀想です!!」

 感情を爆発させたダリオが、声を張り上げた。


「ダリオ、落ち着け。今日はそんな話をするために、わざわざ会議室を押さえたわけじゃねえんだぞ」

 キオンが少し呆れた様子で諭すと、ダリオは唇を噛みしめて肩を震わせた。


「だって……だって!」

 ダリオの目から、大粒の涙がこぼれる。その姿は幼さが残る少年そのもので、アレンの心の中に小さな火を灯した。冷たく凍りついていた心の奥が、不意に温もりを感じた。


 キオンが喉を鳴らして咳払いを一つ。

「まあ、とにもかくにも。アレンの素性を明らかにしないことには、鍛え方の方針も決められねえだろ」


 彼の言葉に、一同が静かに頷いた。会議室には、新たな緊張感が漂い始めた。


「お前な、アレン。さっき食堂で、入隊書類がほぼ虚偽だってことを認めたよな?」

 キオンはアレンを睨みつけるようにして言った。

「本来なら、即除隊だ。それどころか、場合によっちゃ偽造罪で処罰されてもおかしくない話だ」


「そんな!」

 横からダリオが声を上げたが、キオンは冷たい目を向けるだけだった。

「まあ、黙って聞け、ダリオ」

 ニクスが静かに言いながら、ダリオの肩に手を置いた。その手に込められた力は、彼の焦りを落ち着けようとするものだったのかもしれない。


 一方で、アレンは黙ってキオンの目を見返していた。その目はどこかで覚悟を決めているように見えた。


「ただ、今回は特例だ」

 キオンが淡々と続ける。

「俺が目を瞑れば、この話は全てなかったことになる。だがな、調整期間が終わるまでに、お前が実力をつけられなかったら──その時は除隊だ」


「えっ、なんですかそれ!俺、そんな話聞いてないですよ!」

 ニクスが即座に食ってかかった。キオンはちらりとニクスを見やり、眉をひそめたが、何も言わなかった。


「ニクスさん!」

 今度はダリオが声を上げ、ニクスの腕を掴んだ。

「これは隊長の温情なんですよ!」


 その言葉に、ニクスは顔をしかめたが、結局何も言い返せず、肩をすくめて黙った。

 そのやり取りを見ていたアレンの胸の奥に、じんわりと熱いものが込み上げてきた。自分の代わりに感情を露わにしてくれる部下たちがいる。それがどれだけ心を救うか、アレンには今さらながら分かった。


「分かりました」

 アレンは低くそう言うと、深く頭を下げた。


 部屋には一瞬、静寂が訪れる。


「なら、洗いざらい話せ」

 キオンの声がその沈黙を破った。

「これでスパイだとか言い出したら、俺もさすがに庇いきれんぞ」


「それは断じてありません」

 アレンは即座に答えた。

「覚えている範囲になりますが──話します」


 アレンはぽつりぽつりと、記憶にあることを語り始めた。

 それを聞く三人の反応はそれぞれだった。驚きの声をあげる者、押し黙る者、そして泣く声を殺そうと必死に俯く者──特にダリオとニクスの様子は、時に胸を締め付けるほどだった。


 アレンは時間をかけて、丁寧に、誠実に話を続けた。その声には、自分自身の過去を正面から受け止めようとする、静かな決意が宿っていた。



「──最後の日、覚えているのは、友達──いえ、私の、僕の一番の理解者に、この手で魔剣を突き立てていた記憶です。その後は、きっともうご存知かと」


 アレンがそう言った瞬間、会議室に静寂が落ちた。しかし、すぐにそれは破られた。

 タンランの特殊部隊員たちは、過酷な訓練により感情を表に出さないと聞いていた。だが、それが嘘だったのではないかと思わせるほど、ダリオは大声を上げて泣いていた。隣のニクスも目に涙を浮かべ、アレンの代わりに「クソッ!」と低く悪態をつく。


 キオンは、驚きのあまり言葉を失っていたが、やがて低い声でぽつりと言った。

「ってことは、お前はエルフで、14歳で……友達も家族も、帰る国まで全部失ったのか。その魔剣のせいで……?」


「はい。正直、いまだに信じられません。悪い夢なんじゃないかって。いまここにいることさえ」

 アレンの声は震えていた。その肩を、ダリオが思い切り抱きしめる。


「副隊長ぉ……あなたって人は……!」

 涙が止まらないらしい。ダリオの涙が制服を濡らしても、彼は肩を離そうとしなかった。


「ただな、アレン……お前が言うその魔剣ってのは、どこにも見当たらねえぞ?」

 キオンが不思議そうに首をひねる。


「え?」


「そうですね、アレンさんは五年前に僕を助けてくれたときから、プライマリの短剣はずっと変えてません。あの倉庫にあったやつが魔剣ならそうなのでしょうけど、この前の反応を見る限り違うのでしょう?それと、センカンダリの剣は頻繁に変えてました」

 ダリオが記憶をたどるように言ったあと、「副隊長オタクなので間違いありません!」と、まるで胸を張るように付け加えた。


「それに、アレン。お前、エリオンは魔剣によって滅ぼされたと言ったけど、記録では自然災害だ」

 キオンの一言に、アレンは目を見開く。


「え……?」


「歴史上初めての局地的な豪雨、もしくは巨大な雹が原因だとされている。いま、エリオンがあった場所は巨大な湖になっているんだよ」


「湖……?」

 頭の中が混乱し、視界がぐらつく。これまでのショックが、アレンを闇に引きずり込もうとしているのがわかる。


「副隊長、大丈夫です! 僕らがいます!」

 アレンの異変を感じ取ったのか、ダリオがアレンの腕を支え、ニクスもその肩に手を添えた。


「アレンさん。俺も、何度も家族を助けてもらった恩があります。どんなときでも力になります」


 二人の温もりが、アレンの冷え切った心に灯をともした。まるで極寒の地で焚き火に出会ったようなあたたかさだった。この灯を絶やしてはいけない。今度こそ、何があっても守らなければならない。


「事情はわかった。あと、話し方も当時のままでいいぞ」

 キオンが少しだけ緩んだ声で言った。


「ありがとうございます。僕、すごく気を使ってましたから」

 アレンは少し照れながら笑った。その笑顔に、ニクスが珍しく口元を緩める。


「アレンさんが僕っ子……悪くないですね」


「はぁっ! ニクスさん、それ僕の方が先にずっと思ってました!」

 ダリオが強く同意するように叫ぶ。


「お前ら、話を脱線させるんじゃねぇよ」

 キオンが苦笑しながら、二人を一喝すると、重々しい声で切り出した。


「さて、八年か。そうなると、近年発見されたステータス、レベル、スキルの構造も知らんのだろう。一体どうやってこの仕組みを知らずして報告に上がるほどの強さを発揮していたのか、むしろこっちが聞きたいくらいだがな。まあいい、まずはその構造──レベルシステムの話をしてやろう。お前にとっちゃ、まさに革新的な話だろうよ」


 レベルシステム。どこかで聞いたことがある。いや、そうだ、アルが疑問を口にしていたのを、アレンは思い出した。


「どうやら、このレベルシステムは、我々に後天的に備わったものとされるのが今の学説の主流らしい」


「後天的?進化ってことですか?」


「進化ではない」


「では一体」


「学者が一様に唱えているのは、世界全体にかかっている魔法のようなもの、らしい」


 世界全体への魔法──アレンの頭に浮かんだのは、子どもじみた絵空事だった。


「魔法、そんなの無理がありません?永続的にかけるなんて魔法」


 新しい話を聞くたびに、いつもアレンは疑ってかかってしまう。だがキオンは表情一つ変えずに続けた。


「そう言いたくなるのも無理はねえが、あるにはあるらしいんだ。そういう魔法を、学者たちは仮に『世界改変魔法』と呼んでいる。代償があるらしいがな。ステータスやスキル、レベルなんてものを可視化するくらいの改変なら、代償も少なくて済んだんじゃないか、ってのが今の見立てだ」


「誰が一体なんのために」

 アレンの声が震えた。


「それが分かりゃあな、お前はここで燻ってねえで、学者たちの頭目になってるだろうよ」

 キオンは苦笑し、ため息をついた。


「じゃあ僕が解き明かしましょうかね」

 ダリオがわざとらしい調子で口を挟んだ。まだ目は赤く腫れている。


「馬鹿野郎、お前より俺の方が適任だろ」

 今度はニクスが割って入り、目を細める。


「悪いが、お前ら二人に適性はない」

 キオンがにやりと笑い、「さてはお前ら、講義を邪魔しに来ただけだろ」と言い放った。



「でだ。レベルシステムの話に戻るが、仮説が発表されてすぐに、一つの国が飛躍的な成長を遂げた。言わずもがな、我が国タンランだ。マージって魔道具の話を聞いたことはあるな?」

 キオンは教師のように話し始めた。ダリオとニクスはすっかりと黙って聞いている。アレンはしばらくキオンの話に相槌を打つことにした。

「はい、それならわかります」


「よし。それを使えば短期間で大幅なレベリングが可能になったんだ。ただし、倫理的な問題があって国外には公表されてねえ。裏ルートで、莫大な金を出した者にだけ流通している」


「はあ」


「アレン。この情報もお前を信用して言っている。まぁただ、利剣に属していれば遅かれ早かれ知っていたことだろうよ。他国への情報提供は国賊とみなされバレれば極刑だ。いいな?」


「はい」


「どういう仕組みなんです?」

 アレンのレベルの問題が解決する。今すぐに喉から手が出るほどしりたい情報に、思わずキオンを催促してしまった。


「簡単に言えばな──魔物同士を掛け合わせて、従順な魔物を作り出し、それを己の代わりに戦わせる。で、数百体作ったところで、そいつらを狩り、経験値を稼ぐって寸法だ」


「そんな……」


「そんなもんだ。このシステムを考えたのはタンランの大賢者、チェン・ジーロン。奴は天才だが、少々倫理観に欠けるところがある」

 キオンが肩をすくめる。


「それでな、アレン。今の平均レベルは、八年前と比べて100から150ほど上がっている」

「ひゃ、ひゃく……ごじゅう?」

 アレンは驚きで声が裏返った。


「一時、モンスター保護団体がデモしていたが、金を包んだようだ。すぐ大人しくなった。欠点としては、まず母体とする高レベルなモンスターを見つけなきゃいかんことだな」


「そんなの、人間が悪魔じゃないですか」


「まぁ、レベルが全てのこの世界だ。そんな悠長なこと言ってると、すぐ死ぬぞ。嫌なら強くなって、このシステムを使えないように変えちまえ。強くなるために、使えるもんは全て使ってでもな」

 キオンの話はどこか矛盾しているように感じたが、背に腹はかえられないのだろうか。


「さあて、お前のレベルも確認しないことには、次に進めねえ。見せてくれ」

 アレンはためらいながらも、ステータスのロックを解除した。三人に見えるように画面共有魔法を唱える。


 三人の目の前にアレンのステータスの複製画面が現れる。

「……レベル68?」

 ニクスとダリオが声をそろえて叫ぶ。


「ええ!? ミノタウルス狩りなんて、死にに行くようなもんじゃないっすか!」


 二人の反応に、アレンは恥ずかしさのあまり縮こまった。


「いや、思った以上だ」

 二人に反してキオンは眉をぴくりとも動かさずに静かに言った。


「八年前の基準で考えれば、間違いなく上位数%の強者だ。誇れ、アレン」


 キオンの言葉に、アレンは思わず目頭が熱くなる。しかし、その次の一言が彼女に冷水を浴びせた。


「ただしな、今の68レベルは、タンランの基準で言うと訓練を始めたばかりの新兵程度だ」


 その言葉の重みが、アレンの胸に圧し掛かった。


「スキルも開示してほしいが、いいか?」

 キオンの声に、アレンは躊躇いながらも頷いた。操作画面を開きながら、胸の奥で苦々しい思いが渦巻く。自分の全てを晒されるような、裸を見られるような気分だった。


 雷棒から始まるスキルリストが画面にずらりと並ぶ。


「アレン、お前……」

 キオンが短く息を呑んだ。


 次の瞬間、ダリオとニクスが勢いよく立ち上がる。

「すげえ。見たことないっす!」

「こんなん、どうやって覚えたんだよ……!」

 二人の瞳は興奮で輝き、まるで宝石でも見つけたかのようだった。その反応にアレンは肩透かしを食らった気分だった。


「スキルに関しては、レベルと違って本人の努力の賜物だ。ここまでスキルを網羅しているやつは、俺も見たことがない。……お前の師匠は、歩く魔導書か何かだったのか?」

 キオンが感嘆の声を漏らしながら素直に褒める。


「僕の師匠ですか……。そう、でした」

 師匠であるアロポスの顔が、ぼんやりと脳裏に浮かぶ。胸がじんわりと熱くなる。


「だろうな。すげえぞ、アレン。お前は原石だ。だが、まだだ。このスキルリストはアクティブスキルだろう。次はパッシブスキルも見せてくれないか?」


「パッシブ……ですか?それって何です?」

「そうか。パッシブスキルの概念も知らないんだったな。まあいい、俺が設定を少しいじってやる。ちょっと待て」


 キオンが短く詠唱を唱えると、アレンの画面に新たな項目が現れた。

「どうだ?『パッシブスキル』って項目が増えてるはずだ」

 言われるままに画面を操作し、アレンは項目を選択した。


「これですかね……?」


 次の瞬間、目に飛び込んできたのは、聞き覚えのないスキルの数々だった。

【水の狂戦士】【魔剣を帯びし者】──

 思わず声を上げそうになる。


「なんだこれ……! 俺、こんなの見たことない!」

 ダリオが興奮気味に早口で喋り出す。

「状態異常までついてませんか? これ、どういうことです!?」


 アレンが全貌を確認する前に、キオンが制するように口を開いた。

「アレン、聞け。このスキルは、絶対に他人に見せるな。利剣の隊員だろうと例外じゃない」


「え、でも──」


「冗談で言ってるんじゃない。お前、このリストが外に漏れたらどうなるか分かってるのか? 下手したら解剖されるぞ」


「……解剖?」

 その言葉に、アレンの背筋が凍りついた。


「マジだ」

 キオンの声には一片の冗談もなかった。


「副隊長、これ……本当に秘密にしておいた方がいいです」

 ダリオが真剣な表情で言う。

「今すぐロックをかけるべきです!」


「待て」

 キオンが低い声で遮った。

「使えるパッシブスキルがどれなのか検証が必要だ。いくつか選んで、シュミレーションルームで試すぞ。座学はこれで終わりだ」


 そう言って、キオンは足早に部屋を出る。ダリオとニクスも、浮き立つような足取りで後に続いた。


 しかし、アレンだけは違った。

 スキルリストに刻まれた得体の知れない言葉の数々が、暗い影のように胸に重くのしかかる。


 ──僕は、一体何を背負わされているんだ?


 答えの見えない問いを抱えながら、アレンは三人の背中を追った。

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