第2話
驚きの家庭訪問のあと、俺は制服のまま瀬川さんの言われた通り近場のカフェに移動した。おそらくこのまま面接といったことになるのだと思うが、何分面接何て初めてだ。高校の入試に面接なんてなかったし、今までにバイトはもちろんしていない。ぶっつけ本番で切り抜けるしかないのだ。
何だったら履歴書とかも書いてない、いま瀬川さんが持っている情報は応募したサイトに入力した個人情報のみ、いや個人情報のみっていってもそれはそれで結構な情報だな。悪用厳禁でお願いしますよ。
注文したドリンクが運ばれたあたりで、お互い一口ずつ口に運ぶと瀬川さんから話し始めた。
「それでは早速ですが面接を始めたいと思います」
「本当に早速ですよね、心の準備とかするまでもなかったです」
すこし皮肉を込めた返しをしたが、瀬川さんはきれいな笑顔を返すだけで、手元に書類を広げて書き込む準備万端といった感じだ。
「まぁ速さがわが社の自慢ですので」
そらそうだよ、東京大阪間15分てなんだよ、ノーベル賞ものの発明なのになんで発表しないのか謎なんだよ。それだけで一財産築けるでしょうに。
「お名前が緑青祐介さん、年齢が16歳ということでお間違いないでしょうか?」
「ええ、私が緑青祐介本人で間違いありません」
なんか返答が裁判とかに出てくる被告人みたいになった気もするけど気にしたら負けということで。
「では初めに志望動機をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
そういえばあのエントリーフォームで志望動機とか聞かれなかったか、エントリーシート代わりというか履歴書代わりに用いられるとばかり思いこんでいたけど、「そういうことは、面と向かって言えやコラ」ってことなんでしょうか? 社会人経験ないのでわかりませんけど。
「えっと……ヒーロー募集というインパクトのある広告を見まして、男の子なら一度はヒーローというものにあこがれるといいますか、とりあえず一度話だけでも聞いてみようと思いまして応募いたしました」
嘘は言ってない、実際にインパクトがすごかったし、ヒーローにあこがれているのも事実。何だったら中学の時は全校集会の時にテロリストに襲われる妄想とかして時間潰してたまである。たぶん世の男子生徒の9割は経験している。残りの1割は何も考えてないアホ。
「あー、そう言う方多いんですよね。私は女なのでわかりませんが、やはり男性とはそういうものなのでしょうか?」
少し困ったように笑う瀬川さん。やっぱ皆気になりはするんだ、というか俺以外に応募した人いるんだ。そして毎回この移動速度に驚かれているんだろうな。だって✕✕さんの返しがあまりにも手馴れていたから。
「それではまず初めにわが社についてなのですが、主に正義のヒーロをやっております」
なるほどわからん。
「昨今ブラック企業が取りざたされておりますが、そのブラック企業に勤める社員の負の感情から、いわゆるモンスターが生まれてしまっているんです。それを退治するのが我々の業務となります」
なるほどわからん。
「おそらく、見当もつかないでしょうから、はじめは体験といった形で1か月ほど働いてみるのを進めているのですが、いかがでしょうか?」
それは試用期間的なサムシングですか?その期間内なら自由に首を切れるという企業とってもメリットのある期間ということですか?
「それでもいいんですけども、その間の給料ってどういう感じになるんでしょうか」
知ってるんだぞ、その期間の時給とかは最低賃金ギリギリの値段で働かされるってことを。
「底についてはご心配なく、ちゃんと正規の時給で働いていただけますし、社保が必要な時間数になれば社保に加入していただくことも可能です」
「へぇ、そんなありがたい会社なんですね」
聞いていた世の中の会社とは少し違ったようだ。現代はどこもかしこもブラックで、守らない法律がいっぱいあると聞いた。労働基準法を採用していないとかのたまう社長も居るくらいだ。社長に取って労働法は国際条約かなにかだと思っているのだろう。
「我々がブラック企業であれば、さらにモンスターを生み出す原因となってしまいますからね、マッチポンプでは国からお金を引き出せないですから」
確かにブラック企業撲滅を謳う企業がブラック企業だったらなんの説得力も無いし、まずはお宅からでは?ってなるのは至極当たり前の話。
「国からのお仕事なんですか?」
「そうです。一応国からの依頼を受けて、討伐、治安維持、技術開発、技術提供なども行っている事になります」
あっれ?なんかすごいところなんじゃない?そんな所のアルバイトなら一発目のバイトとしていいのでは?でも初めてのバイトってコンビニか飲食店って相場が決まっているような気がしたけど、まぁなんとかなるか。
少し乗り気になっている俺がいた事に驚きだが、こんな条件の良いところなかなか無いかもしれない。それに体験だって向こうから言ってくれたわけだし、体験してから続けるかどうか考えてもいいってことだよな。
ヒーローという事なので何かと戦うというのはそういうことになるんだろうが、それってバイトの俺が現場に行くの?さすがになんか裏方の事務作業とかで、現場に行くのは社員とかじゃないの?というか本当にモンスターっているの?俺この国に16年生きてるけど一度も見たこともなければ聞いたこともないぞ?
「あの本当に基本的なことを聞くんですが、モンスター退治って本当に言ってます?何かのヒーローショーとかじゃなくて?」
そこまで聞いて俺は運ばれてきた飲みものに口を付けて瀬川さんの答えを待った。俺が迷っている間も、瀬川さんは何かを紙にメモしたりしていて、なんだか俺の一挙手一投足が見られている気がしたが、これが面接というものなのだろうか?
「おそらく緑青さんは目にしたことがないと思われます。それはやはり我々の企業秘密というか、そこは内部の人間に話していることですので、今の段階ですと申し訳ないのですが詳細をお話しすることはできないのですが、まぁ意外と日常にいるものですよとだけ言っておきます」
瀬川さんが少しの間言葉を選んでいたのか目線を絵に向けて考えて、申し訳浅そうな表情で伏目勝ちにそういった。うーんどうだ?大丈夫か?企業秘密ってもしこれでバイトしませんとかバイト辞めますって言ったらMIBとか、SCP財団みたいに記憶処理されたりするのか?
そして、そんな不安な感情が顔に出ていたのか、瀬川さんが苦笑しながら補足の説明をしてくれた。
「我々としましてははじめの内は現場に行っていただく前に研修に出ていただいています。そのあとに社員付き添いの下で現場研修を経てから本格始動となります」
素晴らしい教育システム、最近の会社はすーぐ即戦力を求めて自分の会社で育成しようとしない。お前大学も高校も中学も職業訓練校じゃないんだからな?専門性が欲しいから大卒要件出してるのかと思いきや全く関係ないらしいじゃんか、なんなんだよ大学出てても国際交流科とかの意味わからん奴全然国際交流しない経理とかにいるじゃん。
そんなネット上の文句をさも自分の経験化のようにして文句を言ったけど、俺にはそんな経験はもちろんないしそんな学科がある事さえ知らない。ということで安心の教育体制もあるらしいので、一見の価値はあるだろう。それなら見学してから決めてもいいかもしれない。ブラックだったら労基に泣きつけばいいや。
「わかりました。そうしたら取り合えず体験ということで1ヶ月やってみてもいいでしょうか?」
俺がそう返すと瀬川さんは相変わらずの美しい笑顔で答えてくれた。
「はい!もちろんです、それでは体験といっても先ほど申し上げましたように賃金の発生する契約ですので、こちらの書類ですね、目を通していただいて、緑青さまの場合は未成年ですので、保護者様からの了承を得る必要がありますので、こちらの紙にはお母さまか、お父様のお名前をいただいてきてください」
そういって渡されたのは数枚の紙、なんか労働契約書とか書いてて甲はとか乙はとか、今まで生きてて漢文での返り点でしか見たことの無い漢字が並んでいた。これに僕の名前を書いてどこにもっていけばいいのだろうか?今ハンコがあるわけでもないし。
「そちらの用紙にご記入できましたら、お送りしたメールアドレスか私の名刺の電話番号でも構いませんのでご連絡ください、そのあとでいつから体験を開始するかの日程を決めましょう。あ、もし辞退される場合でも連絡をいただけると幸いです」
最後の最後まで丁寧だ、これが社会人、流石名前に釈迦が入っているだけある。というか瀬川さんの美しさはきっと釈迦も太刀打ちできまい。
「じゃあ今日はこれを持ち帰って終了って感じですか?」
「はい、ぜひ一緒に働ける日を楽しみにしています」
そういって瀬川さんは座りながら頭を下げる。俺もそれに倣って一応頭を下げておいた。そしてそのまま立ち上がって伝票を持つと鞄に書類やら何やらをしまった。
「それでは、そちら飲み終わるまでゆくっりなさっていてください、本日はお時間ありがとうございました」
また立ち上がって頭を下げた瀬川さん、そのままレジのほうに向かって会計を済ませると店を出る前にもう一度目を合わせて軽く会釈をされるここまで仕立てに出られるとちょっと恐縮するというか、俺何か失礼な事してなかったかなとか不安に駆られてしまう。
しかもいつの間にか瀬川さんの飲み物が空になっている、いつの間に飲み終わったんだ、マジで気が付かなかった、この飲み物を飲む場面も見られないというのも社会人のたしなみなのか?それとも御社の謎技術で高速で飲んだんですか?うん、あの会社なら時飛ばしとかしても不思議ではないぞ。
ハッ!むしろ時飛ばしをしてそのモンスターを退治して被害とかの後始末をして世間からばれないようにしているとかなら辻褄があう、なんだその仮面ライダーカブトのクロックアップみたいな技術。この世界はいつの間にワームに襲われていたんだ。
とりあえず、この書類は高校生の俺には難しすぎるので、親父と母上を交えて説明してもらって、其れあら記入すればいいか。どうせ保護者の同意書みたいなのも必要らしいし。それにしても母上に言われたその当日に内定もらって必要書類までもらってくるってこれきっと普通だと思っちゃいけないんだろうなきっと。




