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今日、僕は彼女の日記を覗いてしまった…。

作者: 柳


大学生を始めてニ年目、一人暮らしに慣れてきた頃だった。

俺は彼女に出会った。


「はじめまして、私は蒼那です。よろしくお願いします」


サークルの飲み会で1年生の彼女は面倒そうにしながら自己紹介を済ませる。

短く整えた黒髪とその端正な顔立ちは、見る人をきっと引き付けていた。彼女は何度も先輩たちに話しかけられていたが淡々と返事をするだけ。

蒼那に話しかけていた3年生たちは少しだけ苦笑いをしながら段々と彼女ではない別の後輩たちに話しかけていた。


「ねぇ、蒼那さん。飲み物いる?」

「いらないわ」

「じゃあ、何かつまめるもの頼もうか?」

「もういいわよ」

「そっか。じゃあ、お冷だけでも頼まない?お酒飲んだでしょ?」

「…そうね、助かるわ」


正直に言うと一目惚れというやつだ。

それに、なんだか蒼那は自分から他人と距離を置こうとしていた気がしたのだ。大学生で一人ぼっちになる怖さを俺は知っている。

別に一人が駄目という訳では無いが、一人ぐらいは友人と呼べる存在がいても良いのではないかと思ったので、俺はその枠をまずは目指すようにした。

連絡先をなんとか交換し、趣味や好きなものは何か、どんな授業を大学で取るのかなどを聞き出すことに成功した。


かなり苦労したよ。

始めてチャット送って既読無視された時は絶望しかけたからね。

どうやらスマホが壊れてしまっていて返事を返すことができなかったようだ。可愛らしい謝意を込めたスタンプが送られてきた。


長くメッセージのやり取りをしていると蒼那の使っているスタンプが全て犬のスタンプであことに気がつく。犬が好きなのかと聞けばそうではないようだ。なかなかに難しいな。

蒼那と一緒の授業を受ける時は隣に座るようにしている。ある日、彼女は夜更かしをしているようで授業中にぐっすりと眠っていることがあった。

俺は、授業のノートを写真に取って送ってあげる。彼女は申し訳無さそうに何かお礼をすると言った。

何度も断ったのだが、借りを作ったままではどうも落ち着かないようで、それならば一緒に飲みにでも行かないかと誘ってみた。


断られるかと思ったが、あっさりと承諾してくれた。

飲みに行く日を楽しみながら、俺は大学での日々を送っていた。


そして当日になり、俺はお店の前で待っていたのだが…彼女は時間になっても来ない。

チャットを送ったのだが既読すらつかない。心配になって電話をかけると暫くのコール後に彼女の声がした。


「だ、大丈夫!?どうしたの?」

「…ごめ…んなさい」


今にでも消え入りそうな声だった。

ただ俺にずっと謝っている彼女の声を聞くのが俺は辛かった。


「大丈夫だよ。どうしたの?今、どこにいるの?」

「わたしは…やっぱり」

「今日、これ無くても大丈夫だから!…また今度にしよう?明後日の大学は来れそう?」

「うん」

「じゃあ、次の予定を決めようよ。今日はもう休みな?」

「…なんで?」

「うん?」


彼女の返事は問いかけだった。

何かを知りたがっているのだが俺にはわからない。俺が分から無さそうな声を出すとそれ以上蒼那は何も言わなかった。


「じゃあ、明後日の大学でね?」


俺は電話を切った。

お店に電話をして予約を取り消す。席だけの予約だったため、料理が無駄になることはないのが不幸中の幸いだったのかもしれない。

蒼那さんとの飲みが無くなったことは非常に残念なことだ。だが、俺は感動していた。


「……始めて、こんなに長く電話することができた」


好きな人との電話が長く続いたことに俺は感動していたのだ。

だがそんな感動は一瞬で終わり、蒼那は大丈夫だろうかという心配が襲ってくる。杞憂であることを祈りながら俺は一人で帰路につく。


そして休日が終わり、大学が始まる。

蒼那と一緒に取っている授業でいつもの席に座っていると隣に蒼那がやってきた。

気まずい雰囲気を纏っているが、俺は気にせずに声をかける。


「おはよう?体調はもう平気なの?」

「おはようございます。先輩、一昨日は本当にごめんなさい。どうしても行けなくて…」

「いいんだよ。それでさ?次の予定なんだけど…」

「どうして、どうして先輩は私に声をかけるんですか?」


俺が次の予定について話そうとした時であった。蒼那がそう俺に聞いてくる。

それは以前の電話で聞いてきた問いかけなのだとわかった。


「私は別に人に好まれるような性格はしていません。寧ろ、人と関わることを避けています。なのに、先輩は私がそんな態度を取っても私に声をかけて……先輩はそんなに暇なんですか?」

「わぁ、酷い言われようだ」

「じゃあ、なんでなんですか?」


少しだけ怒っているような顔をする蒼那は、俺に問い詰める。

いつもは眠そうにしているため、そんな表情を見るのは新鮮だった。俺は考えて、ゆっくりと話し出す。

俺は蒼那に対しての好意とは別の思いを打ち明けることにした。


「蒼那さんが、人と関わらないように壁を作っていたのは理解できたよ」

「じゃあ…」

「でも一人は寂しいよ?」

「…別に寂しくありませんっ!」


俺がそう言うと蒼那はそう反論してきた。

まるで図星を指されたかのような感じで、子供が意地を張っているような声色であった。


「そう?でも俺は暗い顔をしている後輩を見ると悲しくなっちゃうんだよ。それが理由の1つね」

「1つ?…まだあるんですか?」

「もう一つ目は、俺も一人だから寂しいんだよ。去年の俺も同じように壁を作っていたらいつの間にかボッチ街道をまっしぐらで歩んでいたというわけだ。だから、去年の俺を見ているようでな…」

「つまり、先輩は友達が欲しくて私にこえをかけ続けていたんですか?」

「え?…まぁ、そうだな」


俺は誤魔化すように頷く。

蒼那の表情は先程の表情とは違って、笑みを浮かべていた。

思えばこの時に始めて俺はこんな風に笑っている蒼那を見たのかもしれない。


「仕方がないですね?良いですよ、私が先輩のお友達になってあげます」

「おう、よろしくな」


そうして俺と蒼那が友達となった1年後、紆余曲折あって俺と蒼那は恋人になっていた。

無事に大学生活中に念願の恋人を作ることができた俺は完全に浮かれていたのだ。

蒼那はあれから随分と変わった。まず、口調は敬語が無くなった。まぁ、俺からとって欲しいとお願いしたんだけどな。だって、距離感じると嫌だし。

あとはコミュニケーションが増えた。言葉でのコミュニケーションもなのだが…蒼那はなぜか俺に頭を撫でさせようとしてくる。俺としてはバッチコイ!なのだが公共の場でそれをやられるのは少し恥ずい。


更に変わったことは…同棲していることだろうか。

俺は一人暮らしにしては広い部屋を借りており、寂しかったので蒼那が家に住むことになった。

同棲すると今まで見えなかった嫌な部分が見えるなどという話があるが、俺にはそれがなかった。

そもそもが一目惚れなのだ。何をしても嫌という感情がない。


しかし、1つだけ俺は悩んでいることがある。

それは月1で一人でお出かけしているようなのだ。しかも俺に何も言わずこっそりと何処かに。

彼氏としてはとてもじゃないが気が気じゃない。別に疑っているとかそういうわけではないのだが…ね?

本人に聞いてみても…。


「な、内緒」

「なんで!?」

「いいから駄目なの」


ということだ。

不安だ、何か怪しげなことに巻き込まれているのでは?

そういう不安を抱えながら俺はバイトから家に変える。今日はいつもよりもかなり早く帰れたので俺が晩ごはんの準備をしようかと思い、キッチンに向かうのだがリビングのテーブルの上に何やら一冊のノートが置かれていた。


「なんだ?」


表紙には何も書かれていないノートで開いてみるとそれが蒼那の日記であることがわかった。


「……見たら駄目。それは当たり前なのだが…もしかしたら、居なくなる日のことについて書いてあるかもしれないし…見たい。でももし、見たことを知られたら…」


俺は冷たい視線で俺を見つめる蒼那の姿とここから出ていく姿を想像してしまった。


「でも…先月の居なかった日だけ…それだけなら」


俺は魔が差してしまい、結局その日だけ見ることになる。


6月4日(日) 天気: 晴れ


今日は6月の中で一番嫌な日。

蓮と一緒に居られない日だから寂しかった。

いつか秘密を打ち明けられるのかな?でも…秘密をしったら彼は私から逃げるかもしれない

勇気が出ない。どうしよう


そんな事が書かれていた。

俺は自分のことに嫌悪感を抱いた。少しでも疑ってしまった自分がいたことが許せなかった。

それに、彼女が秘めていた思いを覗き見るかのようなことをしてしまったことに罪悪感を感じていた。


「見てしまった…うぅ、俺はなんて、なんて駄目な男なんだ」


だが、それと同時に蒼那のことが心配になった。

彼女が抱えている秘密とはなんだろうか。それが気になってしまい晩御飯の準備が進まない。

やっとのことで作り終えると丁度、彼女が帰ってきた。


ダッ!


「ただいま~…えっ!?」


俺は気がついたら蒼那のことを抱きしめていた。

そしてアワアワとしている蒼那に対して俺は正直に伝える。テーブルの上にあった日記の一部を見てしまったこと。それに、少しだけ疑ってしまっていたこと。


「えぇ!?見たの!えぇ……そっか、でも蓮は悪くないよ。悪いのは私なんだから」

「そんなことはない。俺は…俺がぁ」

「泣かないで?…うん、わかった。教えるね?」

「え?」


蒼那はリビングでいきなり服を脱ぎ始める。


「な、なにやって」

「いいから、見たほうが早いし」

「…?」


彼女が着ていた服を脱ぎ、下着姿になる。

すると突然と彼女の後ろからフサフサとした尻尾が複数現れた。

尻尾の次に目に止まったのは蒼那の頭に付いた耳であった。…まるで狐のような耳だ。


「は?え…え?」

「驚くよね…こんな気持の悪い姿」


蒼那は悲しそうに俺に告げる。

自分は人間と妖狐の血が混じっているのだと。月が満月に近づくになるに連れて普段は抑えられている力が突然と増幅するため、一時的に制御を失うのだという。

それでこの姿を俺に見られたくないために、彼女はこの姿から元の姿に戻る時間を稼ぐため、一人で外に出ていたということらしい。


「こんな化け物…嫌だよね」

「そんなわけないだろ?」

「え?」


俺は迷わず即答した。

ケモミミが気持ちの悪い姿?…化け物だって?

そんなわけ無いだろ!その姿は――


「十分に可愛いだろ!」

「ふぇ!?」

「ふさふとした尻尾、愛くるしい先っぽが尖ったケモミミ!…素晴らしい、パーフェクトだ」

「う、嘘よ」

「嘘じゃないよ。俺は今、感動している。蒼那、これを打ち解けてくれて本当にありがとう」


俺がそう言うと蒼那の目には涙が溜まっていきやがて溢れ出す。蒼那に近づき、優しく抱きしめる。


「彼女でいていい?」

「当たり前だ。俺からもお願いするよ、俺が彼氏でいいんだよな?」

「うん…うん!」


何度も頷きながら蒼那は落ち着くまで離れなかった。

そうしている間に晩御飯は冷めてしまい、レンジで再度温めることになった。

ご飯を食べている時であった。


「でも、なんで日記をテーブルの上に置き忘れていたんだろう」

「珍しいな、蒼那が忘れるなんて」

「うん。いつもは自分の机の中に閉まっていたのに。…でも、全部見られて無くてよかった」

「なんでだ?」

「だって…出会った頃の日記とか見せられないし」


恥ずかしそうに顔を赤らめた蒼那を見て俺はちょっぴりだけ後悔したのだった。因みに見せてもらおうと許可をもらおうとしたが尻尾で頭を叩かれて終わった。


~END~

読んでくださりありがとうございます。

もし面白かった、「紆余曲折」の所が気になるなどと思ってくださればぜひ評価をお願いします。

☆の所をポチッと★にしてくだされば嬉しい限りです。私のやる気に直結してします。


余談ですがテーマを日記にしたかったのですが…全然なっていませんね?

明日にも別の作品を夜の11時ぐらいに投稿しますので読んでみてください。  

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