ゆうこさんと
ようやく調理の仕事にも慣れてきた頃のことである
「アキトさんって彼女とかいないの?」
「ブフォアーーーー」
ユキナから突如、爆弾が落とされた
俺は飲んでいた水を吹き出してしまった
「ゲホッ・・ゲホゲホ・・・な・・・なんだよ急に・・」
「いるの?」
むせている俺をわき目に、ユキナが上目遣いに聞いてくる
『いないけど・・・いません」
「ふーん」
その答えを聞くなり、
なぜかゆきなは満足げにニヤニヤと嬉しそうにしていた
クソ、バカにしやがって
俺の中で男として敗北感の様な屈辱が芽生えた
「それじゃあさ、気になる人とかはいないの?」
気になる人と言われ、俺は頭にはゆうこさんが浮かんだ
ピザ屋 ねこのしっぽのオーナーである彼女
30代前半くらいの年齢 キリッとした眉毛で勝気な顔をしている
俺に1から仕事を教えてくれ
いつも明るく優しいとても素敵な人だ
「ゆうこさんとか気になってるんじゃないの?」
ジロリとした目でユキナは尋問する
鋭い
図星を突かれた後、そうだよと答えられるほど俺の心は強くない
「今は・・・いないかな、はーいこの話はやめやめ」
「えーーー」
少し残念そうにしているユキナ
俺は手をたたき話を切り上げた
女の子はこういう話が好きなのだろう
そんなことをしている間にいい時間だ
「んじゃ、バイト行ってくるわー」
「行ってらっしゃーい」
最近ではユキナも留守番に少しは慣れてきた
快く見送ってくれるユキナを背に俺はバイトに向かった
「お疲れ様でーす」
「お、坊っちゃん!今日も頑張るよ」
今日もゆうこさんは元気そうだ
ユキナと気になる人の話をしたらだろう
ゆうこさんのことを変に意識してしまいドキマキとしてしまった
「今日は顔が少し赤いね大丈夫かい?」
と言い俺のおでこに手を当ててきた
「子供じゃないんですから」
と制する俺に
「最近は流行病があるからね・・・大丈夫そうだ」
二コリを笑うゆうこさん
それを見てドキリとしてしまい
とっさに自分の胸に手を当て、ドキドキと脈打つ心臓を宥めた
まったくユキナが変なこと言ったせいで調子が狂う
自分でも顔が、かあっと赤くなるのを感じた
赤い顔を見られるのが恥ずかしく顔を隠すように調理場に入った
「なーーんか今日はおかしいねーーー」
そんな俺の背中を見ながら、ゆうこさんは眉を曲げなら首を傾げていた
ピザ屋は今日も忙しい
ゆうこさんと手分けして仕事に取り掛かる
ピークは過ぎ少し落ち着いた時
「今日の帰りに最近できた駅前のピザ屋人気みたいでさ、視察に行かないかい?」
ゆうこさんが食事に誘ってくれた
「これも仕事さ、なにお金の心配はするな、お姉さんが奢ってあげよう」
自信に満ちた顔で胸を叩く
「いや流石に俺も払いますよ」
俺は慌てて遠慮した所、お姉さんに任せなさいとズイっと顔を近づけてきた
そんなゆうこさんに負け
わかりましたご馳走になりますと告げると
「はっはは、楽しみだな」
と笑っていた
店を閉めた後
俺たちは駅前のピザ屋に向かった
おしゃれなカフェの様な作りをしていた
時間が少し遅かったこともあってか、並ぶことなく入ることができた
一番人気のミックスピザを頼んだ
しばらくすると
熱々の状態で具沢山のピザが届いた
「いただきます」
「いただきます」
俺たちは手を合わせてピザをいただく
「なるほど、ふむふむ」
素材一つ一つの味がしっかりとしていてそれぞれが強調し合いとても美味しい
「これは・・・・」
結子さんは味を吟味しながらピザの研究の為だろか、
ポケットから取り出したメモ帳にメモを取る
真っ直ぐな瞳で真剣にメモを取るゆうこさんに見惚れていた
彼女の何事にも真摯に取り組む姿勢が素敵だと思った
「美味しいですね」
そんな心を隠すように
俺はゆうこさんに話しかけた
ピザを食べ終えた後、飲み物を飲みながら談笑した
「仕事を早く覚えてくれるから、助かるよ、もう一人前かね」
「まだまだですよ」
俺は謙遜した
「仕事もほとんどできる様になってね。いつもご苦労様って意味でも今日来たんだ」
感謝してるのはこちらの方
そう思ったが、ゆうこさんの優しさを素直に受け取ることにした
「そう言えば、いつまで坊っちゃんって呼ぶんですか?」
「もう坊っちゃんに慣れてしまったからねーこのままでいいんじゃないか?」
まじか、呆然とする俺をわき目に
「冗談さ、そろそろ帰ろうか あきと くん」
ゆうこさんはニヤリと笑いながら強調するように伝えた
「それじゃ気をつけて帰るんだよ」
店を出たところで俺たちは解散した
家に帰ると
「おそーーーい」
ユキナがぷんぷんと怒りながら出迎えてくれた
時刻は11時か遅くなってしまったな
「ごめんなー仕事が長引いて」
ちくりと罪悪感で胸は痛んだが、嘘は言っていない
「帰ってこないんじゃないかと思った」
泣きそうな顔をするユキナ
「何言ってんだ、帰ってくるに決まってるだろ」
普段バイトの後はまっすぐ帰るため
遅い時間になってしまいびっくりしてしまったのだろう
俺はユキナが落ち着くまで大丈夫だからと宥め続けた
彼女はまだ子供だ
普段は明るく振る舞っていても
直面している現実はあまりにも大きすぎる問題がある
段々と俺の心は罪悪感に蝕まれていった
「何か欲しいものは行きたい場所は?」
俺は元気になって貰いたく
力をかせないかと聞いてみた
「デート!」
「え?」
「今日遅かったお詫びにデート連れてって!」
震える声で訴える
突然のデートの誘いに面を食らったが
今の俺にNOと言える選択肢はなかった