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ライバル


「そうだ!アキトさん、焼肉に行こう!」

週末、ちょうどテレビで焼肉特集をしていた時にユキナが提案してきた


「そんな余裕はありません」

少し食い気味に俺は腰に手を当てて答えた


残念な事にうちの家計は火の車、しがないフリーターの俺には金銭的余裕などなく、食事は毎日自炊とバイト先からもらえるピザで切り盛りするしかないのだ


「そんなこと言って、私知ってますよー昨日給料入ったんでしょ、バイトを始めて3ヶ月経って試用期間も終わるから給料が上がるって喜んでましたもんね。」


「私もご飯が食べられるようになったことだし、記念として焼肉パーティですよ、ほら私は供えるだけでいいので実質一人焼肉ですよ、お金もさほど掛かりませんし」


怒涛の勢いで説得してくる

テレビでは芸能人が大袈裟に美味しい、やわらかーいなどと連呼していた

油滴るうまそうな肉のドアップな映像を見てごくりと喉を鳴らす


「そうだな・・・よし今夜は焼肉だ」

「やったーーーー」


ユキナは無邪気な笑顔で喜んだ

それを見て、頬が緩んだが頭をふった

俺は焼肉の暴力に屈したのだ

ユキナの説得に折れたのではない

これが当たり前だと思っては困る


「今回は 特別 だぞ」

強調する様に、そう付け加えた


そうして俺たちは焼肉屋に向かった

いざ思い返してみると1人暮らしを始めてから一度も外食はせず自炊をしていた

久々の外食、焼肉屋に近づくにつれて心も躍る


「いらっしゃいませー、おひとり様でしょうか?」

店に入るなり、店員の声が聞こえた


「2人・・・あ・・えーっと・・・一人で頼む」


ついユキナを頭数に入れてしまっていたが

店員にはユキナが見えていないことを忘れていた

ふと頭の片隅に1人焼肉のハードルの高さがチラついたが、もう焼肉の口になってしまったのだ。

当然引き返すことはできない

 

席に着くなり、俺は店員にユキナのための取り皿を頼んだ

ユキナは最初にタンを所望した

俺は最初にカルビとホルモンを頼もうと提案したのだが

「最初に油がおおい部位を頼むなんて焼肉弱者です、今日は私に任せてください」

ユキナの瞳が燃えていた

どうやら焼肉にこだわりがあるらしい

なるほど焼肉に行くために異常に説得していた理由がわかった

ユキナは俗に言う焼肉奉行と言うやつだろう

こうして俺たちの焼肉の戦いが始まった


まずはタン塩から始まった


「ネギは最初に載せるとあみに溢れちゃうので後に載せるのよ」

「わかりました」


ユキナの指示を聞きながら手を動かす

そのまま複数枚の肉を載せようとしたら


「網にはたくさん乗せないで、一番いい焼き加減で回収するため、面倒見切れる数よ」

「はい」

「私はひっくり返せないから、タイミングを伝えるよ」

「タン塩は片面をレア、片面をよく焼して最後に蒸し焼きよ」

「今よ」


言われたタイミングで俺は肉を焼き上げた

それぞれの皿にも取り分け


「それではいただきます」

パクりと一口

「・・・うめぇ」


口の中でプリプリとした牛タンが弾け、噛むほどにタン塩のしつこ過ぎない肉汁が溢れ出し口の中で広がった


正直、タイミングがどうのとか、網に乗せる数とかめんどくさいと言う気持ちも芽生えていたが自分が焼いて食べる肉とは雲泥の差を感じた


「おいしーーいーー」

ユキナはほっぺに手をやり幸せな顔をしていた


「やっぱ肉には白米だ」

俺は白銀に輝く山盛りの米に食らいつく

最高だ


その後ロースを食べた

ロースは脂が少なく肉本来の味が楽しめた


そしてサラダを挟みつつ、口の中をリセットしながら

カルビにたどり着いた

この脂の多い部位は実に米にあう

濃いタレの味が白米の消費量を倍増させる

俺たちはもりもりと食べ進める


「網の交換よ」


カルビを焼き終えたタイミングでユキナは俺に伝えた

ふと網を見てみるとカルビの油で焦げ付いていた

このまま肉を焼いてしまうと肉に焦げがついてしまうところど

抜け目のないユキナ、流石と言えるだろう


ここで焼肉においてユキナに絶大なる信頼を得た俺は店員に網の交換を頼んだ

しばらくすると店員が来て網を変えてくれた


「最後にホルモンよ」

「網の上で転がすように焼くことで余分な脂を落として美味しく食べれるわ」

俺は言われた通りホルモンを焼いた


「もう食べごろよ」


ホルモンを口に入れると濃厚な脂 強い旨味 コクが楽しめた

俺が普段ホルモンを焼くと焼き上がるタイミングはよくわからず

焼き過ぎてパサパサになってしまう

ユキナの焼いたホルモンはコリコリと柔らかく溢れ出る旨味の量が別次元であった

焼肉奉行ユキナ 恐るべしだ

最後に締めのわかめスープを頼み、口の脂を洗い流した


「ごちそうさま、ユキナ焼き加減、最高だったよ」

「ごちそうさま、あー美味しかった。自分の力でひっくり返せないってのも疼くものね」


お互いが食事に満足した


「人に焼いてもらう焼肉ってのも、なかなかいい体験だったわ」

ユキナはニヤリと笑った

会計は少し痛かったが、また来ようと思えるいい食事だった


帰りの会計に向かおうと思う時

「坊っちゃんじゃないか」

「ゆうこさん!?」

突然ゆうこさんに声をかけられた


「私はピザを焼くのも美味いが、肉を焼くのも美味いぞ!はっはっは!」

ゆうこさんは豪快に笑うと

「今度肉の焼き方を教えてやろう、私は焼肉奉行だからな、覚悟しておけ」

と言い残し店を後にした

ここにも焼肉奉行が居たみたいだ

ユキナのいいライバルになりそうだ

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