黄昏の博物館
本日二話連続投稿なのでご注意を
湯島君最近は諸事情を経て暇人集団によって隠れ家ネットワークに組み込まれた、かつての生家で過ごしている。
とはいえ、このおうち彼が家庭の事情で離れたときとは間取りが変わっている。
リフォームした施主は湯島君になっているが、実際の施主はこの家の地下に拠点を構えた妖怪金出させろである。
妖怪金出させろがこの家の地下に拠点を構えた理由。それはこの家の一番奥にある。
玄関から見て一回の一番奥には20畳ほどのリビングがある。その入り口を覆うように4畳ほどのサンルームがある。
このリビングルームの入り口がとある接続領域の入り口であるという話を神子さんに報告していた湯島君。興味を持った暇人集団と妖怪金出させろ。諸般の事情から人手に渡っていたこのおうちを買い取り、湯島君が離れる直前の状態に整備して湯島君に押しつけた。
条件を満たした状態でのみつながるその接続領域に分類される空間は…。
「で、私が通い詰めそうな施設がほんまにここからいけるんやろなぁ?」
塚口女史が若干ジト目で横に座る湯島君を見る。
[そです。時間も条件なので今調整中ですが。ほかの条件が今日すごい理想的だって教えてもらったので。]
現在時刻は16時30分
妖怪金出させろの調査と分析によって、以下の条件が導き出された。
1.サンルームの窓全面から日光が入る天候であること。
2.窓から入ってきたにっこうが床や、天井、壁などからの反射でリビングルームの入り口にある引き戸にはめられたすべてのガラスが白く光っている事
3.この時点でサンルームおよびリビングルームが無人であること。
4.サンルームおよびリビングルームに音を出すものが無いこと。
5.入る時点で16時40分から50分の間であること。
屋外に設置された監視カメラは、ちょうどリビングルームの入り口にある4枚の引き戸にはめられた磨りガラスはすべて日光を反射して白く発光していた
「それで?そろそろどんな施設か教えてくれてもええやろ。」
[そこは行ってみてのお楽しみでお願いします。]
DOGEZAである。
流石にドン引きな塚口女史。
[アレ?先生、履き物は持ってきてないんですか?]
「屋内やから必要ないやん。」
[いえ、これから行くところ履き物必須なので。玄関から持ってきます。]
戻ってきたタイミングで、
[そろそろいいタイミングです。いきましょう。]
二人分の靴を片手に持ち、もう片方の手を差し出す湯島君。
軽めのトーンで差し出された手に、塚口女史は軽くあきれた調子でため息をつくとその手を取り立ち上がると、湯島君の代わりにサンルームの入り口である開き戸のドアノブをひねる。
盛夏の日差しに熱せらたもわっとした空気を想像していたら、思いのほか涼しい。
不思議に思いつつ白く塗られた木材を格子状に組み一枚の磨りガラスを挟んだ引き戸の前に立つ。
開けようと取っ手に手をかけたら湯島君に制止された。
リビングルームには何度も入ったことがある塚口女史。この先に何があるのかとあきれ顔で隣に立つ湯島君を横目で見下ろす。
「いかへんの?」
腕時計を見つめる湯島君に声をかける。
[これからカウントダウンして、0になったら開けてください。10秒前、5秒前、3,2,1,0。]
湯島君の0に合わせて開けるとその先にはフローリング敷きの見覚えあるリビングルームではなく…。
「…………。」
塚口女史目の前に広がる光景に言葉を失い立ち尽くしていた。
湯島君に手を引かれ我に返り一歩踏み出す。
「な、なあ。ここってなんなん?」
無言のまま靴を渡してくる湯島君に促され靴を履いた後彼に問うが、答えはない。
目の前に広がるのは足下のドアマット以外どこを見回しても純白の空間である。光加減でうっすらと影の濃淡があり壁や天井が認識できるが、それを除けば目が痛くならない程度にまばゆく光っているため平衡感覚が狂う。
てをつないだ湯島君がエスコートしてくれるのでかろうじて正気な感じ。
ただ手を引かれ促されるままに靴を履く
あまりの真っ白具合に混乱していて気付かなかったのだが手を引かれて歩むことでその先にあるカウンターらしきものを認識できた。
「ようこそいらっしゃいました。」
カウンターには青いストライプの入ったグレーのネクタイにこちらも濃いグレーの3ピーススーツを着た40台とおぼしき男性がいた。
[お久しぶりです。今日は彼女の利用登録をお願いします。]
差し出された紙に書かれた記入項目を埋めた後数分して、空間と同じく純白のクレジットカードと同じサイズのカードを渡された。
「これ、ここで落としたら事やね。」
笑いながらカードを財布にしまう。
[それは入館証です。これで先生もここの永久会員になりました。]
カウンターからよけると。先ほどのドアマットからまた数人人がやってくる。
塚口女史達が入ってきた入り口は視認できない。
「なあ、いい加減教えてくれへんかなぁ。」
[ここは博物館です。特定の条件を満たした時間、場所からのみ現実空間から入れるのですが、接続領域に住んでいる人はああして好きな時間にやってくるんですよ。]
湯島君曰くここは接続領域内にある空間で壁も、床も天井もすべてが純白でそれ自体が発光する性質を持っていることから、壁や床の境目が判りづらくなっている。ただ曲がり角には必ず順路と書かれた札がかかっていることや、トイレの入り口や各個室、便器周りには吸光テープが貼られていること。先ほどの受付カウンター置くにはごく普通の市役所みたいな感じの事務室が広がっていることなどを話された上で、妖怪金出させろ曰く「黄昏の博物館」と称されているらしい。
なぜ黄昏なのかというと、
「ここに入ることができる現実空間における場所すべてで入ることのできる条件がそろうのが16時台後半である事が名前の由来らしいです。」
カウンターを正面に見て左手にトイレがある突き当たり。
右手側には天まで続くかと思うような長く広い階段がある。まあ、例によって、真っ白なので認識まで時間がかかるが、赤い絨毯が敷かれているのでその上を歩いている限りは、段を踏み外すことはないだろう。
カウンター向かって右手側。トイレと反対側に、上がアーチになった通路の入り口があり、入るとすぐ右に曲がっている。
「ほぁ~!」
思わず奇声を上げるほどに様々な展示があり、塚口女史は目を輝かせている。
現実世界では弾圧などで葬られた芸術作品や、各種様々な学術標本が展示されている。
「ふぁ~。ねぇ、ここって君がいないとこれへん?」
[さっき受け取った入館証があれば条件を満たした場所ならどこからでも、僕がいなくても大丈夫です。条件は、聞いたところでは、
1.西日が差し込む大きな窓がついている部屋であること。
2.窓の正面に両開きの引き戸があること。
3.引き戸の50%以上がガラスであること。
4.引き戸のガラスが受けた光を乱反射し白く輝く仕上げがなされていること。
5.入館直前のタイミングで対象の部屋が1時間以上無人であること。
6.入館直前のタイミングで対象の部屋が1時間以上無音であること。
7.入る時点で16時40分から50分の間であること。
だそうです。]
「……それって、隠れ家でええんかなぁ。」
今回の入り口も僕の隠れ家なんですが。と湯島君が返すと忘れてたといわんばかりの反応が返ってきた。
ふと上を見上げるとプールなどで潜った後水面を見上げたときのような揺らめきとともに変化する柔らかな光を感じる。
[ここは水や液体に関するブースのようですね。この博物館はエリア毎に天井の光が変わるんですよ。それに、めちゃくちゃ天井が高くて開放感がありますよね。]
言われてみれば、 目測で5階相当くらいの高さはありそうだ。
「はぁ~。」
それはもう、幸せこの上ないというような表情で順路途中の休憩スペースに設けられた純白のベンチに腰掛ける塚口女史。
[いかがでしたか?]
湯島君に問われて、
「正直言って疑念100やった。でも、君が言う通りやな。こりゃ私は通い詰めるわ。ただ…。」
塚口女史が言いよどみ、湯島君が続きを促す。
「私一人で来たら、かえってこれなくなり宗谷から、行きたくなったら君に声かけるわ。」
[姉さん、それあんまり意味ないですよ。僕が、姉さんのストッパーになるとお思いですか?]
まあ、できる限り頑張りますといった上で、
[どうします?この休憩スペースはセーブポイントにもなっていて、次回来館時に最初からじゃなくて、ここから続きを見られるように成っているのですが。
あちらの扉からエントランスに戻れます。]
と問いかけた。
「…今日は帰る。これは一気に見たら、私の心が感動に、耐え切れへん。」
胸がいっぱいですと言わんばかりに恍惚としながら言葉を句切る。
[そですか。感動で動けなさそうですが、とりあえず、エントランスにある喫茶店へ行って一息つきましょう。]
湯島君に支えられるようにして休憩スペースを出た塚口女史。
喫茶店でコーヒーとケーキを一口。
「だめや。私、今日もう寝つけへんかもしれん。泊めて。」
これに対する湯島君の反応は、
[着替え有ったっけかな?]
である。今回のこの博物館への入り口となった湯島君の隠れ家はちょくちょく塚口女史が泊まっているので、彼女の下着やら着替えが常備されている。
ただ、この日は洗濯をしていたためこの発言となっていた。
[とりあえず、後で入浴剤選んでくださいね。]
泊まるのは受け入れ済みである湯島君だった。




