第42話 ギャル魔王は災難続き
魔王とラッキースケベしてしまう俺。蛇王ニーズヘッグが大激怒だ。凄まじい魔王の怒りで空気は震え大地は震動する。
ズドドドドドドドドド――――
「はぁーっ、あーしにキスするとか、あんたバカなの？ 死ぬの？ チカンなの！？」
ニーズヘッグが一気に捲し立てる。マシンガン文句が止まらない。
「い、いや、不可抗力というか、そっちから飛んできたというか……わざとじゃなく事故なんだけど……」
「ハァ！ しんじらんないっ！ キスは好きな人とするに決まってるっしょ！ マジでイミフなんですけど」
見た目はギャルなのに意外と初心だった。
「そうですよ！ き、キスとか絶対絶対ダメです！」
「そうだそうだ！ ジェイドのバカぁ！」
ミウとララからも怒られてしまう。戦闘中だというのに散々だ。
ええっ……俺の味方がいない状態とか……まさかのラッキースケベで孤立無援に。 でも、セクハラになるとマズいし。敵だけど謝った方が良いのか？
「ご、ごめんなさい」
俺の声も聞こえていないのか、ニーズヘッグがジタバタ暴れて怒っている。地団駄踏む度に地響きが起こり、その魔力の強さを物語っているようだ。
「ハァー、ハァー、ムカつく！ もうっ、あーし本気出しちゃうから！」
ズガガガガガガガガッ！ バリバリバリバリバリバリ――――ズドドドドドドドドーーーーン！
凄まじい音と共に閃光が走り、ニーズヘッグが立っていた場所から超巨大な影が天空に伸びて行く。それは全長100メートルはあるかと思われる、翼の生えた黒い蛇のような姿だった。
「この世界で最強クラスの存在。ドラゴンであるあーしを怒らせたのを後悔するのね！ もう、全員駆逐しちゃうし！」
天空から振動波のような声が聞こえる。ギャルバージョンの時より野太く感じる声だ。
「あれ？ これヤバいのでは。ドラゴンとか竜王ってラスボスクラスの敵だよな。ギャルだから油断してたけど、これが本来の姿なのか……」
俺の言葉にミウとララが再び文句を言う。
「ジェイドさんがエッチなことするからですっ！」
「ジェイドよ、後でキスの件をキッチリ説明してもらうからなっ！」
今は、そんな場合じゃない。ニーズヘッグを倒さなければ後もエッチもないのだから。
「はっはっはっ！ ジェイド、ドラゴンが相手とか燃えるよな！」
ライデンが少年漫画の主人公みたいなセリフを言う。相変わらず凄い自信だ。ちょっと分けてもらいたい。
「ジェーイドさまぁぁーっ！ ドラゴンを倒して、竜殺しの称号ゲットですわよぉぉーっ！」
後ろの方からエルフリーデの声が聞こえる。簡単に言ってくれるが、最強クラスのドラゴンを倒すには、まだレベルが足りないだろう。いくらウルトラレアの七星神だとしても、ゲーム序盤でラスボスが現れた心境だ。
「ミウ、魔力回復魔法を頼む！」
ここに来るまでに大魔法を連発している。俺もララも魔力を消費しているのだ。
「はい、さっきレベルアップして覚えた強い神聖範囲魔法があります。やってみますね」
ミウが聖天神戦棍をかざし呪文の詠唱に入る。転生初日から最終奥義のような高位神聖回復魔法を使うミウが言う『強い神聖範囲魔法』とやらが気になるが……。
「聖天スピカの名のもとに、皆々に等しく全ての治癒と蘇生と神の奇跡を！ 高位神聖範囲復活！」
ペカァァァァァァァァ――
俺達の周囲に、神の奇跡のような光が満ちた。全ての者の体力と魔力を回復し、あらゆる呪いと状態異常を解除する究極の呪文。
「は？ はあああ！？ これ、セイクリッド・リザレクションを範囲魔法として使ったのか？ 究極の治癒魔法であるリザレクションを広範囲にわたって行使するなんて聞いた事がないぞ」
俺が叫ぶと、ちょっとドヤ顔になったミウが胸を張って答える。より巨乳が突き出ていて目のやり場に困るが。
「この高位神聖範囲復活の凄いところは、範囲内にいる味方全てに効力があるんです。だから、私の魔力も回復しちゃうんですよ。もう魔力ポーションはいらないです」
えっ…………それ、この究極魔法を連発できるってことでは……？ チートか？ いや、これバグだろ。永久機関のように魔法を使い続けられるじゃねーか。
ミウのチートっぷりは後で確かめるとして、今は目の前の蛇王ニーズヘッグが先だ。俺達の話を長々と待ってくれるほど気長ではないだろう。
「いくら体力や魔力を回復しても無駄だし。あーしの竜の息吹で一撃だし！」
ニーズヘッグがブレス攻撃の体勢に入る。竜族最強クラスの吐くブレス攻撃は、最高位攻撃魔法と同等の威力があるはずだ。直撃を受けたらただでは済まないだろう。
「来るぞ！ ミウ、防御魔法を！」
「はい、ジェイドさん。任せてください」
再びミウが魔法詠唱に入る。ポンコツだったミウが大活躍だ。
「聖天スピカの名のもとに、何者をも退ける神の盾を顕現し我らを守りたまえ！ 高位神聖多重障壁！」
「黒炎の息吹！」
ボボボボオオオオオオオオオオオーーーー！
ミウの防御魔法とニーズヘッグのブレス攻撃が同時展開した。
ニーズヘッグの口から超高温の黒い炎が吐き出され、周囲の木々が炭へと変貌し消滅してゆく。しかし、直撃を受けるはずだった俺達の正面に、ミウの高位神聖防御魔法が展開される。多重結界からなるそのシールドは、最強クラスのドラゴンのブレス攻撃を防いていた。
「ぐああっ！ 熱っちいい！ 熱いけど、ミウの防御魔法が防いているぞ。す、凄い！」
俺に続きライデンまでミウを褒める。
「よくやったミウ」
「え、えへへ、私、役に立ってますよね」
最初はゲーム未経験とあって下手糞で不器用だったミウが、今では俺達を守っている。ミウの成長ぶりに少し泣きそうになってしまった。
ボォォォォォォ――
ブレス攻撃や止んだところで、ライデンが一気に加速しニーズヘックの背後に回り込んだ。それに合わせて俺も攻撃に移る。
「ちょ、なによなによ！ こいつら、ちょー強いじゃん。こんなの聞いてないし！」
ドラゴン最強の一撃を防いだ俺達に、さすがのニーズヘッグも驚愕する。人がドラゴンに対抗するなどあり得ないと思っているのだろう。
「くらえっ、疾風迅雷！」
ズシャァァァァァァァァーッ！！
ライデンの大太刀が閃光のように輝き、目にも留まらぬ無数の軌跡となって咲き乱れる。超加速した刀が賽の目のように斬りまくる攻撃技だ。
「痛ったぁい！」
ライデンの刀が、ドラゴンのぶ厚い鱗を貫通している。攻撃は効いているようだ。
それに合わせ、俺も魔法剣を振り下ろす。
「魔法剣・爆雷陣！」
ズドドドドドドドーーーーン！
上位雷撃魔法をエンチャントした剣で斬り付けた。ドラゴンの物理魔法防御と強靭な鱗を貫通し、直径5メートル以上ありそうなニーズヘッグの胴体の鱗を切り裂き血が噴き出す。
「きゃあああっ！ もうなんなのぉ！」
文句を言っているニーズヘッグに向け、更に追撃の魔法を撃ちこんだ。
「氷槍！」
ズサズサズサズサッ！
切り付けた部分に向かい、ミサイルのような氷の槍が撃ち込まれた。五大原初魔宝玉によって強化された魔法は、確実に割れた鱗の切れ目へと命中する。
「もうぉぉぉぉ～っ！ ムカつくぅぅーっ！」
やれる！ これ、勝てるのでは？
俺が勝利を予感した時、詠唱に入っていたララの巨大魔法が炸裂した。
「宙より召喚せし星の欠片よ、天空を貫き大地を震動させ敵を滅せよ！ 流星雨！」
空を覆う厚い雲を突き破り、天空から大量の隕石が落下してくる。無数の流星のような隕石の落下で、ニヴルヘイムのどんよりした空の雲が千切れ飛び霧散してゆく。
「えっ？ 流星雨だと……？ ヤバい、退避だライデン！」
「おう、分かっている」
ヒュゥゥゥゥーッ、ドドドーン！
ヒュゥゥーッ、ヒュゥゥーッ、ヒュゥゥーッ、ヒュゥゥーッ、ヒュゥゥーッ、ヒュゥゥーッ、ヒュゥゥーッ、ヒュゥゥーッ、ヒュゥゥーッ、ドドドドドドドォォォォォォーン！！
俺とライデンが退いたところに、無数の小型隕石が落下する。落下の重力で加速した隕石が断熱圧縮でエントロピー増大し、超破壊力になって雨のように降り注いだ。
ドドドーン！ ドドドドーン！ ドドドド－ン！
「きゃああああぁーーーーっ！ もうヤダぁぁ～っ！」
落下のインパクトで土煙が上がる中、ニーズヘッグの悲鳴が聞こえる。敵ながら散々な目に遭っている蛇ギャルが、ちょっとだけ可哀想に思えてしまった。
