第41話 蛇ギャル登場!
コッチコチになったジャスティス。解凍しようとするも、何をやっても元には戻らない。これが氷漬けの美少女なら絵にもなるが、氷漬けのイキった男ではどうしようもない。
「おかしいです。私のリザレクションが……」
力なくミウがつぶやく。今まで抜群の神聖魔法の効力を持っていただけに残念そうだ。
「これは……鑑定してみたが……」
「な、何だジェイドよ」
俺がつぶやくと、ララも近くに寄ってきて鑑定スキルを使う。
「いや、ミウのリザレクションは効いているはずだ。ジャスティスの体力も魔力も回復している。これはダメージや状態異常とは別の何かだ」
「えっ、それでは……」
俺の言葉で沈んでいたミウが顔を上げた。
「ふむふむ、時間停止。このクリスタルのような氷の棺が、この状態のまま時間停止して何も魔法を受けつけないようだ。つまり、解除方法は特殊なこの魔法を撃ち破る別の魔法が必要なのかもな。ミウのレベルがもっと上がれば解除魔法を取得できるかも」
ジャスティスの周囲の棺を鑑定した俺に、ミウではなくライデンが返答した。
「なるほど、私の奴隷契約を解除する魔法と同じで、ミウのレベルが上がれば期待できるな」
ライデン……エッチ奴隷の契約解除の件、すっかり忘れてたわ。すまん。
俺は心の中でライデンに詫びた。
「じゃあ、まだ希望はありますね」
ガッツポーズみたいに両手を胸の前にグッと掲げたミウが言う。
俺達は、このままジャスティスを王都グラズヘイムまで運ぶことにした。
「よし、王都まで転移しよう。転移!」
俺が転移魔法を使うが、空しく不気味な森に声が響くだけで何も起きなかった。
「おい、どうした?」
ライデンが冷静にツッコミを入れる。
「いや、おかしいな。誰かが妨害魔法でも掛けたのか?」
俺がステータス画面を呼び出そうとしていると、探索マップに巨大な魔力を感知した。
「おい、何かくるぞ!」
ララも気付いたようで俺に続く。
「強いぞ、ジェイド! 先日のラタトスク以上だ!」
霧に煙る森の向こうから、強大な魔力を持つ魔族の影が近付いている。強さからいって魔王クラスだろう。
そこにいる全員が武器を構えた。
霧の中に浮かぶ影は、シルエットから女性のように見える。徐々に姿を現し輪郭がハッキリしてきた。信じられないような魔力を放ち、一歩一歩進むその迫力は間違いなく魔王レベルだ。
その女性は、俺達の前方で止まると、少し変わった言葉で話し出した。
「逃がさないし。あーしの縄張りを魔法でぶっ壊してくれちゃって。もう許さないんだから」
なぜギャル語?
この場にいる俺とミウとララとライデンだけが、そう思っただろう。この世界でギャル語が流行っているのかは知らないが。
「転移できなくて焦ってるっしょ。あーしの魔法【領域封鎖】で転移できないようにしたから」
目の前に現れた女はギャルだった。それも一昔前のファッションだ。へそ出しルックのピッチリしたシャツに、蛇柄のタイトミニスカート。足には黒いニーハイロングブーツ。
長く派手な紫色の髪を広げて、美人なのに目つきの悪い顔には派手派手なメイクだ。何だか90年代くらいのファッションに見える。いったいどういう設定なのだろうか。
「てか、あーしはニーズヘッグ。あんたら、ちょーボコボコにすっから」
六大魔王が登場した緊急事態なのに、変なファッションとギャル語が気になって仕方がない。どうも緊張感に欠けるのだ。
「ふにゃーっ! どどどどど、ドラゴンです」
エルフリーデに抱かれているミーニャが口を開く。
「えっ、確かニーズヘッグって蛇王だったような?」
俺のつぶやきに、即座にミーニャが答える。
「ニーズヘッグは伝説のドラゴンです。竜種の中でも最上級の強さです。ご、御主人、逃げるのです!」
「あーっ、そこのネコちゃん分かってるっしょ。あーしは最強クラスの竜王なの。でも、見た目が蛇っぽいからとか、ファフニールとキャラがかぶるからって、勝手に蛇王にされちゃうし! ホントむかつく」
ニーズヘッグが地団駄踏みながら言い放つ。何やら他の魔王と仲が悪いようだ。
そんな中、エルフリーデが魔王と聞いてテンションが上がってしまった。
「ジェイド様! 今こそ伝説の英雄の力を見せる時ですわ。蛇女をやっつけてしまいましょう! ジェイド様ならば魔王など恐るるに足らずですわ。おーほっほっほっほっ!」
エルフリーデが余計な口を挟み、ニーズヘッグの機嫌を更に悪くしてしまう。もう戦闘は避けられないだろう。
「だぁかぁらぁ~っ、ドラゴンだって言ってるっしょ。マジむかつくぅ」
相変わらず変な喋り方の魔王だ。蛇王だかドラゴンだか知らないが、見た目が想像しているドラゴンと大違いで怖くない。
いや、見た目に騙されるな。俺達のレベルが上がったとはいえ、魔王クラスの敵と戦って無事に済むわけがない。
「エルフリーデはミーニャを連れて下がって! フランツさんは皆を守って」
「分かりましたわ」
「心得た!」
近衛騎士団がエルフリーデを守るように後退する。ミーニャはエルフリーデに任せておこう。
「よし、行くぞ!」
俺の合図でランデンが前に出てミウとララが後ろに展開する。ポンコツなパーティーだったのに、だいぶ連携がマシになった気がする、
「はあ? 人間があーしに勝てるわけないっしょ。ボッコボコにしてやんよ」
ニーズヘッグが喋り終わる前にライデンが動いていた。否、スキル【縮地】を使ったのだ。
元から速いライデンのスピードが、極限まで高められるスキル。ゼロから一気に最高速まで超加速し移動する。傍目には瞬間移動したようにしか見えないだろう。
「紫電一閃!」
キィィィィィィーーーーン!
「きゃああっ! あっぶなっ!」
ライデン一撃必殺の技を紙一重でかわすニーズヘッグ。油断していたように見えて、紫電一閃をかわすところはさすが魔王の一角だ。
と、思った矢先――――
「いったぁ~い!」
びゅぅぅぅぅーっ!
ちょっと刀が当たっていたようで、腹が切れて血が噴き出した。さすが魔王とか思ったのに、やっぱりただのギャルかもしれない。
「なにすんのよぉ~っ、マジありえないんですけどぉ」
ライデンが先行している隙に俺もスキルを使用している。用意していた魔法銀飛竜剣(中二病っぽく命名)にスキルを使用する。
「スキル魔法効果付与、爆雷陣! 天空より出でて万物を貫き大地に至る雷神の一撃よ、爆雷となりて全てを滅ぼせ! 魔法剣・爆雷陣!」
バリバリバリバリバリッ!
前回の拾った剣の時とは大違いだ。魔法効果の高い特殊な合成を施した剣により、魔法剣の威力が数段上がっている。
ダンッ!
俺は地を蹴ってニーズヘッグに斬りかかる。どんなに魔王クラスの魔法防御や物理防御が高くても、暗黒皇帝のスキルでエンチャントした魔法剣ならば防御結界を打ち破るはずだ。
「飛燕!」
俺が攻撃する前にライデンが追撃の蹴りを繰り出した。空間をえぐり取るような、えげつない威力の回し蹴りだ。蹴りの風圧で、命中していないのにニーズヘッグが飛ばされる。
「きゃあぁぁっ!」
「えっ!?」
予期せぬ方向に飛ばされたニーズヘッグが、俺の踏み込んだ進路と重なり抱き合うように激しく衝突した。
ドッカーン!
「いったあぁーっ!」
「痛てっ!」
どたっ、ごろごろごろっ!
折り重なったまま転がり止まった時には、なぜか俺がニーズヘッグに覆いかぶさり口と口を合わせている形になっていた。
つまりキスだ。
ドォォォォォォーン!
「きゃああああっ! しんじらんないっ! ままま、魔王であるあーしに、きき、キスするとか! あんたバカなのっ!」
蛇王ニーズヘッグを更に怒らせてしまう俺。まさかの魔王クラスにラッキースケベ発動。
キスされて真っ赤になって怒るニーズヘッグの体から凄まじい魔力が放出される。蛇ギャルが本気になってしまった。




