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第39話 ポンコツパーティーは加速する

「さあ、行きますわよ!」


 エルフリーデが声を上げる。まるで戦国武将のときの声のように。


「えいえい――――って、何で無視するのですか!」


 エルフリーデが『えいえい』と言うが、誰も『おー』と返してくれなくて怒り出してしまう。


 俺達は、ランブルグ公の暗躍を暴いたり幻王ラタトスクを撃退したことから、宮殿で豪華な夕食と宿泊を許された。

 朝起きて、武器屋に注文してある剣を取りに行こうかと思ったところ、何故かエルフリーデがこのような状況なのである。



「あの、エルフリーデ、一つうかがいたいのですが」

「何でしょうか? 何でも聞いてくださいまし」

「もしかして、ニヴルヘイムに行くおつもりですか?」

「もちろんですわ!」


 くっ、やっぱりそうか……これまでの流れで何となくそんな気がしていたのだが。


 エルフリーデの後ろで近衛騎士団長のフランツが渋い顔をしている。おまえのせいだと言わんばかりに。


 おいおい、俺は悪くないよな。この王女様が好奇心旺盛というか色々なことに首を突っ込みたがるだけのような……。


「えっと、エルフリーデは危険なのでやめた方が……」


「心配いりませんわ。これでも剣の心得はありますの。モンスターなどドッカーンですわ」


「いや、モンスターじゃなくて、ラタトスクみたいな魔王クラスが襲ってきたら危険なんだけど」


 この王女様……最初は利発そうな女性かと思ったが、何となくポンコツ感が増している気がする。要注意だ。


「いくらジェイド様の頼みでも聞けませんわ。わたくしも行きます。英雄の妻となる者、やはり共に並び立つ姫騎士であるべきですわ。わたくしはジェイド様の妻として、どこまでも共に戦う覚悟」


 エルフリーデが変なことを言い出して、俺の頭がフリーズした。



「えっと、ミウ、ララ……」


 なぜか俺は振り返り二人に話しかけた。


「もしかして、これって……」


「ジェイドさんのバカぁ!」

「くっそ、ジェイドのアホ!」

「御主人、鈍感過ぎです」


 ミウとララが怒り出し、その横のミーニャにまで説教される。


 あれ? エルフリーデの言っている英雄に嫁ぐって、もしかして俺のことなのか? いや、何となくそんな気もしていたのだが、もし違った場合のショックのデカさを考慮して、考えないようにしていたのに。


 もしかして、俺……モテ期なのか? 俺は人生初のモテ期が来ているのか? 気のせいだと思っていたが、ミウとララも俺に気があるような?


 俺がモテ期で混乱していて、ミウとララがプリプリ怒っていると、ライデンがため息交じりに話し出す。


「はあっ、もう面倒くさい。姫も連れて行けば良いだろう。あんな魔王レベルの敵がウロウロしておるのなら、どこに居ても危険なのは変わらんぞ」


「まあ、確かにそうだけど」


「さすが側女の方ですわ。話が分かりますわね」

「側女ではありません」


 いつものオヤクソクをやっているエルフリーデとライデンを見ながら、俺は魔族領やらモテ期やらで頭がいっぱいだ。



「エルフリーデ様、もう分かりました」

 ずっと渋い顔をしていたフランツが話し出す。


「私が何を言っても無駄なのですよね。エルフリーデ様がニヴルヘイムに行くと申されるのなら、私も警護役として同行します。いいですか、王に許可を頂いてまいりますので待っていてください」


「分かりましたわ」


 フランツが王の元に向かって廊下の先に消えた。その途端に、エルフリーデが真逆のことを言い出す。何となく予想がついていたが。


「さあ、今の内に行きますわよ」


 やっぱり、そうなったか――――


 ◆ ◇ ◆




 注文していた武器屋に入ると、あからさまにスキンヘッドの店主の態度が違う。それもそのはず、先頭を切って入店したのはエルフリーデなのだから。


「こ、これは王女殿下、当店にお越しになられるとは、光栄の極みにございます。本日は、どのようなご用件でしょうか」


 店主が平伏してしまった。


「おっさん、やけに低姿勢じゃないか」


 後ろから俺が顔を出すと、更に店主が驚いた顔になった。なにしろ王女を連れて来店した上に、俺の両腕にはミウとララが抱きついているのだから。


「あんた……本当に何者だよ。殿下を連れてきたり、急にモテモテになっていたり……」


「いや、何というか……モテ期らしい」


 自覚の無さそうな俺の発言に、店主が宙を仰いで呆れたような顔になる。


「おいおいにいちゃん、あんた冴えねえ感じだけど、将来大物になりそうな気がするぜ」


「冴えないは余計だ。それで、頼んでいた剣は完成したのか?」


 自慢気な顔になった店主が、剣を取り出してカウンターに乗せる。


「これだぜ。飛竜ワイバーン希少部位(レア素材)を惜しみなく使ったスペシャルな一品だ。魔法銀飛竜剣とでも名付けようか」


 その剣は、魔法銀ミスリルの輝きの中に、赤くうごめくような木目状の模様が入っていた。


「おおっ、これは予想以上に良い仕上がりだ。おっさん、腕は良かったんだな」


「ったりめーよ! こちとら王都で一番の武器屋やってんだぜ」


 魔法銀飛竜剣を握ると、各種アビリティがアップするのを感じる。これならエンチャントする魔法剣として使えそうだ。


 金を払い店を出た。元の剣と合成による技術代で200万ゴールドはするそうだが、残った飛竜の希少部位をプレゼントしたことで120万ゴールドで良いそうだ。高いのか安いのかはよく分からない。




「さあ、出発ですわよ」


 通りに出たエルフリーデが声を上げたところで、もう予想通りにフランツの声がかかった。


「エルフリーデ様、勝手な行動は慎んでください。城門に近衛騎士団と馬車を用意してあります。我らも同行いたしますので」


「むぅーっ!」


 エルフリーデが膨れるが、どのみち馬車は必要だろう。一緒に城門まで行き、馬車に乗ることになった。


 ◆ ◇ ◆




 ガタンガタンガタン――


 馬車に揺られて北方のニヴルヘイムへと向かう。最初は四人だった俺達の旅が、いつの間にか大所帯へとなってしまった。


 暴走気味なエルフリーデは心配だが、ジャスティスをぶん殴ってでも止めて連れ帰らなくては。これ以上戦争を拡大させるわけにはいかないだろう。


「今頃ジャスティスは何やってんだろ?」

「魔王に返り討ちにされてたりとか?」


 俺のつぶやきにララが答えた。


「ははっ、まさかな……」


 そのまさか(・・・)なんて考えもせずに馬車は進む。ちょっと魔族領に行ってヤツを連れ帰るだけだと思いながら。


「あの、そろそろ離れてくれないかな?」


 城を出てからというもの、ミウとララが両手にしがみ付き離れてくれない。両腕に柔らかな感触を受け続け、もう色々とヤバい状況なのだ。


「イヤです。ジェイドさんがエッチなことをしないように監視しないと」


 エッチな胸をムニュムニュ押し付けながらミウが言う。エッチなのはキミだろと言いたくてたまらない。


「くくっ、ジェイドは目を離すと、姫とイチャイチャし始めるからな。わ、我がしっかりとガードしなければ」


 そう言いながらイチャイチャしているララ。それはおまえだと言ってやりたい。



 くそっ、元の世界ではモテなくて『彼女欲しい』って思ってたのに、いざモテ期が来ると動揺してしまうチキンハートな俺を何とかしたい!

 てか、これ手を出しちゃっても良いのだろうか? いいよな? モテ期だし。ネットでも積極的な男がモテるって書いてあったし。


 そろそろそろ――


「ジェイドさんっ! 今、私の胸触ろうとしてましたよね!? エッチ禁止って言いましたよ」


 それとなくミウの巨乳に触れようとしたところ、プク顔のミウに怒られてしまう。デレていると思ったのに、こんなの理不尽過ぎる。


「じぇ、ジェイド! やっぱり巨乳が良いのか! 大きいおっぱいが好きなのか! ぐぬぬぬぬっ! 今そなたは全国四千万人の控え目おっぱい女性を敵に回したぞ!」


 そんなつもりはないのに、なぜか激怒したララにまで怒られてしまう。全国四千万人というのは何の集計なのだろうか。


「ジェイド様っ! 英雄色を好むと言いますし、側女や側室は許しますけど、あくまで正妻はわたくしですわよ! そこのところ、お忘れ無きように!」


 エルフリーデにまで怒られる。もう散々だ。


「くっそ、これ本当にモテ期なのか?」


 ネットの恋愛情報も当てにならないと嘆きながら道を急ぐ。ニヴルヘイムに恐ろしい敵が待ち受けているとも知らずに。



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