第3話 俺のゲーム人生いきなりピンチ
突然PK行為をしようとする変なヤツが現れる。ゲーム開始早々URアバターを引き当てて超ラッキーかと思っていたら、どうやらそうでもないようだ。
「PK行為は禁止されてるはずだろ。PVPしたけりゃ、専用の闘技場があったはずだが」
「はっはっはっ! お前は何も分かってないんだな。これが普通のゲームだと思ってんのかよ!? ふはぁあ!」
(は? なに言ってんだこいつ……何か腹立つヤツだな。そういえば、さっき俺のことを暗黒皇帝って言ったような。何で……あっ、そうか鑑定スキルを使ったのか)
「鑑定!」
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名 前:ジャスティス
職 業:神聖剣王ベテルギウス
レベル:38
剣技レベル:2
ステータス
体 力:2050
魔 力: 210
筋 力:1280
攻撃力:2200
魔攻力: 250
防御力:1820
素早さ: 550
知 性: 120
魅 力: 180
スキル
【剣王】
【烈風斬】【神聖刺突】【夢幻剣】【幻影剣】
【解呪】【解毒】【抵抗】【反射】【肉体強化】【物理防御強化】【魔法防御強化】
【鑑定】【探索】【飛行】
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俺がスキル鑑定を使うと、目の前の空間に男のステータスが表示される。
「何じゃこりゃ! 桁違いじゃねーか! しかも神聖剣王って、俺が最初に選ぼうとしたURアバター」
ジャスティスとかいう男が、俺の言葉に気を良くしたのか満足気な顔をする。ちょっとムカつく顔だ。
「正義の使者である俺様が直々に倒してやるって言ってるんだ。悪の手先は大人しくやられてろ!」
そう言ったジャスティスが使っていた剣を戻すと、新たな剣を取り出した。
剣身部分が緑色に光り、鍔部分から木の枝のような装飾が付いた不気味なデザインの剣だ。
「おい、何をする気だ?」
「くらえっ、神殺し伝説の一撃! 侵食剣ミストルティン! どりゃぁぁぁぁーっ!」
ズシャァァァァーーーー!
「ぐわぁあああああああああああッ! 痛ぇええええーっ!」
ヤツの剣を避けきれず、左腕に深い傷を負ってしまう。そのまま地面へと墜落する。
ドォォォォーン!
「ぐはああぁ、何だこれ! 痛覚があるなんて聞いてねぇぞ! そ、それに……暗黒神スキルの自己修復機能があるんじゃなかったのか!? 傷が再生しねぇ!」
目の前にジャスティスも降り立つ。歪んだ嫌な笑顔をしながら。
「ふふふっ。この侵食剣ミストルティンは、一撃傷を負わせたら肉体を侵食し続ける神殺しの剣。自己修復も治癒も効かねえんだよ!」
「な、なんでこんな……」
「はあ? やっぱりオマエは何も知らないみたいだな」
「何のことだ……」
(いきなり襲われるわ、痛覚があるわで意味が分からん。これ、クソゲーだろ……)
「この世界は、TSOのリンデンヘイムとは違う場所なんだよ。俺は理想の世界に降臨したんだ。そう、この世界では、俺は勇者で王で神で正義の執行者! この最強のアバターと最強の武器により、悪を倒す正義のヒーローなんだ!」
「くそっ……何を言ってやがる。やっぱりヤバいヤツかよ……行き過ぎた正義マンか? でも、何で俺を……」
「は? オマエが暗黒神の手先だからだろ。暗黒皇帝といえば悪の手先に決まっている! それに、この国では暗黒神の眷属は倒すべき敵だからな。オマエの味方は誰もいないという訳だ! ふあーっはっはっはっはっ!」
(暗黒神の眷属? 訳が分からん……。でも、俺の暗黒のローブが暗黒神の手先に見えたから、街の人達が恐れて近付かなかったのか……)
ジャスティスとかいうふざけた男がニヤニヤと嫌な笑顔を浮かべる。どうせロクでもないことを考えているのだろう。
「最後に俺の最強の奥義を見せてやる。スキル剣王だ。夢のような神器八剣による同時攻撃だぜ。ひひっ、こんな凄い技を使える俺は最強だぜ!」
ジャスティスが『スキル剣王!』と叫ぶと、両腕とは別に背中から光に包まれた四本の腕が生えてきた。まるで阿修羅のカラクリ人形のようで不気味過ぎる。
そして、全ての手に一本ずつ剣を握っている。その全てが神器級アイテムだ。
「全てが神器級アイテム、聖剣エクスカリバー、神剣グラム、炎剣レーヴァテイン、滅剣デュランダル、侵食剣ミストルティン、天剣天羽々斬! その六本同時攻撃をくらえ! 神器六裂正義執行ぅぅぅぅーーーーッ!!」
六本の伝説の剣による同時攻撃が俺を襲う。
いきなりの展開で意味不明だが、もし本当にこれがゲームではないとしたら死ぬのだろうか?
俺の頭の中に走馬灯が流れそうになる。
(いやいやいや! 待てっ! 諦めるな、何か、何か助かる方法を考えろ! 今あるスキルで使えるのは…… そ、そうだ!)
さっきのレベルアップで転移スキルを覚えたような気がする。
(転移ってどうなるんだ? いや、考えるのはよせ! 今は逃げることだけを優先するんだ!)
「転移!」
攻撃が降り注ぐ瞬間、俺の意識はブラックアウトした。
◆ ◇ ◆
「はわわわぁ、痛そうです……」
何やら間の抜けた声が聞こえる。
俺は生きているのか……?
「うっ…………こ、ここは……」
目を開けると、そこには美少女が立っていた。それも超絶可愛い美少女だ。
「えっと、えっと……どうしよぉ……」
その美少女はオロオロとしている。
プラチナブロンドの綺麗な銀髪を、ふわりとした少し長めのボブヘアーにしている。大きくキラキラした美しい瞳はスミレ色に輝き吸い込まれそうだ。
小柄なわりに大きな胸を神官服のようなものに包み、真珠色の戦棍を手に持っている。
その少女は、恐る恐る俺に話しかけた。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
「くっ、こ、これが大丈夫に見えるのかよ?」
「はわわっ、すみません……」
リアルで『はわわ』とか言う女に初めて会ったぜ……。いや、そんな感慨に耽っている場合じゃない。
(ここは何処なんだ? あのジャスティスとかいう正義マンから逃げられたのか?)
考えても仕方がない。今は傷を治すのが先決だ。
「あのあの……怪我、私が治しましょうか?」
「頼めるか?」
「はいっ!」
(高位レベルの武器を持っているようだし、治癒も使えるだろう。でも……ミストルティンの傷は再生不可とか言っていた気が……大丈夫なのか?)
「あ、あのぉ~」
「何だ……」
「傷を治したら……私のお願いを一つ聞いて欲しいのですが」
「分かった。俺にできることなら」
「で、ではっ!」
その少女が戦棍を前に掲げてから、再び話し出した。
「あ、あのっ、やっぱり二つ……いや、三つお願いできますか?」
こっちは死にそうなのに早くして欲しい。
「分かったから早くしてくれないか?」
「ははは、はい。頑張ります」
少女が戦棍を掲げて治癒魔法の詠唱に入る。
「えっと、えっと……これかな? えいっ!」
ズババババババババ!
「ぐわぁあああああああッ! こ、殺す気かっ!」
「す、すみません、間違えました」
彼女が放った魔法は明らかに攻撃魔法だ。しかも魔属性の俺にクリティカルで効きそうな神聖魔法ときたもんだ。
天使のように可愛い美少女だと思ったら、実は死神なんじゃないのかと思えてきた。