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第37話 六大魔王

 まさかのミウとララの乱入で助かった俺達。先日のレベル上げで、巨大魔法を使えるようになった二人のおかげといえるだろう。


「ふふん、我は役に立つだろう。ジェイドよ、目いっぱい褒めるが良いぞ」


 ちょっとドヤ顔のララが褒めて欲しがっている。


「ジェイドさん、ど、どうでしたか? 私も頑張りました」


 ミウも褒めて欲しいオーラが全身から出ている。


「ふにゃ~ぁ、怖かったです……」


 後ろにミーニャもいた。とんでもない強敵が現れて怖がっているようだ。


 こ、これは褒めてやるべきだよな。結果的に助かったし。まあ、魔法は外してしまって敵には逃げられたけど……。


 いやいや、やはり褒めて伸ばす方が良いだろう。このネット社会になっても学校や職場で体罰やパワハラをするクソ教師やクソ上司がいるからな。あんな前近代的な教育は間違っているとデータも出ているのだ。

 てか、何で俺は教育論を語っているんだろ?


 俺はメンバーをべた褒めして甘やかすことに決めた。


「二人共、よくやったな。助かったよ」


「そうであろうそうであろう」


 なでなでなでなで――

 俺はララの頭をナデナデする。


「ララの魔法は凄いな。あんな破壊力の魔法を使えるなんて、ララは大したもんだよ。精度も前より上がってる気がする。あとちょっとで敵を倒してたな」


「うっ、ううっ……そ、そそ、そんなに褒められると……ぐへっ、ぐへへっ、ふひっ……ジェイドよ、そんなに我が必要か、しょうがないやつよ。ふふっ♡」


 ララがクネクネしながら嬉しそうにする。若干フヒッてるが気にしない。


「むぅぅぅぅ~っ」

 横でミウが俺に無言の圧力をかける。自分も褒めて欲しいと。


 なでなでなでなで――

 当然、ミウの頭もナデナデする。


「ミウも凄いよ。いつの間に、あんな強い神聖魔法を使えるようになったんだよ。もう上級者かもな。あんな魔法が使えるのなら、今に皆から聖女様とか呼ばれちゃったりするかもな」


「えへへぇ、も、もうっ、ジェイドさんたら、褒め過ぎですよぉ♡ そうですね、聖女様になっちゃいますか? じぇ、ジェイドさんの聖女とか……ごにょごにょ」


 ミウも嬉しそうに笑う。最後の部分が聞こえなかったが、このままレベルを上げて神聖魔法を極めれば聖女様も夢ではない。

 ただ、魔法の命中率が上がればだが。


 あと、後ろで怖がっているミーニャもナデナデしておく。ついでに抱きあげて撫でまくりだ。


 なでなでなでなで――


「よーしよしよし、良い子だぞ、ミーニャ」


「ふにゃーっ! 離すです! 子供扱いするなです。で、でもっ、ちょっと心地良いです」


 ナデナデしたらミーニャの震えも止まった。



「それにしても、よく助けに来てくれたね? 皆を守ってって言ったのに」


「凄い音がしたから急いで駆け付けたのだ。他の者より、じぇ、ジェイドの方が大切だしな。チラッ、チラッ♡」


 ララがチラチラ俺を見ながら話す。


「そうです、ジェイドさんがいなくなっちゃったら、私達はどうすれば良いんですか。危険なことはメッですよ」


 何か色々言いたいが、ミウの『メッ』が可愛いから良しとした。


「全く無茶をするなよジェイドよ。我の盟友を失っては困るのでな。そっちのサムライ女はいいけど」


「おい、聞こえているぞ」


 ララが余計なことを言って、ライデンにツッコまれている。一言余計に言ってはライデンに凄まれ、結局逃げ腰になってしまうのだが。


 ◆ ◇ ◆




 一段落したところでランブルグ公が拘束された。魔族と通じていて国家に反逆したとあっては大罪だ。


「し、知らん! わしは騙されていただけじゃ。魔族が人間に化けていたなど分かるかぁ!」


「言い訳は尋問所で聞こう。連れて行け」

「はっ!」


 近衛騎士団長フランツの命令で、唾を飛ばしながら喚き散らすランブルグ公は連行されていった。


「た、助けてくれぇ~っ! わしのせいではない!」



 うるさいジジイがいなくなって静かになったところで、興奮気味のエルフリーデが俺にグイグイ迫る。


「ジェイド様! 魔王と戦ったそうで。さ、さすがですわ。魔王と互角に戦える人間など、ジェイド様をおいて他にはいませんわぁ!」


 エルフリーデの目がキラキラしている。


「エルフリーデ、あの魔族は自分で幻王ラタトスクと言っていたけど、一体どんな魔族なんだ?」


 俺がラタトスクから聞いた話をすると、エルフリーデが驚きの表情になった。


「ラタトスクと言ったのですか! ラタトスク……」

「知っているのか?」

「それも、神話に描かれている魔王の名ですわ」

「詳しく教えてもらえないか?」

「はい、これは本格的に作戦を立てなければなりませんわね」


 ノリノリのエルフリーデに連れられ、再び王宮の応接室に逆戻りした。今日は大忙しだ。


 ◆ ◇ ◆




 俺達がお茶とお菓子で休憩している部屋に、エルフリーデが遅れてやってきた。どこかに寄っていたのだろう。


「大事件ですわ! やはりランブルグ公は魔族と繋がっていたようですわ」


 部屋に入るなり、ランブルグ公の陰謀を放すエルフリーデ。その目はキラキラ輝いている。


「魔族と裏で取引をし、王国を混乱させ簒奪さんだつを企んでいたのではないかとのことです」


 簒奪されたら自分が困るはずなのに、嬉々として話すエルフリーデ。よほど物語のヒロインのような展開に憧れているのだろう。


「ただ、取引をしていいた相手が魔王の一人だったのは頑なに認めていませんの。もしかしたら、本当に魔王だとは知らずに踊らされていたのかもしれませんわね」


 ジャスティスと同じなのか? ランブルグ公も利用されていたのだろうか?


「まっ、どっちみち売国奴は処刑ですわ」

「うむ、同意見だ。姫とは気が合うようだ」

「まあ、さすが側女の方」

「側女ではありません」


 エルフリーデとライデンがコントをやっている。気が合うのか合わないのか。どっちも少し過激な性格なので、怖い気がするのは俺だけではないはずだ。



「それで、幻王ラタトスクとは何者なんだ?」


 俺の質問に身を乗り出すようにして話し出すエルフリーデ。もう、今日は何回目だろう。


「そうですわ。それについてお話しなければいけませんね。ラタトスクとは、神話で六大魔王と呼ばれるニヴルヘイムの住人の一人ですわ」


 六大魔王……やはり他に五人も魔王がいるのか。


「ここ何十年もニヴルヘイムとは戦争をしていませんので、現在の状況はわかりませんが、神話の時代よりニヴルヘイムには六人の強い魔族がいて、それぞれ牽制しあいながら統治を続けているようなのです」


「牽制し合いながらということは、魔王はお互いに仲が悪いのか?」


「はい、さすがですわジェイド様!」


 この戦争……人間もランブルグ公のように裏切り者が出ているが、こりゃ魔族側も一枚岩とはいえないのかもしれないな。


「六大魔王とは、ニヴルヘイムの名目上の支配者である魔王ヘル、竜族の中で最強と謳われる竜王ファフニール、巨大な蛇の魔物である蛇王ニーズヘッグ、わしの魔物である翼王フレースヴェルグ、冥界の門番とも呼ばれる獣王ガルム、そして幻王ラタトスク。この六人ですわ」


 話を聞いているだけで、どの魔王も滅茶苦茶強そうだ。今のレベルでは勝てないだろう。


「何だか不安になってきたな」


 俺のつぶやきに、ライデンが自信満々に答えた。


「どうせ明日はニヴルヘイムに出発するのだ。現地でレベル上げをすれば問題無い」


 相変わらずライデンは脳筋っぽくて幸せそうだ。


「今頃は、ジャスティスがボコボコにされてお陀仏とか?」

「そうかもしれませんわね」


 俺の言葉に笑顔で返すエルフリーデに、ますます不安は募るばかりだ。



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