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第34話 九つの世界

 エルフリーデ王女は語り出した。この世界の成り立ち。古の神話を。



 これはアースガルズ王国ができるよりずっと昔の物語です。


 始まりは、魔族の支配する北方のニヴルヘイムと恐ろしい怪物が住むという南方のムスペルヘイムのみが存在し、混沌が支配する世界でした。


 やがて二つの国の間に始祖の人間が生まれます。しかし、その人間は神の怒りにふれ殺されてしまいました。そして、その始祖の人間の死体から大地や海や空が生まれ、太陽と月、星々が生まれたのです。


 世界の中心を貫くように原初の世界樹(ユグドラシル)が生まれ、世界は九つに分裂しました。


 それが、この国アースガルズ、隣国であるヴァナヘイム、海の向こうにある葦原中津国ミズガルズ、エルフの国アルフレイム、精霊の国シュヴァルツアールヴヘイム、ドワーフの国ニザヴェリル、巨人の国ヨトゥンヘイム。

 そして灼熱の怪物の国ムスペルヘイムと魔族の国ニヴルヘイム。


 これが今の世界になりました。



 エルフリーデが一息ついた。

 彼女の話は俺達の知らなかった、この世界の国々や成り立ちを説明してくれている。これで色々と理解が進みそうだ。


「なるほど。でも、この世界が終焉しゅうえんを迎えるというのは?」


「はい、それをこれからお話しますわ」


 俺の質問にエルフリーデが答える。神話の続きを話し始めた。



 繁栄を続ける人類ですが、ある日その終焉を迎えることになります。星々の黄昏(ラグナロク)と呼ばれるそれは、星が落ち大地が揺れ世界は炎に包まれ、あらゆる命が消えてしまうと。


 それは、海から水の精霊獣ヨルムンガンドが大量に押し寄せ、陸からは炎の怪物スルトが現れます。


 そして遂に、その怪物の中から世界を滅ぼす大災厄カタストロフィが出現し、それによって大地は海の底に沈み世界を終末へと誘う。



 でも、神話には続きがあります。


 世界が終焉に向かう時、滅びゆく世界を救うために天から七星神が降臨します。


 七星神は、世界の人々を束ね、死を恐れぬ勇者(エインヘリヤル)を引き連れ大災厄カタストロフィを倒し世界を救う……これが神話の全てです。




 エルフリーデの話を聞き、俺の中で話が繋がった。俺達が異世界に転生したのが偶然ではなかったのだ。


 この世界の神話通りに物語が進んでいる。この世界の何者が……神のような存在が俺達を呼びよせたのかもしれない。ということは、実際にこの世界は終焉に向かっているのか?



「えっと、ジェイド様でしたわよね?」


 エルフリーデがイスから立ち上がり、身を乗り出して俺に話しかける。


「は、はい、何でしょうエルフリーデ王女」


「王女だなんて水臭いですわ。ジェイド様は将来伴侶となるべき殿方。わたくしのことはエルフリーデとお呼びくださいませ。エルフィでもフリーダでも良いですわよ」


 は? 今、何か変なことを言った気がするけど……。気のせいか? ニックネームで呼べとか言ってたような? てか、この世界に来てから、俺の周りは変な女ばかりな気がするが。


「では、エルフリーデ王女」

「エルフリーデです」

「エルフリーデ……」


 王女に押し切られてファーストネームで呼ぶことになってしまった。


「ミウよ、これは由々しき問題だぞ」

「ララさん、大問題です。こんな積極的な姫様がいるなんて聞いてません」


 再びララとミウがコソコソ話しをする。


「おい、皆どうしたんだ?」


 俺のつぶやきに、ミーニャが耳打ちする。


「御主人、わざと聞こえないフリしてるですか? 鈍感過ぎです」


「ミーニャ……男にはな、男にしか分からない苦悩があるんだ。モテない高校三年間の学園生活で、俺のガラスの繊細ハートは傷付き、たまに鉛の鈍感ハートになるんだよ」


「ワケ分からないです」



 俺達がコソコソ話しをしていると、一人で夢の世界に行っていた顔をしていたエルフリーデが、例のランブルグ公爵の話を始める。


「そして、ランブルグ公爵が簒奪さんだつを企んでいる話しなのですが……」


「そう、それです。もしかしたらジャスティスと何か繋がっているのかもしれない。もしかしたら、ジャスティスが伝説の英雄だと知った公爵が、己の野望のために利用しようとしているとか?」


「それですわ! さすが伝説の英雄ジェイド様。そこまでお考えでしたか。一を聞いて十を知るとはこのことですわね。ジェイド様は一騎当千の強さを誇りながらも、頭脳も明晰でいらっしゃいますのね! 素敵ですわ」


 エルフリーデのテンションが更に上がってしまった。大したことを言ったわけでもないのに、べた褒めされてくすぐったくなってしまう。


「い、いや、それほどでも。ジャスティスが魔族領に攻め込むなんて、誰かに吹き込まれたか自己顕示欲を刺激する言葉で踊らされていると思ったわけですよ。はっはっはっ」


 どすっ!

 どすっ!

「いてっ!」


 なぜか横からダブルでチョップされる。ミウとララがジト目で睨んでいた。


「むっすぅ……」

「ぐぬぬ……」


「えっと……怒ってる?」


「べつにぃ、怒ってませんけどぉ」

「わ、我は怒っておるがな」

「じゃあ、私も怒ってます」

「怒りの乙女地獄突きをくらえっ」


 二人がプンスカ怒ってしまった。


 俺が王女にデレデレしたせいか? 仕方がないだろ。男ってのは褒められたら良い気分になっちゃうもんなんだよ。


 いや待て!

 これはサークルクラッシャー現象なのでは? ネットで見たぞ。サークルに男受けの良い小悪魔系女子が入ると、人間関係が悪化してサークルが崩壊するとか。


 マズい、エルフリーデにデレデレし過ぎるとパーティーに悪影響が出るかもしれない。気を付けねば。


「御主人が、絶対誤解している顔してるです」

 ミーニャにツッコまれた。



 俺は気を取り直してエルフリーデに話しかける。


「そのランブルグ公爵というのは、どのような人物なのですか?」


「はい、王国でも大きな力を持つ大貴族ですわ。前々から他国と通じていると疑念や噂が絶えないのですが、証拠をつかめず対処できずじまいで」


「なるほど、他国と通じて裏工作をしていると」


「そうですわ。とにかく悪い噂が絶えませんの。奴隷を酷使させ巨万の富を築いているとか、巨額の横領をして不正蓄財しているとか、敵国に情報を流しているとか」


 エルフリーデの顔に悔しさが滲む。何か確信があるのだが、はっきりと口に出せない感じだ。


「よし、そのランブルグ公爵とやらを拘束し尋問しよう」


 これまで黙っていたライデンが突然喋り出した。しかも、いきなり物騒な発言だ。


「ちょっと待てライデン。いきなり拘束って……」


「良いですわねっ! 今すぐ公爵家に向かい拘束しましょう!」

 エルフリーデがライデンに賛同してしまう。


「えええっ!!」


 いやいやいや、証拠もないのに拘束しちゃって大丈夫なのか? エルフリーデも大概だな。


「国を蝕む悪は成敗するのみ!」

「ですわ! 成敗しましょう!」

「やりましょう、王女」

「さすが七星神。えっと、ジェイド様の側女そばめの方」

「ライデンです。あと側女ではありません」


 ライデンとエルフリーデが意気投合してしまう。どちらも極端な性格だ。


「ジェイドさんっ! 王女様に手を出さないように、今夜も私が一緒に寝ますからね」


 ミウが堂々と添い寝を宣言する。


「ジェイドよ! わ、我も一緒に寝るからな。我の目の離れた隙にハレンチなことをされては困る」


 ララまで添い寝宣言だ。もうワケが分からない。


 ランブルグ公爵邸に押し入る気満々のライデンとエルフリーデ。緊迫した事態なのに添い寝を要求するミウとララ。このパーティー、こんなんで大丈夫なのだろうか?


 ランブルグ公爵の疑惑を暴くのと、ジャスティスの暴走を止めるのと、戦争を回避させるのと、ミウとララのドスケベ攻撃を耐えるのを、全て同時にやらなくてはならず俺は混乱する。


 残された時間は少ない。俺達はランブルグ公爵の屋敷へと向かった。



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