第30話 一躍有名人
冒険者ギルドに騒めきが起こる。近隣の飛竜を一掃したSランク冒険者だとか、数十匹の強力なモンスターを一度に殺戮しまくる狂戦士だとか。
ゲームでは、ある程度レベルを上げたプレーヤーなら、飛竜などのモンスターを倒すことも可能だろう。
しかし、この世界の住人では、勇者やSランク冒険者など、一部の選ばれし者のみが可能なのだ。それを、飛竜の住処でもあるガルム山脈に出向き、一網打尽にするなど、常識を超えた偉業と言うしかないだろう。
「おい、あれが噂の……」
「ああ、一人一人が一騎当千の強さらしいぞ」
「可愛い顔した女もか?」
「当然だろ」
「あの、小っちゃい獣人族もか?」
「ああ見えて強力な魔物や神獣に獣化するんだろ」
遠巻きに俺達を見ている冒険者が噂している。誰もが俺達パーティーに一目置いているようだ。
おいおいおい、急に有名人になっちゃったじゃないか。てか、ミーニャは普通の可愛いネコミミロリだぞ。魔獣や神獣に変化しないって。
昨日は帰りが遅くなったので、今日になってクエスト攻略の報告と報酬の受け取りにきたのだ。
どこからか俺達の噂が広まっていたのだが、俺が冒険者ギルド受付嬢にクエスト完了の報告をすると、更に噂が噂を呼び多くの冒険者が集まってしまった。
「はい、飛竜退治が三件ですね。証拠の魔石を受け取ります」
受付嬢から魔石を要求される。強力なモンスター退治の場合は証拠品の魔石が必要なのだろう。
「魔石魔石……これかな?」
バラバラバラバラ――
俺はアイテムボックスに入っている【竜玉赤】という宝石をテーブルの上に乗せる。街道沿いのクエストで一個、農園近くのクエストで一個、ガルム山脈のクエストで数十個。大量の魔石が山積みだ。
「「「おおおおおおーぉ!!」」」
周囲の冒険者達が驚きの声を上げる。
「えっと……ぜ、全部で28個です。飛竜一匹につき80万ゴールドの報酬になりますので、ご、合計で報酬は2240万ゴールドです」
「「「うおおおおおおぉぉぉぉーっ!!」」」
「凄いぜ」
「Sランク冒険者なのか?」
「何者だっ!」
報酬の多さに、また歓声が上がる。奥の金庫から大金が運ばれてきて、もう大騒ぎだ。
いきなり金持ちになった気分だな。これだけあれは当分の生活費には困らないだろ。パァーっと使いたい気もするけど。
「あなた達は、ただの駆け出し冒険者ではなかったのですね。先日は失礼いたしました」
受付嬢が恥ずかしそうな顔をする。たぶん、昨日の俺達に対して、余計な独り言をつぶやいた件だろう。駆け出し冒険者なのに、いきなり危険なクエストを受けるのは無謀なので気持ちは分かる。
「もしかして、どこか遠い国の英雄様ですか?」
少し憧れが入った瞳で俺達を見つめる受付嬢。ライデンを見つめる時間が長い気もする。
「まあ、そんなところです。遠い国から来たのですが、勝手がわからず手間取っていたのですよ……」
「そうなんですね。さぞかし名のある方なのでしょう。もし良ければ、パーティー名を教えてもらえませんか?」
「ええ……そ、そう、七星神です」
パーティー名など決めていなかったが、つい七星神の名前を出してしまった。
あっ、七星神は言わない方が良かったのか?
「七星神……それって、古の伝説のか?」
俺達が話しているところに一人の冒険者が割り込んできた。
「おいおい、七星神とか大層な名前を付けるじゃねーか、ボーズたち」
鍛えられた屈強そうな体と、長年の冒険者稼業でできた傷。ヒゲをたくわえた中年男性だ。
ボーズという呼び方には少し不満だが。
「オジサン、七星神を知ってるのか?」
「おうとも。今じゃ知ってるヤツも少ないだろうがな。古の伝説に描かれた神の如き大英雄よ」
伝説の大英雄だと……?
「それはどんな話なんだ?」
「俺もあまり詳しくはねぇが、この国アースガルズができる前の話らしい。世界が終焉を迎え、この世界を滅ぼす大災厄が現れた時に、その大英雄が天から降臨するらしいぜ」
なっ! まるで俺達のことみたいじゃないか。俺達七星神が……この世界への一定の干渉権や管理者権限を持つ特別な存在として転生……。
つまり、天から降臨するということでは……。
「詳しいことは王都グラズヘイムの教会に行けば聞けるんじゃねぇのか」
「ああ、ありがとう……」
俺達は話を終えてギルドを出た。
しかし、七星神の伝説が気になり頭から離れない。
「おい、ライデン。どう思う?」
「んっ、七星神のことか?」
「ああ、それとジャスティスの動きだ」
ライデンは少し考えてから口を開く。
「私達が、この世界の神話にある七星神だとして、ジャスティスが仲間割れするような行動をするのが分からん……」
「それだ! 何者かが、ジャスティスを唆して仲間割れをさせている。そして国王を動かし魔族との戦争を起こそうともしている。もしかしたら、世界の終焉を目論む謎の組織とかが暗躍していたりとか」
謎の組織という言葉に、ララが食い付いてきた。
「くぅ~っ、な、謎の組織キタァァァァー! ジェイドよ、これは盛り上がってきたな。我が世界を救ってみせようぞ!」
ララのテンションが上がってしまった。何となくこういう話が好きそうだとは思っていたが。
「ジェイドさん、頑張りましょう。世界の終焉とか戦争とかダメです。平和が一番です」
ミウもヤル気になった。戦争や大きな災いは止めなければと思っているのだろう。
「とりあえず王都に行ってジャスティスを捕まえて問いただそう。何だかあいつとは会いたくないけど」
次の目的も決まったところで、俺は傍らに控えているミーニャに声をかけた。
「というわけで、ミーニャ。変なパーティーに入ってしまって嫌かもしれないが、もう少し付き合ってもらうぞ。お金も入ったし、何か美味しいものでも食べさせるからさ」
「ふにゃ。べ、別に嫌じゃないです。それに奴隷に気を遣う必要はないです」
「ミーニャ、おまえは形式的には奴隷だけど、同じパーティーメンバーの仲間だろ。食べたい物があるなら言ってみろよ」
俺の言葉に目頭を熱くするミーニャ。少し泣きそうになっているようだ。
「し、仕方ないから御主人に付き合うです。甘い物が食べたいにゃ」
仕方ないとか言いながらも嬉しそうだ。ミウに頭を撫でられてゴロゴロしている。
俺達は、甘くて美味しい菓子を食べに、街で評判のレストランに向かった。
◆ ◇ ◆
その頃――――
王都グラズヘイム (ジャスティス視点)
豪奢な造りの宮殿の玉座に、国王であるグリムガルド・フォン・アースガルズが座っている。
「なるほど、そなたが伝説の英雄だと申すのか」
ゆっくりとした口調でグリムガルドが話す。
「さっきからそう言っているだろう」
「おい、国王様に対し失礼であるぞ」
俺の言葉に側近の老人が喚き散らす。うっせぇんだよ!
「だから俺は伝説の大英雄なんだよ。さっき、あんたらの近衛騎士団が、束になってかかっても俺に勝てなかっただろ」
「ぐっ、そ、それは……」
俺が『王に会わせろ』と言っても無理とか抜かすから、ちょっとボコってやったまでだ。
「とにかく、魔族がこの国に侵攻しようとしてんだよ。俺が指揮を執ってやんから、今すぐ軍を出せって言ってんの。お分かり?」
◆ ◇ ◆
再びウルズの街――――
「美味いなこれ」
「美味しいですね。ジェイドさん」
「うむ、美味であるな」
「にゃにゃ」
ムシャムシャとパンケーキのようなスイーツを食べる俺達に、ライデンが何か言いたそうにしている。
「ジェイドまで一緒になって……ふふっ、貴様も甘党だったのか?」
「甘い物好きには男女関係ないだろ。ライデンも食え」
「ふふっ、そうさせてもらうか」
俺達は儲けた金でスイーツを食いまくった。大金なので、スイーツでは使い切れそうもないが。




