第27話 レベル上げ担当大臣のライデンちゃん
俺がライデンを連れて冒険者ギルドへと戻ると、ミウ達がクエスト選びで話し合っているところに出くわした。
「やはりここは、飛竜をドカーンっと」
ララが飛竜退治を主張する。
「飛竜なんて危険ですよ。やっぱり迷子のもふもふ捜しです」
ミウは相変わらずマイペースだ。
「にゃにゃ、どっちも極端すぎるです」
ロリなのに自称レディーのミーニャが呆れていた。
「おい、大ニュースだ」
俺が皆を集める。今から大事な話をするのだ。
「どうしたジェイドよ。やけにその女と仲が良い気がするが……」
ララがライデンを一瞥する。何やら彼女に不満でもあるようだ。
「むぅぅぅぅ~っ、やっぱりジェイドさんって、ライデンさんを狙ってるんですか?」
ミウがむくれている。まだエッチとか思っているのだろうか。
ふうっ、やれやれだぜ。
俺がミーニャに視線を移すと、イスにちょこんと座って静かにしている。一番小っちゃいのに、この中では大人な気がしてきた。
「ミーニャ……おまえはロリだけど、大人のレディーと認めよう」
「にゃにゃにゃっ! な、何です突然。何があったです、御主人」
「まあ、いいさ。それより話がある」
俺の声で皆の視線が集まる。
「突然だが、今日からここにいるエッチ奴隷のライデンちゃんが仲間に加わることになりました」
シャキィィィィーン!
「だからエッチ奴隷とか言うのをやめぬかぁーっ! は、はうぅぅ~っ♡」
ライデンが、刀を抜こうとして催淫されてしまう。俺に歯向かわないはずじゃなかったのか。
美人だし強いし、約束は違えないと思うのだが、怒りっぽいところが玉に瑕かもしれない。困ったライデンちゃんだ。
「ど、どうしたんですか突然」
「じぇ、ジェイドよ! や、やっぱりその女が好きなのかぁーっ!」
案の定、ミウとララが騒ぎ出す。
「だから、限定的に俺達に協力してくれるそうなんだよ。主にレベル上げを手伝ったりな。あと、エッチ目的じゃないからな」
そう、あの後でライデンが俺達のレベル上げを手伝うと言い出したのだ。このままのんびりしていたら、ミウのレベルが上がらないからと。
ライデンとしては、早くミウのレベルを上げて高位解呪魔法で奴隷契約を解除したいのだろう。
俺に促されてライデンが前に出た。
「もう知っているだろうが、私の名はライデン。七星神、超越者ベガ。訳あって仲間に加わることになった。よろしく頼む」
「は、はい……よろしくお願いします」
「ひっ、よ、よろしく……」
ライデンが一歩前に出て握手しようとすると、ミウとララが大人しくなった。長身で見るからに強者の風格のあるライデンにビビッているのだろう。
そのまま握手をしてライデンのパーティー加入が認められた。まだ二人は何か言いたそうな顔をしているが。
「そちらの小さなレディーもよろしく頼む」
ライデンがミーニャにも手を伸ばした。レディーと呼ばれて気を良くしたミーニャが得意げな顔で握手をする。
「よろしくです」
良かった。何とか受け入れられたようだ。これで大幅な戦力アップだぞ。レベル上げも捗るはずだ。
仲間に加わったライデンが、さっそくクエストを受けようと主張し始める。
「よし、それでは私がレベル上げ担当大臣に就任する。異論は認めないぞ」
「は?」
「えっ?」
「おい!」
「にゃ?」
突然の大臣就任に、俺達は茫然とする。
「よし、一番報酬の良いクエストを受けよう。私はスパルタだからな。泣き言は無しだぞ。行くぞーっ! えいえいおーっ!」
ライデンが体育会系っぽいノリで受付へと向かう。俺達インドア派メンバーは固まったまま彼女を見送るのみだ。
俺は、ライデンを仲間にしたのを、ちょっぴり不安に思い始めた。
冒険者ギルドの受付嬢のところに行ったライデンが、キリリと凛々しい顔でクエストを受ける。
「美しいお嬢さん、ここで一番報酬の高い依頼を受けたいのだが」
「は、はい。それならSランクのクエストが用意できます。は、はわぁ♡ 美しいだなんて」
高身長で一見どこかの歌劇団男役のようにも見えるライデンに話しかけられた受付嬢が、目をハートにしてほわほわしている。俺達への対応と大違いだ。
戻ってきたライデンが高らかに告げる。
「よし、飛竜退治に出発だ! とりあえずSランクの飛竜退治依頼を全部受けてきた。今日は終わるまで帰れないから覚悟しろよ。がははっ!」
意気揚々と冒険者ギルドを出て行くライデンに、俺達インドア派メンバーが続く。
「ジェイドさん、大丈夫なんですか?」
ミウが不安そうな顔をする。
「お、おい、我は体育会系のノリは苦手だぞ」
ララも不安そうだ。見るからにインドアの似合う女なだけに。
「ま、まあ大丈夫だろ。パーティーメンバーなら経験値が皆に配分されるから、ライデンに頑張ってもらおう」
俺も体育会系のノリが苦手なのだが、ここは皆をなだめておく。ミウたちは後方支援だから大丈夫だろう。
「ふにゃーっ、飛竜……」
ミーニャが青い顔をしてつぶやく。
「おい、大丈夫かミーニャ?」
「御主人……」
ミーニャが俺の袖をギュッと掴む。獣人族にとって飛竜は恐ろしい相手なのだろうか。
「大丈夫だ、俺達は強い。俺に任せろ」
ちょっと虚勢だが堂々としておく。こういうのは女を不安がらせてはいけないのだ。堂々としている男がモテるのだ。ネット情報だが。
◆ ◇ ◆
「よし、先ずはここだ。この街道の近くに飛竜が住み着き交易に影響が出ているらしい。スパッと片付けて次に行くぞ」
元気いっぱいのライデンが言い放った。何でこんなに元気なのか知りたいくらいだ。
「あの、先ずはここって言ったけど、もしかして他にもあるのか?」
不安になった俺が聞いてみた。
「全部で三件だな。この次が、農場の近くに住み着いた飛竜。その次に、飛竜の里と呼ばれるガルム山脈の拠点を攻撃し一網打尽だ」
「おい……」
「ええ……」
「うげっ……」
「にゃにゃ……」
俺を始め、ミウもララもミーニャも青い顔になっている。まさか、近隣全てのワイバーン退治を請け負うとは思わなかった。飛竜の大盤振る舞いだ。
「おい、一度にこなすクエストにしては多過ぎないか?」
「簡単だ。先ず、ズバッと斬るだろ。そしてバリバリっとトドメだ。貴様やララの飛行魔法で移動しても良い。最後は貴様の転移魔法で帰還だ。なっ! 簡単だろ」
「ええええ……簡単とは……?」
ライデンの話が『スバッ』とか『バリバリ』でよく分からない。
どうやらパーティーを組んだ時に、俺達のステイタスは確認済みらしい。パッと見ただけで簡単に戦術を考えてしまったのだ。
「さあっ、ちゃちゃっと片付けるぞ! はははっ!」
自信満々に歩いて行くライデン。もう、その自信をミウ達にも分けて欲しいくらいだ。
「ジェイドさん、これ大丈夫ですか?」
「ジェイドよ、わ、我は、不安で足がすくんで……」
ミウが泣きそうな顔になり、ララは恐怖で膝が笑っている。
「ま、任せろ。お、俺が付いてる」
俺は根拠のない自信で胸を叩く。もう、なるようにしかならん。
俺達は、大量の飛竜退治で一気にレベルを上げようとクエストに向かった。




