第26話 クエスト探し
翌朝、俺達はウルズの街を散策していた。
ライデンの情報では、王都にはジャスティスが向かったとのことだ。このままのこのこと王都まで行けば、あのジャスティスに鉢合わせしてしまうだろう。
攻撃された時のために、こちらもレベルを上げておかなければならない。また一方的にやられるのは避けたいところだ。
争いにならないのが一番だが、相手から攻めてきたら戦いになるのだからどうしようもない。話せば分かると言う人がいるが、世の中は話しても分からない人が多いのだ。
かの五・一五事件でも、犬養毅首相がクーデターを起こした青年将校に『話せば分かる』と言ったそうだが、問答無用で撃たれてしまったそうだからな。
そもそも、正義などと自分で名付けるくらいだからお察しなのだ。己の信念のようなものを妄信して動く人を説得するのは、並大抵のことでは無理なのかもしれない。
ガラッ!
俺達は冒険者ギルドの門をくぐった。ここでクエストを受けて、経験値とゴールドを大量ゲットする目的だ。
「ここがギルドか。ライデンが盗賊退治のクエストを受けたのもここかな?」
「何だかわくわくしますね」
「我らならばSランクのクエストでも問題無かろう」
俺の話に、ミウとララが乗ってくる。ただ、Sクラスのクエストは問題ありまくりだろう。
壁の依頼掲示板に数多くの依頼票が貼ってある。中には迷子のもふもふを捜して欲しいとの依頼から、凶悪なモンスター退治まで色々だ。
「どれにしようか? なるべく早く片付いて経験値も大量に入って報酬も高額なのが良いよな」
そんな都合のいい依頼は無いと言われそうだが。
「ジェイド、この飛竜退治はどうだ? ゲームでも定番の大型クエストではないか。心躍るぞ」
依頼票を眺めている俺に、ララが割り込んできた。
「飛竜か……強そうだけど大丈夫か?」
「我らならば簡単であろう。魔法で長距離からドカーンであるな」
ララが言う通り、七星神の魔法ならば飛竜を倒すのも可能だろう。ただ、実際に戦闘になった時には、ララもミウもパニックになって失敗しそうな気もする。
「御主人、飛竜はSランク依頼です。竜種の中では比較的低級ですが、数人で勝てるようなモンスターじゃないです」
この世界に詳しいミーニャが言った。
「確かに……強さも分からずにボス戦に向かい、パーティー全滅でゲームオーバーということも……」
俺達が話していると、受付に座っていたはずの受付嬢が、いつのまにか俺達の後ろに移動してきた。そして、独り言のようにつぶやく。
「はあっ、たまにいるんですよね。初心者なのに、いきなりSランク依頼を受けようとする駆け出し冒険者が。だいたい全滅して帰ってこないんですが」
「ギクッ!」
わざと俺達に聞こえるように言っているようだ。
「ふむ、飛竜は候補としておいて、他にも良いのがないか探すとするか」
俺が掲示板の依頼票を見ながら横に移動していると、背の高い女性とぶつかってしまった。
どんっ!
「あっ、すみません」
「いえ、こちらこそ」
顔を見合わせてお互いに固まってしまう。
「げっ、ライデン! 何でここに!」
「そ、それはこちらのセリフだっ!」
また会ってしまった。
「貴様っ! そこに直れ! は、はうぅ~っ♡」
ライデンが刀を抜こうとするが、呪いが発動してヘナヘナになる。エッチ奴隷ライデンとして、御主人様に対する反逆は許されないのだ。
「ライデン……懲りない女だな」
「ううっ、ちょ、ちょっと来い」
「何だよ……」
ライデンが俺の腕を掴み外に連れ出す。人のいない建物の裏まで連れて行かれた。
「じ、実は……頼みがあるのだが」
ライデンが思い詰めた顔で話し出す。
「何? 俺にできることなら」
「お、お願いだぁ~っ! 奴隷契約を解除してくれ。貴様のことを思い出す度に、体が疼いて仕方がないのだ。もう、一晩中ウズウズと貴様のことばかりを」
「お、おう。嬉しいこと言ってくれるじゃねーか。そんなに俺のことを想ってくれてるのか」
「ち、ちっがぁぁぁぁーう! 奴隷契約の呪いが発動すると言っているのだっ!」
ライデンが俺の肩を掴み、ガクガクと揺すっている。その顔からして、どうやら一晩中呪いでウズウズしていたのだろう。
「いや、主である俺に敵意を向けなければ普通に生活できるだろ。現にミーニャは何ともないし。ライデンが俺を倒そうとするから呪いが発動するんだよ」
「は、はぁぁ、はああぁ! こんな屈辱を受けて、倒さずにいられるかぁーっ! もう、私のプライドはズタズタだ!」
「いや、そんなこと言われても……」
「とにかく、もう貴様を害しないと約束しよう。魔族でないのは理解したからな。だから頼む。奴隷魔法を解除してくれ」
ライデンの性格からいって、約束したのなら違えないのだろう。しかし――――
「奴隷契約魔法の解除方法ってあるのだろうか? そんな簡単に魔法で解除できたら、世の中の奴隷は解除されまくっちゃうだろ」
俺が素朴な疑問をぶつける。魔法使いの解呪魔法で奴隷がポンポン解放されたら、世の中が混乱するはずだ。
「な、ななな、なんだと……それでは、私は一生貴様の奴隷なのか……」
茫然とした顔になったライデンが崩れ落ちそうになっている。ちょっと可哀想かもしれない。
「あれ? ちょっと待てよ」
「な、何か策があるのか! たたた、頼むっ!」
「おい、落ち着けライデン」
凄い食い付いてきた。長身でムチムチな女に迫られているようで、少しドキドキしてしまう。
「この世界のスキルは、英雄クラスでもレベル5までだとララに聞いた。だが、俺達は特殊な存在である七星神だろ」
「ああ、確かに私達は桁違いの強さだ」
「つまり、俺達は世界の理の外にいる存在。この世界の魔法や呪いでも超越できるかもしれない」
「と、いうことは……」
「俺の仲間のミウは高位神聖魔法を使える聖天総大神皇スピカだろ。今はスキルレベル1でザコっぽいけど、このままレベルを上げて、スキルポイントも貯まれば、きっと神官レベルが5を超えるはず。そうすれば奴隷契約さえ消し去る解呪魔法が使えるはずだ」
俺の話でライデンの顔が、見る見るうちに明るくなってゆく。あくまで俺の想像の話なのだが、それでも希望が見えてきたのだろう。
「よ、良かった。解呪できるのだな。で、それはいつできるのだ?」
「えっと……まだスキルレベル1だし、ポンコツだし、何年……いや何十年かかるのやら?」
「そんなに待てるかああああああぁぁぁぁーっ! はぁ~っ、うぐぅ~っ♡」
「お、おい、興奮するな。催淫されちゃうぞ」
何度も懲りない女だ。
強気で誇り高い女がエッチに屈服しそうな顔をしているので、こちらとしても目のやり場に困る。これが俺じゃなかったら、今頃ライデンは御主人様からエッチ攻めをされているところだろう。
俺は、目の前で催淫されている長身女を調教してみたい衝動に駆られそうになるが、ミウたちの顔が浮かんで踏みとどまる。
そして、ミウのレベルを上げながらライデンの奴隷契約を解除する方法を思いついた。




