第23話 お約束くっころ展開?
どこで覚えたのか知らないが、ララがライデンの体に亀甲縛りをしてしまう。背が高く全体的にむっちりとした大人の色気のライデンにすると、何だか背徳的な感じがする。
人の話を聞かずに突っ走るうえに滅茶苦茶強いライデンだ。元気になった途端に暴れ出したら困るので、念入りに縛るのは正しいのかもしれない。
「よし、これくらいで良いだろう。ミウ、治癒を頼む。いや、ダメージが大きそうだから、高位神聖治癒の方が良いかもな」
「は、はい」
ミウが何かを確認している。
「あれっ? 魔力が少ししかないです。あと、私の武器のところに数字が……カウントダウンしてます」
「さっきの雷神の戦槌でMPを一気に使ったのではないのか? カウントダウンはクールタイムだろ」
俺がミウのつぶやきに答える。
あれだけのEXスキルを使ったのだ。魔力消費量も多そうだしクールタイムもあるだろう。あんな必殺技を連発されたらゲームバランスが壊れるというものだ。
「高位神聖治癒の一回分は何とか残ってそうです。でも、EXスキルは当分使えないかもしれません」
とりあえずミウのヒールでライデンの傷を治癒し、眠っている御者を起こして街へと向かった。
◆ ◇ ◆
そして事態は唐突なくっころ展開になってしまう。
「くっ、殺せ…………」
色々と際どい恰好で縛られたライデンが、お手本のようなセリフをはく。羞恥と屈辱に塗れた表情まで完璧だ。
全体的に筋肉質だと思っていたライデンだが、意外に女性らしい柔らかそうな体に縄が食い込みエッチ過ぎる光景だ。特に胸の部分が亀甲縛りで強調されている。
あれから、俺達は目的の街ウルズに入った。王都から少し南西のそこそこ大きい街である。
ライデンには猿ぐつわのように布を口に回し、イッヌスーツやら何やらを被せて皆で宿屋まで運び込んだのだった。
宿屋の主人には、モゾモゾ動く柴犬の着ぐるみを着た物体をジロジロ変な目で見られたが仕方がない。
そして、猿ぐつわを外した第一声が、さっきのくっころである。
「くっ、敵に敗れたうえに情けで治癒までされ、このような屈辱的な姿を晒すなど、どこまで私を貶めるつもりだ!」
まるで猛獣のようなオーラを出しながら、気の強そうな目で俺を睨むライデン。縄を解いたら襲いかかってきそうな勢いだ。
「だから、俺は魔族でもないし敵でもないって。話を聞けよ」
「敵の言うことなど聞けるかっ!」
「くっそ、話にならねえ。敵じゃないって言ってるのに」
聞き分けのない女だな。気が強そうだしプライドも高そうだ。本当に凛々しく気高い女騎士みたいだよ。後ろが弱いとか何とか言われるキャラみたいな。
「情けなど無用! さっさと殺すがよい!」
「だから殺さないって言ってるのに。俺達に敵対しないと約束してくれたら縄を解いてあげてもいいんだけど」
「ふっ、縄を解いたら、真っ先に貴様を倒す!」
どこまでも考えを曲げないライデン。困ったものだ。
「ライデンさん。ジェイドさんは悪い人じゃないですよ」
「そ、そうだ、ジェイドは我が盟友。悪の手先ではない」
ミウとララも説得しているが、意固地なライデンは聞こうとしない。
どうしたものか……。
ふと、縛られたライデンを見ると、両手を上げたまま縛られているのでワキが丸見えだ。長身でスタイルが良く全体的にむっちりと肉感的で、ワキだけでも色っぽくてエッチな印象を受けてしまう。
うっ、今まであまり気にしてこなかったが……ワキって、めっちゃエロい気がする。
何だろう、ライデンのワキをみていると、くすぐりたい衝動に駆られてしまいそうだ。ちょ、ちょっとだけ……。
こちょこちょこちょ――
「ひゃああっ! や、やめろぉ~っ!」
つい、我慢できずにワキをコチョコチョしてしまった。さっきまで強気な姿勢を崩さなかったライデンが、身をよじってクネクネしている。
「ふっふっふっ、敵対しないと約束しない限り、全身くすぐりの刑にしちゃうぞ。いつまで耐えられるかな?」
ライデンの反応が良過ぎて、ついつい調子に乗ってしまう俺。何だか本当に悪役みたいだ。
「くっ、た、例えこの身が凌辱されようが、心までは汚されはしない! わ、私は絶対に屈したりしないぞっ!」
「ふふっ、その強気な態度も、いつまでもつかな?」
こちょこちょこちょ――
「ひゃあああぁぁ~ん! やめてぇ、ワキは弱いのっ! だめぇぇぇぇ~っ!」
まるでキャラが変わったかのように、エッチな声を上げてクネクネするライデン。ワキが弱過ぎだ。
「ううっ、こ、この程度なんてことない。わ、私は貴様に堕とされは……し、しない……あああぁ~ん! だめぇぇぇぇ~っ!」
何とか気高さを取り戻そうとするが、俺がコチョコチョすると途端に身をよじりビックンビックンしてしまう。
「ほぉ~ら、足の裏もコチョコチョしちゃうぞぉ」
こちょこちょこちょ――
「ああああぁぁぁぁ~ん、やめろぉぉぉぉ~っ!」
ぐはっ、滅茶苦茶良い反応する女だな。完璧なくっころ要員じゃないか。これはクセになりそうだぜ。
夢中でコチョコチョしていると、横から視線を感じていることに気付く。
「「「ジィィィィーッ――」」」
「えっ……」
ふと、横を向くと、ミウたちがジト目で見つめていた。
「お、おい、待て。これは彼女を敵対させないためのだな。決してエッチな気持ちでやっているわけでは……そ、その汚物を見るような目をやめろっ」
「ジェイドさん、見損ないました。やっぱりエッチ目当てだったんですね」
「ジェ、ジェイドよ、その女みたいなのが好みなのか?」
「御主人は、やっぱりヘンタイさんです」
マズい!
パーティーメンバーが軽蔑の眼差しに……。俺がヘンタイさん認定されてしまう。いや、ちょっとはエロい気持ちだったけど。これも全部、ライデンのワキがエロいのが悪いんだ。
「い、いや、くすぐり作戦も戦略の一つなんだ。重要なのは、ライデンを敵対させないことなのだからな」
「それは無理な相談だな」
皆より先にライデンが反応する。
「私は悪を許さない。縄を解いたら真っ先に貴様を倒す。私を女と思って見くびるなよ! 私は現代に甦った女武者ライデン。巴御前のように力強く、甲斐姫のように勇ましく、立花誾千代のように決して折れない!」
歴史上の女武者の名を上げて力説する。このライデンが何百年前に生まれていたら、本当に女武者になっていたかもしれない。
「立花誾千代だと。あの天下人秀吉にも屈しなかった誇り高き女武者」
「おおっ、貴様も誾千代を知っておるのか?」
「もちろんだ。強く誇り高い女性ヒロインにはロマンがあるぜ」
「同感だ。ロマンだな」
「うんうん。強いヒロインはカッコイイからな。クールに日本刀を振る女……最高だぜ」
「ふふっ、貴様は敵ながら見どころがあるな。悪の手先になどならず、私の弟子になれば立派に鍛えてやったものを」
なぜかオタクっぽい歴史ネタで俺と意気投合してしまうライデン。変なところで気が合うようだ。
「「「ジィィィィーッ」」」
俺がライデンと盛り上がっていると、やっぱりミウたちにジト目で睨まれてしまう。
「ち、違うんだ。こ、これは、そうそう、会話で和ませて打ち解けようという作戦なんだ。エッチじゃないからな」
今思いついた作戦を説明するが、皆は信じていないようだ。このままライデンを縛ったままにするわけにもいかず、俺達は途方に暮れてしまうのだった。




