第22話 EXスキル トール・ハンマー
「きゃああああぁぁぁぁーっ!」
街道の峠に叫び声が響く。俺が真っ二つにされ、仲間がパニックになっているようだ。
ごめん、みんな……俺が守るって決めたのに……ここで、ゲームオーバーに……。この世界で死んだら、俺はどうなるんだ? 元の世界に戻るのか? それとも……完全に消えてしまうのか……?
――って、あれ? 死んでないぞ。
「ぐああああっ! 痛ってぇぇぇぇ!」
強烈な痛覚で気が遠くなりそうになる。腹の部分で上半身と下半身が分かれているのだ。一瞬で横一文字に斬られてしまった。
そうだ、俺の固有スキル【暗黒神】で自己修復機能があるんだった。ヴァンパイアやアンデットのように傷が自己修復するんだよな。
二つに分かれて転がった俺の体が再生しようと細胞を伸ばしている。ちょっとキモいが仕方がない。
真っ二つでも死なないって、何気に凄い固有スキルだな。ただ、特殊な状態異常を引き起こす神器級アイテムや、即死魔法には効かないかもしれないが。
「再生しようとしているだと。やはり暗黒神の眷属、ここで完全に滅殺してやる!」
ライデンが雷切を構えたまま俺に迫る。
「ぐはっ、ま、待て……俺は魔族じゃない……」
「問答無用っ!」
くっそ、これだから脳筋は……さすがに粉々にされたら再生しないよな……。
「まま、ま、待ってください。ジェイドさんは悪い人じゃありません」
「わ、我が盟友に手出しはさせぬぞ……」
俺の前にミウとララが立つ。どうやら俺を守ってくれるようだ。
「邪魔だてするかっ! 女子供を斬るのは気が進まぬが、魔族の味方をするというのなら容赦はせぬぞ!」
「きゃああっ」
「ひいいっ」
二人はライデンの迫力でヘタレてしまい、足がブルブル震えている。これでは、とても勝負にならないだろう。
「御主人、今の内に」
ミーニャが俺の体を引っ張っている。逃がそうとしてくれているのだろう。ただ、非力なので引っ張れてないのだが。
「ミーニャ、おまえは隠れていろ」
「嫌です。御主人はヘンタイさんだけど、ミーニャの御主人です」
ミーニャ……おまえ、俺を御主人様だと認めていたのか……。
だが、このままだと全滅してしまう。何とかしないと。
ザンッ!
ビックーン!
ライデンが一歩踏み出すと、ミウとララがビックビックと震える。とても勝てる見込みはなさそうだ。
俺が何とかしないと。
痛みに耐えながら、五大原初魔宝玉を構える。ライデンに向けて魔法攻撃の体勢に入った。
「当たってくれ。雷撃よ、龍となりて全てをその顎で喰い滅ぼせ! 龍雷撃!」
ズバババババババババババァァァァーッ!
超高電圧の雷が龍の姿を形作る。放たれた雷の龍が、ミウ達を迂回して回り込み、自動追尾のようにライデンに迫る。定めた照準に確実に当てる高位雷撃魔法だ。
「なにっ! ぐわあっ!」
ズババババババァァーッ!
「おのれぇーっ!」
雷の龍を刀で止めたままライデンが後方に飛ばされて行く。
「や、やったか……?」
ババババババババッ!
「おりゃああああぁぁーっ! 破ぁぁぁぁーっ!」
ズドドドドーーーーン!
信じられない光景を見てしまう。
ライデンが龍雷撃を野太い日本刀で斬った。雷撃魔法を剣で斬るとか意味不明だ。
「ふっ、かつて戦国武将の立花道雪は雷を刀で斬ったとされる。それ以来、その刀は雷切と呼ばれ、養子の立花宗茂に受け継がれたとか。そう、この聖魔調伏刀雷切にも雷を斬る伝説が宿っているのやもしれぬな」
ライデンが自信満々にうんちくを語る。ちょっとオタクっぽくて共感してしまいそうだが、今はそれどころではない。
「覚悟せよ、暗黒神の眷属め! ここで雷切に斬られて終わる運命なのだ!」
ザッザッ!
ライデンが近付いてくる。
「終わらせませんっ! ジェイドさんは私を守るって約束してくれました。だ、だから、私もジェイドさんを守ります」
おどおどしていたはずのミウが言い放った。
「ええええ~いっ!」
ぽーんっ!
何をとち狂ったのか、ミウが専用武器【聖天神戦棍】をライデンに向かって投げつけた。
「「「ええええ……」」」
誰もがミウの突拍子もない行動に呆気にとられてしまう。ライデンまで放り投げた戦棍を目で追ってしまっていた。
しかし、その行動が思いもよらぬ事態へとなる。
『EXスキル発動条件確認。聖天総大神皇スピカEXスキル【雷神の戦槌】!』
ギュルギュルギュル――ピカァァァァーッ! ギュゥゥゥゥーン! ドカァァァァァァアアアアアアーーーーン!!!!
「ぐわああああああっ!」
ひゅるひゅると宙を舞っていた聖天神戦棍が、途中からミサイルのように超高速でライデンへと突っ込み大爆発を起こした。
山を半分吹き飛ばすほどの破壊力で、辺り一面焼け野原にしてしまう。
――――サァァァァーッ!
爆風が収まると、そこには吹き飛ばされ削られた山と炭になった木々、その中心にはボロボロになったライデンが横たわっていた。
ライデンに命中した聖天神戦棍は、クルクルと空中を回転しながらミウの手元まで戻ってきた。まるでブーメランだ。
「えええ……す、凄い破壊力だ……」
やっと上半身と下半身がくっついた俺が、ミーニャに抱かれながらつぶやく。
「EXスキルって聞こえたよな。もしかして、投げつけるのが本当の使い方だったのか?」
「ジェイドよ、き、聞いたことがあるぞ。北欧神話において、雷神トールの戦槌であるミョルニルは、柄が短くて使いにくいため敵に投げるのが正しいとか。必ず目標に命中し、そして手元に戻ってくるそうだ。そして、その威力は凄まじく一撃で死ななかったのは精霊獣ヨルムンガンドだけだと言う」
俺の呟きに、ララが早口で答えてくれる。普段の小声でボソボソしたしゃべり方ではなく、オタク的知識は凄く饒舌だ。
俺は立ち上がり、呆然としているミウの肩を抱いた。
「ミウ、よくやった。助かったよ」
「ジェイドさん、わ、私……役に立ちました」
「ああ、ミウのおかげだ」
「ううっ、うわあぁ……」
俺の胸に顔を埋めて泣くミウを、少しの間だけ優しく抱きしめてあげた。
◆ ◇ ◆
目の前に横たわるボロボロのライデンを皆で覗き込む。とりあえず瀕死になっている彼女を運んできて、馬車の横に寝かせてみた。
「どうしよう……これ」
「ジェイドさん、手当してあげましょう」
「でも、復活したら、また攻撃してきそうだし」
「それは……」
ミウは治癒してあげたがっているようだが、こんな人の話を聞かない脳筋を治癒するのは危険過ぎる。
「な、ならば、手足を縛ってから治癒するのはどうだ?」
「それだ!」
ララが良い案を出した。
確かに縛って動けなくしてから治癒すれは安全だ。
「よし、馬車にあるロープで縛ろう」
「う、うむ、キツく手足を……」
俺とララの二人でグルグルとライデンの手足を縛る。
「ついでに、こうしてこうして……ふひっ、ふひひっ」
ララが変な縛り方をしている。俗にいう亀甲縛りだ。変なプレイみたいだが、念には念を入れるのは重要だろう。




