今日も僕は、スケッチブックに星を描く――。
――冷気が肌に刺さる冬。
吐く息が空に白く漂い、手がかじかんで震える季節。
午前一時、スケッチブックを片手に、家を飛び出す。
かのじょと星々を見た、あの大草原へと足を運ぶため、ひたすらに自転車をこぎ続ける。
午前二時、目的地に到着したぼくは、暗闇の中、はかなげな色で描かれた満天の星空を眺める。
お互いに照らし合い、にらめっこをする星の集まり。
あの時と少しも変わらない光景に、ぼくは微かな安心感を得る。
午前三時、星の姿を目に焼き付け、ぼくはスケッチブックに描写する。
ぼくの描く黄色い世界で、かたち作られていくスケッチブック。
これは、ぼくを待っているかのじょへの贈りもの。
◆◆◆◆
三日後、星を描いたスケッチブックを持ちながら、ぼくは入院しているかのじょの元へと向かう。
どこが悪いのかということに関しては、かのじょは一切ぼくに教えてくれない。
何だか信用されていないようで、ぼくは少し悲しくなってしまう。
それでも、大好きなかのじょが元気になって欲しくて、今日もぼくは病院を訪ねてしまった。
病院の扉を開けるなり、ぼくの両目にうつるのは、どれだけ見ても見飽きないかのじょの綺麗な顔。
薄茶色の髪にアーモンド形の瞳を携えたかのじょが、ぼくを快く出迎えてくれた。
かのじょと会うなり、ぼくは夢中で自分のことを話し始める。
学校でのできごと、家でのできごと、そして、最近スケッチブックに星を描き始めたこと――。
かのじょは、ぼくの話をただ黙って聞いてくれていた。
かのじょの顔には、常に穏やかな笑みが浮かんでいて、それが嬉しかった。
一通り話をし終えると、ぼくは昨日描いた星たちの絵をかのじょに渡す。
かのじょは、上手になったね、いっぱい練習したんだねとぼくを褒めてくれた。
かのじょからの賞賛の言葉を聞いて、天にも昇る心地になったぼく。
ぼくはかのじょの手を取り、元気になったらまた星たちを見に行こうと、かのじょをデートに誘う。
ぼくの言葉を聞いて、かのじょは優しく微笑んだ。
「ねえ。もし私が――」
◆◆◆◆
三年後、僕は以前足を運んだ大草原で、星たちの写生をしていた。
一緒に見る約束をした人と、共に観測する予定だったその景色を、僕は一枚の絵に切り取っていく。
ふと写生をやめ、自分の隣に目をやるが、そこには誰もいない。
いつかまた、一緒に星を見てくれると思った彼女はもういない。
彼女と触れ合ったあの温もりを、僕はこれから先、永遠に感じることができない。
そんな僕を優しく照らしてくれる一つの明るい星。
その星と彼女の優しい笑顔が重なり合う。
ぽたぽたと、温かいしずくが、僕の頬を伝って落ちていく。
僕が描いた星たちが、その何かによって、流れ星のように彩られていった。
かすみがかかったようにぼやけた視界。
きらめく星たちが光る中、僕が思い出すのは、彼女がいったあの台詞。
『ねえ。もし私が元気になってもならなくても、ずっと私のことを見ていてくれる?』
ねえ――僕は今、ちゃんと君のことを見れているのかな?
ご意見、ご感想、評価等々何卒宜しくお願い申し上げます。
※詩は初挑戦でして、コメント等ございましたら、取り入れさせていただきたいです。