ダマスカス
家紋 武範様 主催の「知略企画」参加作品です!
オレは詐欺師だ。
人を欺き、金銭を掠め取る事を生業としている。
今日も今日とて、携帯を片手に『オレオレ詐欺』に励むとしようか。
プルルル、ガチャ。
「もしもしぃ、森本ですぅ」
しめしめ、良い感じにボケた婆が出やがったぜ。
「オレオレ、オレだよ」
「えっ? 『サッカーの応援歌』ですかぁ?」
「そのオレオレじゃねえよ!」
やべっ、思わずツッコんじまった。
「それでは、『マツケンサンバ』の方ですかぁ?」
「古いし! 歌から離れろ!」
なんだ、このババア? オレが求めてるのはそういうボケじゃねえよ!
いや、いかんいかん、冷静さを取り戻さねえと。
「おぬしは、わたくし『森本ヨネ』の孫息子、『森本オレ』ですかぁ?」
孫の名前が『オレ』なの? 『森本レオ』みてえだな。
まあ、孫の名前が分かったから良しとするか。
「そうそう、オレオレ『オレ』だよ」
「『オレオ』は美味しいから、わしも好きじゃよ」
誰がお菓子の話をしてんだ。
「わしはカフェ・オレより、カフェ・モカの方が好きじゃあ」
スタバじゃねえんだから。
「そうじゃなくて。オレ、車で事故っちゃってさー」
「ほおぉ、そりゃあ難儀じゃったのぅ」
「実はヤクザの車にぶつけちゃってさ、示談金を払えって脅されてるんだ。助けてくれよー」
「ヤクザ……? 何会系の何組じゃ?」
えっ、何組?
「あ、いや、組の名前までは分かんないけど……」
「ほっほっほ、昔の血が騒ぐのぅ。わしが話付けてやるけえ、場所を教えい」
急に武闘派?
「貴様に払う示談金は、鉛玉じゃあ」
「いやいや、そんなバイオレンスな感じじゃなくて、穏便に済ませたいんだけど」
「なんじゃ、つまらんのぅ」
なんだよ、このババア。実はやべえ奴なのか?
「それでさ、100万円を今から言うオレの通帳に送って欲しいんだよ」
「送りバントでかえ?」
「二塁に送るんじゃないから! 銀行のATMだよ!」
「メジャーリーグとはまた、スケールがデカいのぅ」
「それは、MLB! 一文字も合ってねえし、野球から頭を離せ!」
「うぅむ。おぬしは本当に孫の『オレ』かえ? 『オレ』はもっと優しい子だったはずじゃが」
しまった、ツッコミが激しすぎたか!?
「えーっと、今日オレ、駅前で1万円も募金してきたんだよー(嘘)」
「やっぱり『オレ』は優しいのぅ。さすがは、わしの自慢の孫息子じゃあ」
へへっ、チョロいぜ。
「しかしおぬし、さっきからずっとイライラしとるようじゃのぅ」
お前のせいだよ。
「どこか体調でも悪いのかえ?」
「あー、そういえば、最近肩こりがひどくって」
「ならば、わしが『健康になるツボ』を教えてしんぜよう」
「へえ? それはどこにあるの?」
手のひらとか、足の裏とか?
「ココにわしが持っておる。わしが丹精込めて粘土から作った『健康になる壺』。1個100万円でどうじゃ?」
そっちの壺かよ! しかも、高っけえ!
そんで、孫に売りつけるつもりかよ?
……いや、今までのババアの言動を考えたら、全ておかしい。
もしかしたら、このババアも詐欺師で、オレは『詐欺返し』に遭っているのか?
だとしたら、詐欺師が詐欺なんかに引っかかってたまるか!
「東京都在住の50代男性。『健康になる壺』を手に入れたとたんに体調が良くなり、宝くじも当たって人生が変わりました。もう、この壺は手放せません」
「パワーストーンや青汁みたいなCMすんな!」
「おぬしはだんだん、壺が欲しくなーる。おぬしはだんだん、壺が欲しくなーる」
そんなんでオレが買う気になるとでも?
い、いや、なんだ? 急に壺が欲しくなってきたぞ?
もしかしてこの声は、カリスマ性があり大衆を動かす人物が持つという、1/fゆらぎ?
「それじゃあ、今からわしが言うスイス銀行の口座に、振り込むのじゃあぁぁ」
1週間後。
「くっそー! だまされたーっ!」
オレは自分のアパートで、壺を前に突っ伏す。
どぎつい色で人面が描かれた、いかにも呪われそうな怪しいデザイン。
こんなキショいもんが、100万円もする訳ねえだろ!
オレは壺を床に叩きつけようとしたが、それもつかの間、悪巧みが閃いた。
「そうだ、メ◯カリで転売してやる!」
体調が良くなり宝くじも当たる、幸運を呼び込む『健康になる壺』、1000万円でお譲りします。
ノークレーム・ノーリターン・ノーヒットノーランでお願いします、っと。
ピコーン!
「おっ、マジか!? すぐに売れたぞ? へへっ、どこのどいつか知らねえがバカな奴だ。900万円も儲けた上に厄介払いも出来たし、言うこと無しだぜ!」
騙すより、騙される方が悪いんだよォ!
わーっはっはっ、はっはっはっ!!
また、1週間後。
ピコーン!
おっ、壺を買った奴から返信のメールが来たぞ。
たぶんクレームだろうな。バカめ、もう返品・返金は効かねえぞ?
「なになに……、『時価1億円を下らない、人間国宝『森本ヨネ』様の『健康になる壺』が、まさか1000万円で手に入るとは思いませんでした。さっそく7億の宝くじが当たり、彼女が3人も出来ました。もう、この壺は手放せません』!?」
あのババアが、人間国宝!?
あの汚ねえ壺が1億円……いや、それ以上の価値があっただと!?
なんてこった。オレはみすみす大金を稼げるチャンスを棒に振ったっていうのか……?
こんなことなら、メ◯カリじゃなくてヤ◯オクにすればよかったー!!
「どうやら、オレに詐欺師の才能は無かったようだな……」
よし! 足を洗って、これからは真っ当に生きて行く事にしよう。
900万円も稼いだ事だし、これを元手に商売でも始めるとするか。
オレには、明るい未来が待っているぜ!
コンコン。
おや、こんな時間に来客だと?
ガチャッ。
『警察ですが、署までご同行願えますか?』
THE END