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005

 クレアが掴んでいた腕を離すとフィンは自分から一歩詰め寄ってきた。


「それで! 本当なの?」


 フィンの質問に、頭を掻きながら頷く。

 真実がこんな形でフィンの耳に入ることを望んでいなかったクレアは、苦い顔のままフィンを見つめた。

 いや、でもクレアが誰と付き合っていたかなんてフィンには関係ない。


「嘘言ってごめん。でもフィンには私が誰と付き合っていようが関係ないでしょ?」

「……いやだ!」

「いやって何がよ」


 大きな青い瞳にうるっと涙がたまり、それが流れ落ちないように目に力が入っている。見上げるフィンの綺麗な瞳に吸い込まれてしまいそう。

 そこで、もしかしてフィンがロイドに惹かれており、クレアの存在を疎ましく思っているのではと思い付いた。だがロイドは今フィンのことしか好きじゃないのは誰の目から見ても分かる。


「……お、俺…」


「フィン?」


 色気のある表情に見惚れてポカンとしていたクレアの制服の上着の胸ぐらを両手で掴み、フィンは自分の方に思いっきり引っ張り寄せた。

 勢いがつきすぎたせいで二人の額がゴツンとぶつかる。引っ張る力が強く、中腰のままクレアは身動きとれずにいた。


「ちょっと、フィン?本当にどうし……」


 唇に柔らかな感触が当たり、クレアの目は点になる。覆うように重なるそれはフィンの唇だった。

 しっとり濡れた感触にクレアはパニックになる。

 そのままクレアの背中に手がまわり、自分より小柄なフィンにぎゅっと抱きしめられる。


「フィ、フィン?」


 肩を掴んで引き離そうとすると上半身だけ距離をおくことに成功した。背中にまわった手は意外と力が強くて外れない。

 フィンは顔を真っ赤にし、しかもうっとりとしていた。

 すっぽりと腕の中におさまるくらいに小柄なフィンはまたクレアに抱きつこうと腕に力をいれている。小柄な癖にフィンはバカみたいに力が強い。


「俺、寮長が……クレアさんが好きです。あの夜からずっと好きだった」


 好き好きとフィンは繰り返しクレアに告白する。まさかの展開にクレアは仰天した。

 生徒会や風紀委員、学園の高嶺の花と呼ばれる美形達に求愛される、同じく高嶺の花のフィン。生徒会長なんて今の国王陛下の末の弟で王族だ。その生徒会長もフィンの魅力の虜になっており、一目を憚らず口説いているらしいがフィンはそれさえも興味はないらしい。


 まさか誰の告白も受けなかったフィンが地味で平凡なクレアを好きだなんて思ってもいなかった。クレアは足の力が抜け、壁に寄り掛かる形で廊下にしゃがみこむ。

 そのチャンスを見逃さず、フィンはクレアに抱きつくのだがその衝撃で頭を思いっきり壁にぶつけてしまった。いたたっと頭の痛みを堪えているクレアの膝の上にフィンが乗り上がり、顔を掴んでもう一度クレアにキスをしようとしてくる。


「フィン、ダメだってば」

「やだやだ」

「やだじゃない」


 クレアはフィンの口を手で塞ぐことで抵抗し、ここから二人の攻防戦が始まった。

 手を外そうとするフィンとそれを阻むクレア。意地になって繰り返す二人は真剣だ。


「クレアさんっ、もしかしてまだロイドさんが好きなんですか?」

「ロイドは関係ない」

「じゃあ、何で?」

「好きじゃない人とキスするわけないでしょ! ふざけたこと言ってないでさっさと私から離れて」


 フィンの動きがピタリと止まる。


「ねえ。クレアさん、俺じゃだめ? 好きになってよ」

「……そもそもなんで私なのよ? フィンを好きだっていうヤツはたくさんいるでしょうが。その中から選べばいいのに」

「クレアさんがいい」

「それ答えになっていないわよ」

「俺はクレアさんじゃないとやだ!」


 やだやだと駄々をこねるフィンの顔を至近距離で見る。天使のように愛らしい顔をしたフィンに好きと言われるのはもちろん嫌な気はしない。クレアは面食いなのだ。


 でもなぜ自分みたいな地味な女が良いのかクレアには理解出来ない。


「クレアさんだけだったから。俺の今の姿見ても全然態度が変わらなかった人」


 泣きそうな顔をしてフィンは好き好きと惜し気なく告白を続ける。情熱的に求められ、クレアの心がぐらりと揺れた。

 手の力が抜けた隙にフィンは身を乗り出して顔を近づける。


「俺、ロイドさんより良い男になりますから俺を選んでください」


 穢れなんて何も知らない天使のような愛らしい少年が一瞬 男の顔になった。

 フィンは絶句しているクレアの唇に二度目のキスをする。




 フィンの告白後、二人の関係は少し変化した。


 食堂や校舎内で会った時は軽く挨拶をするくらいで、人の目がある時の二人の関係はあの日からなんら変わらない。

 変化があるとしたら夜にこっそりクレアの部屋に入っていく人影があること。もちろんフィンだ。


「クレアさん、キスしちゃだめ?」

「だめに決まってる」

「何で!?」

「私は好きな人としかそういうことはしない。毎回聞くのやめてくれないかなぁ。何回聞かれても答えは同じよ」

「えー」

「変なこと言うならもう部屋に入れないわよ」


 机に向かって勉強するクレアにフィンは甘えた声を出すのだが、ぴしゃりとはねつける。

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