ニュースタイルへん
KOGAさんをあの店に持って行ってから二週間後、僕は再び訪れることに。
クレームがあった、ロードバイクが突然しゃべりだしたから気味が悪いから引き取りに来てくれというわけではなく、普通に連絡があったからだった。
あの日、KOGAさんを採りに行った日と同様に僕は背中にリュックを背負って徒歩で。
店に入ると店員さんは挨拶もそこそこに奥から一台のロードバイクを運んでくる。
KOGAさんであった。
僕はKOGAさんのトップチューブに触れる。
「よ、久し振り」という僕にだけ聞こえるKOGAさんの声が。
「ええ、本当に」
と、心の中で返事を返す。
「それでどう、私の新しい姿は」
その言葉の通り、KOGAさんの姿は少し変わっていた。
といってもフレームの形状が大きく変更したわけではない。
変わったのは細部とホイール。
「思ったよりも良い感じですね」
「でしょ。黒は女を美しくするのよ」
かつて銀色の部品が着いていた所、正確にはコンポと呼ばれる箇所、が黒を基調としたパーツに替わっていた。
僕がKOGAさんを店に運んだのはこれを取り付ける、換装するためであった。
購入時、KOGAさんにはティアグラと下から数えた方が早いコンポが着いていた。
これ自体でもレースに出ずに走るのには十分であるのだが、KOGAさんに着けるものとしては見劣りしてしまう。
そこで以前からグレードの高いものに替えようと構想はあったのだが、諸々の事情でそれをなかなか実行に移すことができずにいた。
だが、コケて、肘が曲げにくくなり、KOGAさんに乗ることが困難に。
災い転じて福となす、というわけではないけど乗れないのであればこの機会にと思い立ち、そこからネットで色々と調べ、時には本屋で専門誌を立ち読みし、またKOGAさんに相談しながら計画を。
だが、すんなり決定というわけにはいかなかった。
大本になることはすんなりと決断できたのだが、三点ほど迷うことに。
まずはコンポの種類、これはまあすんなりと決まった。
というのもKOGAさんを買うときに参考にした漫画であったが、完成車で買うなら105、部品で買うならアルテグラ。
これに従うことに。
簡単に説明をしておくと、105は今KOGAさんに着いているものよりも一つ上のグレードのもので、アルテグラはさらにその上。ついでに言っておくさらにその上にデュラエースが。
レースに出ない身としては105でも十分以上なのだが、せっかくなのだからこの先ちょっと良いものを、それに価格もさほど変わらないし、先の参考もありアルテグラを。
だが、ここで一つのパーツ。
それはクランクセット。
ギアの歯数とクランクの長さ。この二つで悩むことに
ギアは53-39、52-36,50-34の三種類。クランクの長さは165mmから175mmまで。
悩んで結果選択したのは53-39でクランク長は170mm。
ティアグラのギアは52-39で170mm。これを基準に考え、僕の身長からすればクランク長はもう少し長くてもいいのだが、この当時のトレンド、力がないことを十分に熟知しているのでパワーではなくケイデンスで走ろうと考えた。簡単に説明するとクランクが長ければ力がいり、反対に短いとペダルを回しやすくなる。
というわけで現状と同じ長さを選択したのだが、ならばフロントアウターの歯数が増えるのは前の説明と矛盾しているのでは思われるかもしれないので説明を。これはアウターではなくインナーで選んだからである。他者と比較したことがないから、これは独断と偏見であるし、KOGAさんも同意しているけど、僕はインナーで走る機会が多い。車通りを避けるためになるだけ主要国道ではなく、裏道、旧街道、生活道路を走っている。この手の道はまあ広くはない。その上近隣の方々が往来している。そんな道をアウターギアで飛ばすのは危険であるから、いつでも止まることができる安全な速度で。それ故にインナーギアで。これなら急停止をした場合、後で再スタートがするのも楽だし。
そして53という今よりも一つ重たい歯数は、これから先KOGAさんとの走行を重ねて行けば、そのうちに踏めるようになるのではとある意味希望的かつ楽観的な思考で。
次に、ホイール、前後の車輪である。
この際だから、鉄下駄と呼称される重たいホイールから軽くてよく回転するものに替えようと画策。
だがホイール、まあるい輪っかなのに、高いものとなるとKOGAさんが何台も買えるようなお値段。レースに出ないと身としてそんな高性能なものは必要ないし、何しろ財布の中身が全然足りない。
そこでまあ、これまた色々と悩むことに。
高いものは買えないが、それでも安物でお茶を濁したくないというかなんというか。
KOGAさんに、それから換装予定のコンポに合うようなグレードのを着けたい。そしてできればリムハイトの高いものを、見た目がかっこ良いのをという願望が無きにしも非ず。
リムとは車輪の縁の部分、これが高いとエアロ効果があり、巡航速度も上がるという。
落車は上りの練習の時であったが、基本的には平地を走りたい。KOGAさん的にもそっちの方が合っている。
ということで、KOGAさんに相談すると、
「うーん、言ってることは理解できるけどさ、リムが高いと重たくなるよ」
その辺は理解している。
「それに横風にも弱くなるし」
横風はあまり好きじゃないけど風予報も見てから走るルートを決めればそれほど影響もないのでは。
「あ、後は剛性も高くなるよ」
これにはちょっと戸惑ってしまう。
僕の貧脚では、かなり経つのにまだKOGAさんに踏み負けている。そこにさらに剛性の高いホイールを履いてしまったら、肘が治ったと思ったら今度は脚が壊れてしまうのではと考えてしまう。
「まあ、ゆっくり考えなよ。しばらくの間は今のホイールでも大丈夫だから」
そんな言葉を貰い、考えあぐねた結果、今回は保留にしようという結論をKOGAさんと二人で出し、そしてグレードアップのためにコンポの注文をしに店に行った時である。
そこに一組のホイールが目に入る。
検討していたホイールのローハイトのもので、しかも定価価格よりもかなりお安くなっている。お買い得品である。
が、即座に決定というわけではなかった。
KOGAさんまずは相談を。といっても電話やメールができるわけでもないので家に帰ってから伝えたのだが。
「いいんじゃない。ローハイトなら剛性もそんなに高くなくて」
というわけでこのホイールを買うと決断したわけでだが、
「そんなにお買い得品ならもしかしたらもう売れちゃってるんじゃないの」
というKOGAさんに言葉に、翌朝開店と同時に電話を入れ取り置きをしてもらうことに。
それからついでと言っては何だがサイコンも新調。
ケイデンスが計れるモデルを。
これがKOGAさんのニュースタイルであった。
本文では書き忘れていましたが、サイコンも新調しています。
ケイデンスも計れようになりました。




