オチへん
KOGAさんとの走行を日々楽しんでいた。
クリートの位置をあれから一度、後方にずらし、それからまた前目にして、そこからほんの少し後方に下げた場所がなんとなく踏み心地が良く、重心も取れているような気もし、そして何よりも僕の踏み出すパワーがKOGAさんに一番伝わるような感じであった。
そしてもちろんのことクリートの脱着も問題なく、手ではなく足だけど、赤子の手をひねるような簡単に行うことができるように。
しかしながら慣れた時こそ危ないものである。
これに僕も不覚にも陥ってしまうことに。
冬の足音が少しずつ聞こえてきた十一月、僕はKOGAさんとの練習を。
といっても本格的なものではなく、レースに出るような人のとは全然違う、それでも少しでも速くKOGAさんを走らせたいと思い練習をすることに。
距離を乗ることも大事ではあるが、平地ばかり走っていてはあまり力はつかないというネット記事を見て、苦手ではあるが坂を上って練習をしようと決意。
しかしながら、長い、勾配のきついのを上る、目的のある練習とはいえ、辛いのはちょっと嫌であるのもまた偽りのない心情。
近所にまあ良い場所があるのだが、夏の何度か走ってKOGAさんを速く走らせることができないだけなら兎も角、あまりに遅さに心が折れそうになったことが。
それを克服するのが練習であると言われればそうかもしれないが、そこまでのガチ勢でもない。
ネットで国土地理院の地図とにらめっこをし、家の周辺を詮索。
長く続く坂でありながら、勾配はさほどきつくない坂を発見。
その坂は大型が多く走行していたのだが、道幅がまあ広く、その上その坂に沿うように、上りに使用した場合左側に、側道とも農道ともいえるような道があった。
広い道で上り、狭い道けど交通車両のほとんどいない道でゆっくりと下る。
そこを何度か往復。
最初は軽いギアで、インナーローで、クルクルと回しながらゆっくりと。心拍にあまり負担をかけず、筋肉が目覚めるように、まあウォームアップのようなものである。
軽く上って、ゆっくり下って、今度もフロントはインナーのままだけど、リアのギアを少し重たくして、ケイデンスを上げて上る。
当然心拍は上がるがこれも練習の一環。
「これなら心拍計も買ってもいいんじゃないの」
と、KOGAさんに言われて、それもそうかもとは思いはしつつも、そこまで本格的に乗るわけでもないし、と思い、未だに購入には至ってはなかった。
話を戻す。
三度目の上りはフロントをアウターにして。リアもトップ、一番重たい状態にして上る練習をしようと当初は考えていたのだが、そんなギアで上るような筋力には当然ながら僕には無く、KOGAさんからも「そんなことしたら膝とか腰を故障するわよ」と釘を刺されたので、ミドル位、具体的には15Tか19T、で。
速度は出ないがそれでも最初は何とかKOGAさんを前に、つまり上らせることができていたのだが、僕の非力な脚ではそれを継続できず、ギアを落とす。一度落とすと後はもう落ちる一方であった。上り終える頃にはフロントはインナーに。
まあ、最初だからこんなものとKOGAさんに慰められて帰宅。
こんな具合の練習を数日続けていた。
その日は調子が良かった。
最初から軽く上れたし、最後の、これは風の影響が多大にあると思うけど、インナーの落とすことなく、なおかつずっとシッティングで上ることが。
ちょっとした達成感のようのものを胸に、僕はKOGAさんをそのまま真直ぐに走らせた。
帰宅するときは側道に入るのではなく、そのまま道を進んで下ることに。
そしてここで悲劇が起きてしまった。
その道は練習で使用している道は大型でも全く問題がなくすれ違うことができる二車線なのだが、その反対側、つまり帰宅ルートは道幅がかなり狭い、普通車でも離合するのにちょっと注意が必要なくらいであった。
下りを開始しようと矢先にブラインドコーナーから大型の影が。まあそれだけならばさして問題はないのだが、背後から迫るエンジン音が耳に。
「来てるよ、後ろから」
KOGAさんからも注意の声が。
丁度良い具合に、少し先に路肩というか空き地というか、兎に角退避スペースがあった。
そこにKOGAさんを。
と、同時に停車のために左足のビィンディングを外す。
外すはずだったのだが、左足を外に捻っても全然外れるような気配がない。
焦る。
焦ると大体において碌なことが起きないのは世の常であり、この時もが多分に漏れたなかった。
焦ってもがけばもがくほど外れない。
いつも簡単に外せることができない。
バランスが崩れる。
左に僕の体KOGAさんが傾く。
僕は反射的に左手を突き出した。
脳内にKOGAさんの声が、
「ダメー」
落車。
左手に衝撃
KOGAさんの車体には傷はなかったが、僕が負傷。
左肘が曲がらなくなった。




